-soujirou-
ようやく結婚できると思って、決まったときは天にも昇る気持ちだった。
お互いの両親にも認めてもらったし、2人の間には何の障害もないはずだった。
なのに・・・・・
ここ数日、牧野は心ここにあらずで考え込んでいることが多かった。
それでも、マリッジブルーかもしれないしそのうち元に戻るだろうと考えていたのだ・・・・・。
「マリッジブルーだろ。気にすることないんじゃねえのか」
その日の夜、司とクラブで会った。
2人で飲むのも久しぶりだ。
その司の言葉に、俺は溜め息をつく。
「俺もそう思いてえけど・・・・・」
「何だよ、弱気だな。らしくねえぞ。そんなこと言ってると本当に俺が攫ってくぞ」
にやりと笑いながらそう言う司を、軽く睨みつける。
「だから、お前のは冗談にならねえんだって。そんなことさせねえよ。ただ・・・・・あいつが何を考えてるのか、それを知りてえんだよ。今のままじゃ安心できねえ」
「・・・・・お前の両親は、結婚を納得してんのか?」
「当たり前だろ?何だよ、それ」
「いや・・・・・。お前のお袋って、なんつうか、こう―――ちょっと俺のとこと似てるって言うか、家柄を重んじる、みたいなタイプだろ?」
その言葉に、俺は肩をすくめた。
「まあな。だけど牧野のことは気に入ってるんだ。今じゃ俺なんかよりもよっぽど牧野と話してることのほうが多い」
「ふーん・・・・・。じゃ、お前がいないとこで2人で話してたりすんのか?」
「たまにな。最近は結婚式の話なんかで俺の家に来ることも多いし、2人で話してることもあるよ」
そういえば・・・・・。
最近、俺のいないときに牧野が来ていて、その後に会うと考え事をしていることが多い気がする。
母親と、何かあるのか・・・・・?
そんなことを考え込み始めた俺を、司がじっと見ていた・・・・・。
-tsukushi-
「朝か・・・・・」
いろいろなことを考えて、結局一睡もできないまま外は明るくなってしまっていた。
「つくし、ゴミ出してきて」
母親に言われて、あたしはゴミ袋を持って外に出た。
集積所にゴミ袋を置き、戻ろうとして―――
「よお」
目の前に立っていたのは、道明寺だった。
「何してんの?こんなとこで」
目を丸くするあたしを、ニヤニヤと笑いながら見ていた。
「仕事に行く前に、ちょっとお前の顔でも見て行こうかと思ってよ。お前、寝てないのか?顔色ひでえぞ」
「―――余計なお世話」
プイ、と横を向きながらも、そのまま帰ってしまうのは悪いような気がしてまた向き直る。
「何か用?」
「お前が何を悩んでるのか、総二郎が知りたがってる」
「・・・・・西門さんに、頼まれたの?」
「いいや。あいつはただ、不安に思ってるみたいだぜ。お前が結婚をためらってるんじゃねえかってな。俺は―――もしお前が結婚をためらってるんなら止めさせようと思ってきたんだ」
「止めさせる?」
「ああ。総二郎との結婚を迷ってるなら・・・・・まだ俺にも望みはあるってことだろ?」
道明寺が、真剣な瞳であたしを見つめていた。
あたしはそんな道明寺を見返し・・・・・
ふっと息を吐き出した。
「迷ってるわけじゃ、ないの」
「じゃ、何だ?悩みがあるんだろ?」
「悩み・・・・・っていうか・・・・・」
「言ってみろって。俺はこれからまた仕事だ。総二郎にちくったりしてる暇はねえからよ」
「何よそれ。暇だったらわざわざちくるわけ?」
「そりゃあ話の中身にもよるだろ。―――こりゃあ俺の勘だけど。あいつの母親と、何かあるんじゃねえのか?」
その言葉に、あたしはちょっとぎくりとする。
―――やば。
道明寺は、そんなあたしを見てにやりと笑った。
「やっぱりな。ま、気が合いそうもねえよな」
その言葉に、ちょっとむっとする。
「適当に言わないでよ。あたし別に、お義母さんのことが嫌いなわけじゃないし、うまくいってないわけでもないんだから」
「じゃ、何をそんなに悩んでるんだよ」
「―――あんたには、言えない」
「じゃ、総二郎には?」
「―――言えない。っていうか・・・・・本当はきっと、西門さんに最初に言うべきだったのよ。あの時に―――」
そう言って溜め息をつくあたしを、道明寺が不思議そうに見た。
「なんだそりゃ。さっぱりわかんねえぞ。総二郎に言うべきことなら、さっさと言えばいいだろうが」
「そうできないから、悩んでるんじゃない・・・・・」
そう言ってあたしは、再び深い溜め息をついたのだった・・・・・。
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