-rui-
牧野が好きだ。
その思いは日に日に強くなっていくばかりで。
ただの友達でいることが、辛かった。
不意打ちのキスに、恥ずかしそうに頬を染める牧野。
かわいくって仕方ない。
できれば誰の目にも触れさせず、どこかに閉じ込めておきたいくらいだった。
「ベタ惚れって感じだな」
総二郎が俺と牧野の様子を見て言った。
その言葉に、牧野が真っ赤になる。
「な、何言ってるのよ、別に―――」
「ベタ惚れなのは本当のことだから、俺はいいけど」
そう言って笑うと、牧野は俺の顔を見て口をパクパクさせた。
顔を赤くして、まるで金魚みたいだ。
「うわ、付き合ってらんねえ。お前らバカップルもいいとこだぜ」
総二郎が呆れてそう言い、席を立った。
「邪魔はしねえよ。ごゆっくり」
冷やかすようににやりと笑って牧野に視線を送ると、軽く手を振って喫茶店を出て行く総二郎。
牧野はなんともいえない表情でそれを見送って―――
「顔が熱すぎて、倒れそう」
と呟いた・・・・・。
「類様、静様からお電話がありました」
家に帰ると、家政婦の竹村がそう言った。
「静から?何だって?」
「また後で電話するそうです。久しぶりでございますね。お声だけでしたが、お元気そうで」
俺が生まれる前からこの家にいる竹村は、静のことも良く知ってる。
懐かしそうに目を細める姿に、俺も静の姿を思い出していた。
『類?久しぶりね』
電話から懐かしい静の声。
「元気そうだね」
『おかげさまで。ところで・・・・・久しぶりで悪いんだけど、あなたに頼みがあるのよ』
「・・・・・なんか嫌な予感がするんだけど」
『あら、いい勘ね。実は、私と一緒にうちの両親に会いに行ってほしいのよ』
その言葉に、さすがの俺も暫し絶句したのだった・・・・・。
「静さんが、帰ってくるの?」
バイト帰りの牧野を家まで送る車の中で、俺は静のことを話した。
「ああ。日本に帰ってくる用事があって・・・・・どっかで聞きつけた静の両親が、静を呼びつけたんだって。で、1人で行くと喧嘩になりそうだから、付き添ってほしいって。牧野も行く?」
俺の言葉に、牧野は目を見開いた。
「ええ?やだよ、あたしお金持ちって苦手」
その言葉に、思わず噴出す。
「じゃ、俺も苦手?結構お金持ちのほうだと思うけど」
「や、そうじゃなくて・・・・・」
途端に慌て出す牧野がかわいくて、俺は笑いが止まらなくなる。
「やば・・・・・あんた、面白すぎ」
「もう、類って変なとこにツボがあるんだから」
ぷうっと頬を膨らませる牧野。
俺はくすりと笑い、素早く牧野の頬にキスをした。
「ちょっ、危ないよ!運転中に!」
「大丈夫。ちゃんと見てるから」
俺の言葉に、呆れたような視線を向け・・・・それでも目は笑ってた。
「・・・・・静さんの用事って?」
「さあ?仕事関係じゃない?詳しくは聞いてない。興味もないし」
「静さんのことなのに?」
ちらりと俺の横顔を見る牧野の瞳に、微かに不安の色を感じ取る。
「心配?」
そう笑って聞くと、牧野は恥ずかしそうに目をそらした。
「そんなんじゃないよ。ただ・・・・・静さんは類にとって特別でしょ?」
その言葉に、俺は肩をすくめた。
「俺の特別は、牧野だけだよ。心配しなくても、もう静のことは俺の中で思い出になってる。俺が好きなのは、牧野だけだから」
そう言って見つめれば、また頬を染めて慌て出す。
「な、何でそういうことさらっと言うかな。ちゃんと前見てよ、危ないから」
「はいはい」
くすくすと笑いながらも、俺は牧野の家へと車を走らせたのだった・・・・・。
「類、久しぶりね」
空港まで迎えに行った俺の前に現れた静。
以前よりもぐっと大人っぽく、そしてとても生き生きとした表情の静。
仕事も私生活も順調なのだろうと、その姿から容易に想像でき、俺も自然に笑顔になった。
「ごめんなさいね、無理なこと頼んで」
「別に、無理なことじゃないよ。でも、親子水入らずの場に俺がいるのも変じゃない?」
「類なら大丈夫よ。それに―――両親にどうしても報告したいことがあるの。でも、それを1人で言う勇気がなくて・・・・・。類に、一緒にいてもらえたらいえるかもしれない」
静の言葉に、俺はちょっと目を見開いた。
「珍しいね。そんな弱気なこと言うの。よっぽどの重大事件?」
「かも知れないわね。わたし―――結婚しようと思ってるの」
そう言って、静は幸せそうに微笑んだのだった。
|