「爽子に兄ちゃんなんていたっけ?」
千鶴の言葉に、翔太は肩をすくめた。
「いとこだって」
「いとこねえ。爽子にも聞いたことないけど・・・・・で、目の前で爽子かっさらわれて、それをあほ面下げて見送ってたわけ?」
容赦のないあやねの言葉に翔太もぐっと詰まる。
「仕方ないだろ、本当に突然で、あっという間に連れてかれちまったんだから」
昨日、爽子と下校途中に出くわした爽子のいとこ。
『えーじお兄ちゃん』と爽子は呼んでいた。
そのいとこの乗ったバイクに爽子は乗り、そのまま行ってしまった。
情けないことに、それを呆然と見送るしかできなかった翔太。
あの後、いったいどうなったのか。
『今日からおまえんちに世話になるから』
そう言っていたあの男。
あのまま爽子の家に行き、爽子の家で生活する、ということなのだろうか。
そんなこと、考えただけでもむかむかしてくるというのに。
それを確かめる勇気もないなんて―――。
「ねえ、ちょっとあれ」
あやねが、窓の外に目を向ける。
「あのバイクの後ろ―――爽子じゃない?」
それは、今まさに校門の前に止まろうというバイクに乗った男女。
後ろに乗っている長い髪の女の子。
バイクから降りると、ヘルメットを外し―――
「あ、ほんとだ。ってことは、あの男がいとこ?」
千鶴も窓から身を乗り出して見る。
「へえ〜、爽子のいとこだっていうからどんな陰気な奴なのかと思ったら(失礼)イイ男じゃん。ちょっと好みかも」
「お、矢野ちんのレーダーに引っかかっちゃった?」
にしし、と笑う千鶴。
だけど翔太はそれどころではなくて。
校門の前で楽しげに話す2人の姿が。
男に向けられる爽子の笑顔が。
翔太の胸をざわつかせていた―――。
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