***Kissxxxしよう vol.4 〜類つく〜***



 -tsukushi-

 試着室の扉を開けると、目の前に立っていたアランがあたしの姿を見てちょっと目を丸くし、口笛を吹いた。
「かわいい!すごく良く似合ってるよ」
 大げさに手を広げて感動するアランに、思わず赤面する。
 試着してみたのはクリームイエローのシフォン生地のミニワンピース。
 汚れたのはスカートだけだと思っていたんだけれど、よく見たらその上の白いブラウスにもほんの少し紅茶が飛んでいたのだ。
 よく見なければわからないくらいの目立たないものだからと言ったのだけれど、アランが、それでは気がすまないからと譲らなかったのだ。
 アランが選んでくれたのは、とても女の子らしいデザインのふわりとしたワンピースで、透け感のあるシフォン生地が爽やかなイメージの、なんだかあたしのいつもの服装とはまったく違うような・・・・・。
「とても似合ってるよ。きっと恋人も喜んでくれる」
 にっこりと微笑むアランに、あたしは自分が赤くなってるのを感じ、恥ずかしくて顔を上げられないでいた。
「あの、でも、これ高いし、そこまでしてもらうのは・・・・・」
 いつも買っている服に比べたら、確実に0が1個多い。
 気にするなと言われても、無理な話だ。
「構わないよ。ここで君と会えたのも何かの縁だしね。きっと・・・・・君とは、また会える気がするよ」
「え・・・・・?」
 優しい笑みを浮かべるアランを、あたしは驚いて見上げたのだった・・・・・。


 「実は、これから人と会う約束をしているんだ」
 店を出ると、アランがそう言った。
 この人、あの喫茶店でも、今のブティックでももちろん外でも、かなり目立ってる。
 モデル並みにきれいな顔とスタイル、ブロンドの外人に、注目が集まらないわけがない。
 あたしはできれば、早いところこの人から離れたかったんだけど、こんな服まで買ってもらって、店を出たらすぐにさよならというわけにも行かない。
 どうしようかと思っていると・・・・・

 「牧野?」
 知っている声に振り向けば、ちょうどさっきまであたしがいた喫茶店の前に、類と静さんが並んで立っていた。
「まあ、牧野さん、久しぶり!すっかりきれいになっちゃって。見違えたわ」
「静さん!お久しぶりです!」
 慌てて頭を下げるあたしの横にいたアランが、おもむろに2人に向かって足を進めた。
「静!」

 ―――え?

 目の前で繰り広げられる光景に、あたしは驚いて言葉が出なかった。

 アランが静さんに駆け寄ったかと思うと、静さんの腰を引き寄せ、そのまま2人は口付けを交わしたのだった・・・・・。

 白昼堂々、人目もはばからず見せ付けられるラブシーン。
 しかもモデル並みの美男美女の組み合わせとなれば見るなというのが無理な話で。
 まるで映画のワンシーンのような光景に、あたしも暫し時を忘れていた・・・・・。


 「―――驚いた。アランが、静さんの恋人だったなんて」
 2人と別れ、あたしは類の車に乗せられていた。
「俺も驚いた。まさか牧野が彼と一緒にいるなんて」
「偶然なの。喫茶店で紅茶を飲んでてティーカップを持ち上げたとき、テーブルの横を通りかかったアランにぶつかっちゃって・・・・・。確かにスカートには染みがついちゃったけど、高いものじゃないし、別に良いって言ったんだよ。でも自分の気が済まないからって。律儀な人だよね」
 あたしの言葉に、類はちらりとあたしのほうを見て、ちょっと肩をすくめた。
「―――たぶん、偶然じゃないよ、それ」
「え・・・・・どういうこと?それ」
「静から聞いた。アランには、F4や牧野の話をよくしてたって。高校のころの写真も見せたことがあるって言ってたから、牧野を見ればわからないはずないよ」
 類の言葉に、あたしは目を丸くした。
「じゃあ、最初からあたしのこと知ってて・・・・?紅茶を零したのもわざと?」
「さあ、そこまではわからないけど。でも、すぐに気づいたと思うよ。牧野だってことは」
 あたしは口をあんぐりと開け・・・・・
 ぽすんと背もたれに沈んだ。
「やられた・・・・・。すっかり騙されちゃった。あたしのことかわいいとかきれいとか、うますぎると思った」
 ため息とともに呟くと、類が再びちらりとあたしを見た。
「・・・・・で、洋服とか、プレゼントしてもらって喜んでたの?」
「よ、喜んでたわけじゃないよ!ただ、どうしてもって言われて、断りきれなくて・・・・・」
「ふーん」
 再び、興味なさ気に前を向く。

 なんとなく、雲行きが怪しくなってきたような・・・・・

 「その服・・・・・」
 類が、またちらりとあたしの服に視線を送る。
「え?」
「アランが、選んだの?」
「あ・・・・・うん。あたしはあんなブティック慣れてないし、どれも高くて、好きなもの選んで良いって言われても、どれを選んだらいいかわからなくて・・・・・。だから、アランが」
「―――わかった」
 そう言うと、類は車を停めた。
「降りて」
 そう言って自分もさっさと車を降りる。
 あたしは慌ててシートベルトを外し、車から降りた。
「どうしたの?」
 類はどこか不機嫌そうな表情で・・・・・目の前の店を見た。
「ここに・・・・・用事?」
 若い女の子向けのブティック。
 さっきアランと入った店に負けず劣らず高級そうな洋服が並んでいた・・・・・。

 類はあたしの手を取り、さっさとその店へと入っていった。
「類?どうしたの?」
 いつもと様子の違う類に、あたしは戸惑っていた。
「・・・・・着替えて欲しいから」
「え?」
「その服・・・・・。あいつの選んだ服、いつまでも身につけてて欲しくない」

 そう言った類の瞳は、拗ねたようにあたしを見つめていた・・・・・。






  

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