***君しか見えない vol.2 〜風爽〜***

 


「爽子に兄ちゃんなんていたっけ?」

千鶴の言葉に、翔太は肩をすくめた。

「いとこだって」

「いとこねえ。爽子にも聞いたことないけど・・・・・で、目の前で爽子かっさらわれて、それをあほ面下げて見送ってたわけ?」

容赦のないあやねの言葉に翔太もぐっと詰まる。

「仕方ないだろ、本当に突然で、あっという間に連れてかれちまったんだから」

昨日、爽子と下校途中に出くわした爽子のいとこ。

『えーじお兄ちゃん』と爽子は呼んでいた。

そのいとこの乗ったバイクに爽子は乗り、そのまま行ってしまった。

情けないことに、それを呆然と見送るしかできなかった翔太。

あの後、いったいどうなったのか。

『今日からおまえんちに世話になるから』

そう言っていたあの男。

あのまま爽子の家に行き、爽子の家で生活する、ということなのだろうか。

そんなこと、考えただけでもむかむかしてくるというのに。

それを確かめる勇気もないなんて―――。

「ねえ、ちょっとあれ」

あやねが、窓の外に目を向ける。

「あのバイクの後ろ―――爽子じゃない?」

それは、今まさに校門の前に止まろうというバイクに乗った男女。

後ろに乗っている長い髪の女の子。

バイクから降りると、ヘルメットを外し―――

「あ、ほんとだ。ってことは、あの男がいとこ?」

千鶴も窓から身を乗り出して見る。

「へえ〜、爽子のいとこだっていうからどんな陰気な奴なのかと思ったら(失礼)イイ男じゃん。ちょっと好みかも」

「お、矢野ちんのレーダーに引っかかっちゃった?」

にしし、と笑う千鶴。

だけど翔太はそれどころではなくて。

校門の前で楽しげに話す2人の姿が。

男に向けられる爽子の笑顔が。

翔太の胸をざわつかせていた―――。







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