「司との婚約を解消したってとこが、気に入られたみたいだな」
そう言って西門さんがにやりと笑った。
「そうそう。あの道明寺家相手に、たいした女性だってうちの親父も感心してた」
おかしそうに笑いながら、美作さんが続けた。
「あの女性なら、花沢家の嫁として申し分ないって」
嬉しそうに話す類。
ちょっと待って。
そんなの聞いてないんですけど!?
「ど、道明寺は?だって、あの魔女、あたしのこと徹底的に嫌ってたじゃ・・・・・」
「それが、3人の家がそう言い始めたとたん、ころっと態度変えやがって」
そう言って道明寺は溜め息をついた。
「道明寺家の嫁になるのは牧野つくししかいない、ときやがった」
あたしはあんぐりと口を開けたまま、暫し固まっていた。
寝耳に水。
あたしの知らないところで、なんだってそんな話になってるの!?
いっそのこと、もう一度1人で無人島に逃げ出したい気分だった・・・・・。
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『牧野つくし争奪戦!F4を手玉に取る女の全貌!』
女性週刊誌の表紙に踊るその文字に、あたしはくらりと眩暈を感じた。
あの無人島が実は道明寺家の所有している島で、最初から船はあそこに着くことになっていたこと。
島のあちこちにカメラがセットされていて、あたしたちのやり取りの一部始終が撮影されていたこと。
その映像がネットの動画サイトで毎日生中継されていたこと。
あたしが4人の中から誰を選ぶのか、予想サイトまであった事―――。
ここへ帰ってきてから知らされたことは、あたしの想像をはるかに超えていた。
今が夏休み中でよかったと、安心している場合じゃない。
家の外には、マスコミに混じって一般の人たちまでカメラ片手にあたしが出てくるのを待っていた。
「もう、どうすりゃいいのよ・・・・・・」
溜め息とともに呟いたとき。
「牧野」
小さくあたしを呼ぶ声に驚いて振り向けば。
なぜか窓の外に、花沢類の笑顔。
「花沢類!?何してんの!こんなとこ見つかったら―――」
慌てて窓を開け、類を中に入れる。
「大丈夫。連中は表のほうに引きつけてるから」
にやりと笑って言う類。
「どういうこと?」
「説明はあと。準備して」
「は?なんの?」
「出かけるんだよ」
「どこへ?」
そう聞くあたしに。
花沢類は、無邪気な笑顔でこう、答えた。
「あの島に、戻るんだよ」
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