***Kissxxxしよう vol.3 〜類つく〜***



 -tsukushi-

 『終わったら電話するから、いつもの店で待ってて』

 そう言われて、バイトが終わるといつも2人で行く喫茶店に入ったあたし。

 窓から見える人の波をぼんやりと眺める。

 ―――今頃、静さんと会ってるんだよね・・・・・

 気にならないわけ、なかった。

 静さんは類にとって特別な人。

 『特別は、牧野だけ』

 そう言ってもらえて、嬉しいけれど・・・・・


 ぼんやりしたまま、目の前のティーカップを持ち上げ口に運ぼうとしたその時―――

 横を通り過ぎようとした人の体がトン、とあたしの腕に触れ、中の紅茶が零れてしまった。
「あっ」
 淡いクリーム色のスカートに見る見るうちに紅茶が染みを作る。

 ―――げっ、これ買ったばっかりなのに・・・・・

 「ああ、すいません」
 その声に、思わずきっと攻めるような視線を向け・・・・・
 相手が、ブロンドの端正な顔立ちをした外人だったことにぎょっとする。
「すいません、服―――汚してしまいましたね」
 顔を見なければ、外人とは気づかないほど流暢な日本語。
 背の高い、まるでフランス映画にでも出てきそうなきれいな男の人だった。
「申し訳ない。すぐに変わりの服を―――」
 すまなそうにそう言う彼に、あたしは慌てて首を振った。
「あ、いえ、あたしもぼーっとしてたし・・・・・。気にしないでください。たいした服じゃないし・・・・・」
「でも、その格好じゃあせっかくのデートが台無しだ」
 その言葉に、あたしは驚いて彼を見上げた。
 にっこりと、きれいに微笑む。
「愛しい人を想っている顔をしてましたよ。とてもきれいで・・・・・思わず見惚れていました」
 あまりにきれいな顔でそんなこと言うもんだから、あたしは顔が熱くなるのを感じて焦る。
「き、きれいじゃないですよ。あ、あの、本当に平気ですから―――」
 慌てて手を振ると、彼はそのあたしの手をそっと掴んだ。
 大きく、暖かいその手の感触にドキッとする。
「それでは僕の気が済まない。すぐそこに君に似合いそうな服を売っているお店があったから、少し付き合ってくれないか?」
「ええ?いや、本当にあたし―――」
 慌てて断ろうとするあたしの手を、その彼は突然ぐいっと引っ張るとさっさと歩き出した。
「あの―――」
 声をかけようとよってきたお店の人に、いつの間に出したのか千円札を数枚出して渡すと、
「彼女の分と、一緒に会計しておいてくれるかい?お釣りは取って置いてくれて構わないから」
「こ、困ります!あの―――」
 店員の言葉を無視して、店を出るとそのままあたしの手を引きどんどん歩く。
「あの、ちょっと、待って!」
 あたしはどうにか足を踏ん張り、その場に立ち止まった。
 彼が振り向く。
「あの、困ります、本当に。知らない人にそんな―――」
「ああ、そうだね」
 そう言うと、彼はにっこりと微笑んだ。
「僕の名前はアラン。今日フランスから着いたばかりでね。ここで君のようなかわいらしい人に出会えるとは思わなかった。僕はラッキーだったよ」
「ラッキーって・・・・」
「とにかく、すぐそこだから」
 そう言ってまた、アランはあたしの手を引っ張って歩き出した。
「君のようなかわいらしい女性の服を汚して、そのままにしておくわけにはいかない。もし来てくれないなら、警察に自首するよ」
「自首!?」
「そう、女の子を傷つけてしまったってね。どう?大袈裟なことにはしたくないと思わない?」
 あたしは、あんぐりとその口を開けた。

 ―――なんて人なのよ。

 結局あたしは、アランに連れられ近くのブティックへ入る羽目になったのだった・・・・・。


 -rui-
 「ごめんなさいね、すっかり時間取っちゃって」
 静が申し訳なさそうに言う。
「いいよ。両親と、ちゃんと話ができてよかったね」
「ええ、ありがとう。やっぱり類がいてくれてよかったわ」
 そう言って静はにっこりと笑った。
「それで、その彼はいつこっちに?」
「ええ、あたしの乗ってきた次の便で来てるはずなのよ。ホテルについたら連絡してって言ってあるんだけど・・・・・」
 そのとき、静の持っていた携帯が着信を告げた。
「あ、彼だわ」
 静が、携帯を開いて耳に当てる。
 俺はいないほうがいいかと、その場を離れようとしたけれど・・・・・
「―――類!ちょっと待って!」
 その声に、足を止めて振り返る。
「なに?」
「これから彼に会いに行くんだけど、類も来て欲しいの」
「え・・・・・悪いけど俺、これから牧野と約束が―――」
 その言葉に、静がにっこりと微笑んだ。
「大丈夫よ」
 俺はその言葉に、首を傾げたのだった・・・・・。





  

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