***2009 Whiteday Special 総二郎編 vol.2***



 牧野の睫毛が微かに揺れ、ゆっくりとその瞳が開いた。
「牧野・・・・・大丈夫か?」
「西門さん?」
 ゆっくりと視線をめぐらし、その瞳が俺を捕らえる。
「ここ・・・・・」
「病院。よくよく、お前は病院に縁があるよな、頑丈な割に」
 そう言って軽く笑って見せると、牧野は少し顔を顰めた。
「何よ、あたしだって好きで・・・・・って言うか、いつ病院に?」
「覚えてねえか?何があったか・・・・・」
 俺の言葉に、牧野は少しの間考え・・・・・・
「・・・・・思い出した。じゃ、あれ、夢じゃなかったんだ・・・・・」
 そう呟くと、牧野は俺の方を見た。
「・・・・・西門さんは、もう知ってるの?何があったか」
「大体はな。けど、お前の口から聞きたい。何があった?」
 牧野は、天井の方に目を向け、ゆっくりと話し始めた・・・・・。


 -tsukushi-
 『花沢さんが、仕事中に事故に遭われて、怪我をされたんです!うわ言の様に牧野さんのお名前を呼んでらして・・・・すぐに来てください!場所は―――』
 あたしは、電話を切るとすぐに家を飛び出した。
 呼び止める母親に、なんて言ったかもよく覚えていない。
 とにかく急がなくちゃ。

 そうして向かった先は大きな大学病院。
 あと少しでそこに着こうという時だった。
 突然後ろから羽交い絞めにされ、車の中へ押し込まれた。

 車に乗っていたのは運転手も含めて4人の男たち。
 あっという間に目隠しをされ、猿轡をかまされ、手首と足首を紐のようなもので縛られ、身動きもできず、叫ぶことも出来なかった。
 どこへ連れて行かれるのかわからない恐怖に震えながら、車の音を聞いていた。

 着いた先は、高級そうなマンション。
 その1室に連れて行かれ、あたしを迎えたのは長い髪の毛をカールさせ、派手な化粧をしたブランド物で身を固めた女だった。
 
 女はあたしに平手打ちを浴びせると、あたしの胸倉を掴み、鬼のような形相で睨みつけた。
「誰、あんた」
 あたしの言葉に、フンと鼻を鳴らすと、あたしの体を思い切り壁に叩きつけた。
「あんたに名前を教えてやる義理はないわ。―――いい?この女を顔が見られなくなるくらい痛めつけて。もちろんその体もあんたたちの好きにしていいわ。二度と西門さんと会うことが出来ないくらい・・・・・かわいがってやんな」
 そう言うと出て行ってしまった。

 ―――西門さん

 確かにあの女はそう言った。
 そうか。あの女は、西門さんのことが好きで・・・・・それで、あたしを嵌めたんだ・・・・・。

 簡単にまた騙されてしまったことで、あたしは自分に腹が立ってしょうがなかった。
 『類が怪我をした』
 そんな言葉を聞いて、冷静さを失ってしまった。
 これじゃあ、西門さんだけじゃなくって、類にも怒られちゃう・・・・・。

 そんなことを考えていたら、突然腕を引っ張られ、床に投げつけられた。
「イタッ!!」
「こんな女のどこがいいんだか・・・・・F4も、噂ほどたいしたことねえんじゃねえの?」
「まったくだぜ。礼子さんの方がよっぽど―――」
「おいっ、礼子さんの名前出すなよ!」
「やべ、ってか、おまえだって・・・・・」
 ふーん。『礼子』っていうのか、あの女・・・・・
 てか、こいつら馬鹿?
「・・・・・あたしに触んないで」
 あたしを取り囲む男たちを睨みつける。
 4人の間をすり抜けていくのは難しい。
 どうしたらいい?
 こんなところで・・・・・やられてたまるかっつーの!
 明日は、西門さんと約束があるのに・・・・・!

「そうはいかねえよ。なあ?」
 男の1人が、厭らしい目であたしの体を嘗め回すように見る。
「ああ。あの方のご命令だからな。存分に痛みつけて・・・・・」
「まあ待てよ。その前に楽しませてもらおうぜ。好きにしていいってお許しが出てるんだし」
「そうだよな。こんなんでも、一応女だしよ。あのF4を手玉に取るようなやつだ。さぞかしいいもん持ってんだろうぜ」
 クックッといやらしく笑う男たち。
 じりじりとあたしに近づいてくるのを睨みつけながら・・・・・あたしは、必死に考えていた。逃げる方法を・・・・・


 「それで?」
「・・・・・それからは、よく覚えてない」
「覚えてないって、お前!」
「だって、仕方ないじゃない。必死だったんだもん。とりあえず近くの男の足引っ張って立ち上がって、そのまま近くの男ぶん殴って、襲いかかってきた男ぶっ飛ばしてってやってたんだけど、さすがに4人はきついよ。傍にあったクッションやら雑誌やらを投げたり電話投げつけたり、ゴミ箱振り回したり、散々暴れてやったけど、あたしも殴られちゃった。殴ったやつの顔覚えてないけど、4人とも絶対やり返してやる!!」
 あたしの言葉に、西門さんはがっくりと肩を落として溜息をついた。
「・・・・・そんだけ暴れりゃ十分だ・・・・・で、その・・・・・大丈夫なのか?」
 西門さんの言葉に、首を傾げる。
「何が?」
「だから・・・・・・やばいことはされてねえのかっての!!」

 暫くの沈黙の後・・・・・
 あたしは、漸く西門さんの言わんとしていることを理解し、慌てて首を振った。
「さ、されるわけ、ないでしょ!!変なこと言わないでよ!!」
 真っ赤になってそう叫んだ途端―――

 あたしは、西門さんの腕にぎゅうっと抱きしめられていた・・・・・。









  

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