「いい景色だな」
突然後ろから声をかけられ、あたしははじかれたように振り向いた。
「西門さん。びっくりした」
ここは、城の一番上にある屋根裏部屋のような場所だった。
むき出しの石の壁に囲まれた小さな部屋で、城内を探索しているときに見つけたのだ。
四方に小さな窓があるその部屋には蝋燭が1本置かれているだけで、他には明かりもなく殺風景な部屋だった。
でも、とにかく広すぎるこの城内で狭い空間と言えばトイレくらいのものだったので、シンプルなこの狭い部屋はあたしにとってなんとなく落ち着ける空間だった。
窓からは白い波がきらきらと光る海が見えた。
「まさか、ここにもカメラが仕掛けられてたりするの?」
あたしの言葉に西門さんは肩をすくめた。
「さあな。俺も詳しくはしらねえよ。あの道明寺家の城だからな。何か仕掛けがあってもおかしかねえけど」
そう言いながら、あたしの隣に並ぶ西門さん。
「俺は、どんなとこでもお前が隣にいてくれれば良いけどな」
甘さを含んだ瞳を向けられて、どきりとする。
「な、何言って・・・・・」
思わず目をそらすと、西門さんの繊細な掌があたしの頬に触れる。
「俺は、本気だから。お前も・・・・・ちゃんと俺を男として見ろよ」
その手から逃げようとした瞬間。
あたしの体は壁に押し付けられ、そのまま唇が重ねられたのだった・・・・・。
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「こんなとこにいたのか」
キッチンで紅茶を入れていたあたしのところへ顔を出したのは、美作さんだった。
「紅茶くらい、入れてもらえば」
「逆だよ。紅茶くらい、自分で入れられる。あんたたちと違って、あたしは使用人なんか使ったことないんだから」
あたしの言葉に苦笑し、美作さんがあたしに近づく。
「じゃ、俺の分も入れてくれよ」
「良いよ。なんかいろんなのあるけど、あたしと同じでいい?アプリコットティー」
「ん」
頷きながら突然身をかがめ、触れるだけのキスをしてくるからあたしの頭が一瞬真っ白になる。
「―――ちょっと!」
「隙あり。油断するなってことだよ」
にやりと不敵な笑みを浮かべる美作さん。
「どうも俺は、お前にとって危険な男とは認識されてないらしいからな。それはそれでおいしい部分もあるけど。俺もやっぱり男だってこと、忘れんなよ」
言いながら、キッチンを出て行く美作さんを。
あたしは金魚みたいに口をパクパクとさせながら見送ったのだった・・・・・。
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