一ノ瀬と出かけることに、罪悪感がなかったといったら嘘になる。 龍太郎の顔が一瞬脳裏を横切ったことも本当だ。 でも・・・ヒトミは、今は龍太郎のことを考えたくなかったのだ・・・。
「・・・・・・いい度胸じゃねーか・・・・・」 マンションから、ヒトミと一ノ瀬が仲良く出かけていくところを、龍太郎がベランダから見ていたことに、2人は全く気づいていなかった・・・。 龍太郎が目覚めたのはつい30分ほど前のことだ。 強烈な頭痛に、またやっちまったかと思いながらも、かわいい恋人との約束を思い出す。 確か今日は、先週封切りになった映画を見に行くことになっていた。 ずっとヒトミが見たいと言っていた映画だ。 朝、支度が出来たら部屋に来ると言っていたが・・・。 時計を見てまだ余裕があることに気づき、龍太郎は痛む頭に顔をしかめながらも出かける準備を始めたのだった。 そして30分後・・・ そろそろ着てもいいころだ。 というか、いつもだったらとっくに来て、龍太郎が準備を終えるのをニコニコしながら待っているころだ。 ―――兄貴に見つかったか・・・? 一抹の不安を感じ、部屋の外で待ってようかと立ち上がったとき・・・その声が、聞こえた。
「お待たせしました!」 「・・・・・・・・・」 その声は、どう考えても龍太郎の部屋の前ではなく、マンションの外から聞こえたものだった。 そしてベランダへ出て・・・・その光景を、見ることになったのだった・・・。
一ノ瀬と動物園へ出かけたヒトミは、めいいっぱい楽しんでいた・・・いや、楽しんでいたつもりだった。 「そろそろ帰るか」 動物園を一通り見終わったころ、一ノ瀬が口を開いた。 「え?」 ヒトミが驚いて一ノ瀬を見る。 一通り見終わったといっても、時間はまだ2時になったばかりだ。帰るには早い時間だと思ったが・・・。 「帰りたいんじゃないのか?・・・気になることがあるんだろう」 ヒトミを見下ろす一ノ瀬の瞳は冷静で、ヒトミの心の中を全て見透かしているように見えた。 「そんなこと・・・ないです・・・」 そう笑って言うものの、嘘のつけないヒトミの顔は、笑顔とは程遠いものだった。 「無理はするな。気になっていることがあるなら、ちゃんとそれを解決しろ。その結果が・・・お前の悲しむようなことだったら、そのときは遠慮なく俺のところへ来ればいい」 「・・・一ノ瀬さん・・・」 「・・・飯ぐらいは、おごってやってもいい」 そっけないせりふも、一ノ瀬の優しさだ。 ヒトミは、ともすれば零れ落ちそうになる涙をぐっと飲み込み、こくりと頷いた。 「ありがとうございます・・・・」 下を向いて涙をこらえているヒトミの頭を優しくなで、一ノ瀬はその肩を抱き促した。 「・・・帰ろう・・・」 「はい・・・・」
マンションに着くと、エントランスには腕組みをし、これ以上ない不機嫌な顔で立ち塞がる龍太郎がいた―――。
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