***言葉がなくても vol.1 〜総つく〜***



*このお話は、「言葉にできない」、「Blue Christmas」から続くお話になります。


 -tsukushi-

 考え事をしてた。

 この世にいつから嫁姑問題なんて言葉ができたのかって。

 仲が悪いってわけじゃないと思う。

 ただ、ものの価値観がちょっと違うだけで・・・・・。

 1人悶々と考えながら溜め息をついたとき、突然目の前に誰かが立ち、視界を塞いだ。

 「久しぶりだな」
 独特の低い声に、あたしは驚いて顔を上げた。

 「道明寺!」
 目の前に立っていたのは、男らしく成長し、でも少しだけやんちゃな雰囲気を残した道明寺だった。
「よお、牧野」
 そう言ってにやりと口の端を上げた道明寺。
 端正な顔立ちは変わらない。
「どうしてあんたが・・・・・いつ日本に?」
 あたしの言葉に、道明寺は肩をすくめた。
「昨日ついた。お前と総二郎が結婚するって聞いて・・・・・仕事のスケジュールを変更してきたんだ」
「結婚式はまだだよ?決まったら、招待状出そうと思ってたのに」
「・・・・・うまくいってるのか?」
 真剣な目であたしのを見道明寺の表情に、ちょっとどきりとする。
「あ、当たり前でしょ?何言ってるのよ」
「溜め息、ついてたじゃねえか。結婚、ためらってんじゃねえのか」
「そんなことないよ。今はちょっと・・・・・考え事してただけ」
「結婚のことを考えてたんじゃねえのか?あそこの家はある意味俺んとこよりも厳しいものがある。あの世界にお前がすんなりなじむとも思えねえ。総二郎の母親とお前の気が合うとも思えねえしな」
 道明寺にしては的を得ていることを言い出すので、あたしはすぐには何も言い返すことができなかった。
「あたりだろ?」
 にやりと笑ってあたしを見る目が憎たらしい。
「今なら間に合うぜ?あいつやめて、俺にしとけば」
 そう言ってぐっと顔を近づけられ、あたしは反射的に後ろに下がろうとして―――

 ぽすんと誰かにぶつかり、驚いて振り向く。

 そこには、不機嫌に顔を顰めた西門さんが。

 「・・・・・お前、いつ帰ってきたの」
 言葉とともに鋭い視線が飛び、道明寺が苦笑する。
「そう睨むなって。軽いジョークだろ」
「お前のはジョークにならねえ。大体、日本に帰ってくるなんて聞いてねえぞ」
「まあ、連絡するのも面倒だったし、来たほうが早いと思ってよ」
「で、何でタイミングよく俺と牧野が待ち合わせしてる場所に来てんだよ?」
 言われて、あたしも気づいた。
 街角の交差点。
 西門さんとはよくここで待ち合わせするけれど、考えてみれば道明寺はそんなこと知るはずもなくて。
「あ、そういえば。何であんたここにいるの?」
 とあたしが言えば、西門さんが呆れたようにあたしを見る。
「お前、今頃何言ってんだよ」
「だって・・・・・」
 そのやり取りを聞いて、道明寺がおかしそうに笑う。
「車で通りかかったんだよ。見たような女がぼんやり突っ立ってんのが目に入って、車を先に行かせてそこで降りてきた」
「ぼんやりって・・・・・」
「なんか疲れきってるように見えたぜ?大丈夫かよ、お前ら」
 その言葉に、西門さんがちらりとあたしを見る。
「考え事してただけって言ったでしょ?変なこと言わないで。波風立たせに来たの?」
「そんなんじゃねえよ。大変だろうなと思って気ィ使ってんだ、これでも。大丈夫ならいいんだ。じゃ、俺はこれから行くとこがあるから、また夜にでも連絡する」
「ああ、またな」
 西門さんがそう言い終るよりも前にその場を立ち去る道明寺。

 いつの間にか目の前にすっと止められたリムジンに乗り込む道明寺は、輝くようなオーラをまとい、それだけで周りの注目を集めてしまっていた。

 やがてリムジンが見えなくなると、西門さんがふっと息を吐き出した。
「相変わらず、嵐みたいなやつだな」
「うん、ほんと。でも帰ってくるならそう言ってくれればいいのにね」
 あたしの言葉に、西門さんが無言であたしに視線を送る。
「何?」
「―――言いたいことは、ちゃんと俺に言えよ」
「え・・・・・」
「俺たちは、これから夫婦になるんだぜ?1人で抱えこまねえで、何か悩んでることがあるんなら俺に言えって言ってんの」
「何も・・・・・悩んでることなんて」
「だけど司にはお前が悩んでるように見えた」
「それはあいつが勝手に・・・・・」
 西門さんの手が、あたしの肩を掴む。
「あいつは、ことお前に関しちゃすげえ野生の勘が働くんだ」
「西門さんは・・・・・あたしよりも道明寺のこと信用するわけ?」
「そういうわけじゃねえよ。けど、実際最近のお前は考え込んでることが多いだろうが。俺のことを気遣ってくれてんのかも知れねえけど、俺はちゃんと言ってほしいんだよ。天邪鬼も大概にしろっての」

 お互い、思う気持ちは同じなのに。
 わかっているのにすれ違ってしまう。
 
 だけどやっぱり・・・・・・
 
 「―――西門さんには、言いたくない」
 あたしの言葉に、西門さんの顔色が変わる。
「あっそ・・・・・じゃ、勝手にしろよ」
 そう言ってくるりとあたしに背中を向ける西門さん。
「どこ行くの?」
 あたしの声に、振り向きもせず。
「帰る。今日は、このまま一緒にいても喧嘩になるだけだ。お互い、頭冷やそうぜ」

 遠くなっていく彼の背中を、追いかけることができなかった。

 涙で、その後姿が霞む。

 それでも。

 あたしは西門さんの姿が見えなくなるまで、そこで立ち尽くしていた・・・・・。






  

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