牧野の睫毛が微かに揺れ、ゆっくりとその瞳が開いた。 「牧野・・・・・大丈夫か?」 「西門さん?」 ゆっくりと視線をめぐらし、その瞳が俺を捕らえる。 「ここ・・・・・」 「病院。よくよく、お前は病院に縁があるよな、頑丈な割に」 そう言って軽く笑って見せると、牧野は少し顔を顰めた。 「何よ、あたしだって好きで・・・・・って言うか、いつ病院に?」 「覚えてねえか?何があったか・・・・・」 俺の言葉に、牧野は少しの間考え・・・・・・ 「・・・・・思い出した。じゃ、あれ、夢じゃなかったんだ・・・・・」 そう呟くと、牧野は俺の方を見た。 「・・・・・西門さんは、もう知ってるの?何があったか」 「大体はな。けど、お前の口から聞きたい。何があった?」 牧野は、天井の方に目を向け、ゆっくりと話し始めた・・・・・。
-tsukushi- 『花沢さんが、仕事中に事故に遭われて、怪我をされたんです!うわ言の様に牧野さんのお名前を呼んでらして・・・・すぐに来てください!場所は―――』 あたしは、電話を切るとすぐに家を飛び出した。 呼び止める母親に、なんて言ったかもよく覚えていない。 とにかく急がなくちゃ。
そうして向かった先は大きな大学病院。 あと少しでそこに着こうという時だった。 突然後ろから羽交い絞めにされ、車の中へ押し込まれた。
車に乗っていたのは運転手も含めて4人の男たち。 あっという間に目隠しをされ、猿轡をかまされ、手首と足首を紐のようなもので縛られ、身動きもできず、叫ぶことも出来なかった。 どこへ連れて行かれるのかわからない恐怖に震えながら、車の音を聞いていた。
着いた先は、高級そうなマンション。 その1室に連れて行かれ、あたしを迎えたのは長い髪の毛をカールさせ、派手な化粧をしたブランド物で身を固めた女だった。 女はあたしに平手打ちを浴びせると、あたしの胸倉を掴み、鬼のような形相で睨みつけた。 「誰、あんた」 あたしの言葉に、フンと鼻を鳴らすと、あたしの体を思い切り壁に叩きつけた。 「あんたに名前を教えてやる義理はないわ。―――いい?この女を顔が見られなくなるくらい痛めつけて。もちろんその体もあんたたちの好きにしていいわ。二度と西門さんと会うことが出来ないくらい・・・・・かわいがってやんな」 そう言うと出て行ってしまった。
―――西門さん
確かにあの女はそう言った。 そうか。あの女は、西門さんのことが好きで・・・・・それで、あたしを嵌めたんだ・・・・・。
簡単にまた騙されてしまったことで、あたしは自分に腹が立ってしょうがなかった。 『類が怪我をした』 そんな言葉を聞いて、冷静さを失ってしまった。 これじゃあ、西門さんだけじゃなくって、類にも怒られちゃう・・・・・。
そんなことを考えていたら、突然腕を引っ張られ、床に投げつけられた。 「イタッ!!」 「こんな女のどこがいいんだか・・・・・F4も、噂ほどたいしたことねえんじゃねえの?」 「まったくだぜ。礼子さんの方がよっぽど―――」 「おいっ、礼子さんの名前出すなよ!」 「やべ、ってか、おまえだって・・・・・」 ふーん。『礼子』っていうのか、あの女・・・・・ てか、こいつら馬鹿? 「・・・・・あたしに触んないで」 あたしを取り囲む男たちを睨みつける。 4人の間をすり抜けていくのは難しい。 どうしたらいい? こんなところで・・・・・やられてたまるかっつーの! 明日は、西門さんと約束があるのに・・・・・!
「そうはいかねえよ。なあ?」 男の1人が、厭らしい目であたしの体を嘗め回すように見る。 「ああ。あの方のご命令だからな。存分に痛みつけて・・・・・」 「まあ待てよ。その前に楽しませてもらおうぜ。好きにしていいってお許しが出てるんだし」 「そうだよな。こんなんでも、一応女だしよ。あのF4を手玉に取るようなやつだ。さぞかしいいもん持ってんだろうぜ」 クックッといやらしく笑う男たち。 じりじりとあたしに近づいてくるのを睨みつけながら・・・・・あたしは、必死に考えていた。逃げる方法を・・・・・
「それで?」 「・・・・・それからは、よく覚えてない」 「覚えてないって、お前!」 「だって、仕方ないじゃない。必死だったんだもん。とりあえず近くの男の足引っ張って立ち上がって、そのまま近くの男ぶん殴って、襲いかかってきた男ぶっ飛ばしてってやってたんだけど、さすがに4人はきついよ。傍にあったクッションやら雑誌やらを投げたり電話投げつけたり、ゴミ箱振り回したり、散々暴れてやったけど、あたしも殴られちゃった。殴ったやつの顔覚えてないけど、4人とも絶対やり返してやる!!」 あたしの言葉に、西門さんはがっくりと肩を落として溜息をついた。 「・・・・・そんだけ暴れりゃ十分だ・・・・・で、その・・・・・大丈夫なのか?」 西門さんの言葉に、首を傾げる。 「何が?」 「だから・・・・・・やばいことはされてねえのかっての!!」
暫くの沈黙の後・・・・・ あたしは、漸く西門さんの言わんとしていることを理解し、慌てて首を振った。 「さ、されるわけ、ないでしょ!!変なこと言わないでよ!!」 真っ赤になってそう叫んだ途端―――
あたしは、西門さんの腕にぎゅうっと抱きしめられていた・・・・・。
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