「無事でよかった・・・・・」 「西門さん・・・・・」 牧野のぬくもりに俺は漸く安堵の溜め息をついた。 「ごめんな、また、俺のせいで・・・・・」 「西門さんのせいじゃないよ」 「だけど・・・・・ごめん」 「謝らないで。西門さんのせいじゃないって・・・・・」 「そうじゃなくて」 「え?」 牧野が不思議そうに俺を見上げる。 「お前をこんな目に合わせて、申し訳ないって思ってる。でも、それでも俺は、お前を離せない。お前が傍にいなきゃダメなんだ。だから・・・・・ごめん」 傷ついた牧野を見て、守ってやれなかった自分に怒りを覚えた。 俺のせいじゃないと言われても、それで納得できるわけがない。 それでも・・・・・俺には、牧野が必要なんだ・・・・・。
「・・・・・よかった」 牧野の言葉に、俺は思わずその顔を見る。 すると、牧野は俺を見上げてにっこりと微笑んだ。 「責任感じて、別れるなんて言い出したら、殴ってやるとこだった」 「お前な・・・・・それだけはやめてくれ。その後、絶対類にも殴られることになるんだから。この俺を傷物にするつもりかよ」 「だから、別れるなんて、言わなきゃいいでしょ?あたしのことが・・・・・嫌いになったって言うんなら仕方ないけど」 「アホ。それこそありえねえっつーの」 俺の言葉に、牧野が嬉しそうに笑う。 「・・・・・絶対、はなさねえから・・・・・。それから、これからは何か行動する前に必ず連絡しろよ。もう・・・・・こんな思いはしたくねえ」 そっと、牧野の顔の擦り傷に指で触れる。 こんな擦り傷はすぐに消えるだろう。 それでも・・・・・こんな風に傷だらけになった牧野を見るのは、辛かった。 「ん・・・・・わかった」 素直に頷く牧野の髪を撫でる。 そして牧野の手を取り・・・・・ 不思議そうに俺の顔を見上げる牧野をよそに、俺はポケットからあるものを取り出し、それを牧野の指に嵌めた。 それを見て、牧野の瞳が驚きに見開かれる。 「西門さん、これ・・・・・・」 「今日、ホワイトデーだろ?これを・・・・・お前に渡したかったんだ。お前が類と一緒だって聞いたときはほんとにショックだったんだぜ・・・・・」 「ご、ごめん、だって・・・・・」 「ん、わかってる。だから・・・・余計にこれ、渡さなくちゃいけないと思った」 「へ?」 「お前と、もう離れてるのは嫌だ。ずっと、いつも一緒にいたい・・・・・・。つくし」 名前を呼ぶと、牧野は頬を染めて俺を見つめた。 「俺と・・・・・結婚してくれ」 「で・・・・・も・・・・・あたし・・・・・」 「いや、か?」 俺の言葉に、慌てて首を振る牧野。 「そうじゃ、なくて。だって、家のこと、とか・・・・・」 「それは、俺がどうにかする。大丈夫。絶対、お前を幸せにして見せるから・・・・・。だから、俺についてきてくれ・・・・・」 牧野の大きな瞳から、涙が零れた。 「つくし・・・・・・?返事は・・・・・?」 流れる涙を指で救いながら、耳元に囁く。 「O.K・・・・・?」 「・・・・・O.K」 その言葉に漸くほっとして・・・・・ 俺は牧野の唇に、キスを落とした。
何度も、何度も確かめるようにキスをして・・・・・・ いつの間にか、ドアのところであきらと類がこちらを眺めているのに気付いたときの牧野の顔は、いつまでも忘れられないものとなった・・・・・。
「ご、ごめんなさい・・・・・・わ、私、彼女を傷つけるつもりは・・・・・・」 F3に行く手を塞がれた田村礼子は、壁に追い詰められていた。 「へ〜え?聞いた話とずいぶん違うな。けど、そんなことはどうでもいい。いいか、もう二度と牧野に近づくな。今度あいつに何かあったら・・・・・おれはあんたをゆるさねえ。あんたも、あんたの一族も、ただじゃすまねえと思え」 俺の言葉に、礼子は真っ青になって震えた。 俺も、これほど女に怒ったことはないと思う。 「もし牧野がこの世からいなくなったとしても、俺があんたを好きになることは絶対にない。俺が惚れる女は、どんなことがあっても牧野以外にはいねえ。・・・・・・わかったか」 じろりと睨みつけ、低い声で脅してやると、礼子は声も出せずにただこくこくと頷いたのだった・・・・・。
「・・・・・またこんなこと、あるんじゃないの」 3人で歩きながら、類がポツリと呟いた。 「・・・・・だから、結婚するんだよ。もうこんなのは冗談じゃねえ」 俺の言葉に、あきらも頷く。 「ま、そのほうがいいだろうけど・・・・・・。それで、あの牧野がおとなしくなるとも思えねえけどな」 「やめてくれ。それが1番の悩みの種なんだ。あのやろう、俺の気もしらねえで勝手に飛び回るから・・・・・」 と、類がくすくすと笑い出す。 「それでこそ牧野だよ。大丈夫。総二郎が無理なら、俺がいるし。今回みたいなことにならないように俺もなるべく傍にいる」 「・・・・・・いや、お前はいい」 「って言われると思ったけど。でも、牧野を心配する気持ちは俺も一緒だからね。たとえ総二郎と結婚しても、俺と牧野の関係は変わらないから、そのつもりでいて」 にやりと笑う類に・・・・・・・顔が引き攣るのは仕方のないところだろう。 横では、あきらがげらげら笑ってる。
まあいいか。 牧野を捕まえとくには、俺だけじゃ無理かもしれない。 一生離すつもりはないけれど。 あいつが勝手に飛び回るのを止めるのはたぶん無理だろうから・・・・・・ こいつらにも、協力してもらうしかねえよな・・・・・・
そんなことを思って、苦笑するしかない俺だった・・・・・・。
fin.
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