***ひざまくら 2***



 「浮気もの」
 告げられた言葉に、顔が引き攣る。
「だから、何でそうなるの」
「総二郎と会うこと、俺に黙ってたでしょ」
 ぷい、と顔を背ける。
 こういうところは、まるで子供みたいだ、と思うけれど。
 一度不機嫌になってしまうとなかなか機嫌を直してくれない。

 どうしたものかと思い溜息をつくと、諸悪の根源がくすくすと笑い出す。
「言いながら、牧野に膝枕してもらってくるくせにな。お前ら、相当なバカップルだぜ?」
 その言葉に、類がぴくりと眉間に皺を寄せるが、あえて何も答えず、西門さんの方を見ようともしない。

 新作着物のお披露目、というものにモデルとして借り出されたあたしは、何を間違ったか西門さんのお母さんにえらく気に入られてしまい・・・・・。
 ことあるごとにお茶会だ、また新作の着物が入っただのと言ってはあたしを招待してくれるのだ。
 もちろん気に入られて嬉しくないわけではないし、嫌われるよりはずっといい。
 でも、そうやって招待されるたびに類の機嫌は悪くなる一方で・・・・・。
 もちろん西門さんの家に行くときは類にも言っているし、一緒に行けるときは同行してもらっている。
 だけど、あたしと類の関係を知っているにも拘らず、西門さんのお母さんはにこやかにこう言い放つのだ。

 「牧野さんと総二郎さんの子供だったらさぞかしかわいい子が生まれるでしょうね」

 この言葉で、類がその日一日不機嫌だったことは言うまでもなく・・・・・

 そして今日。
 たまたま類が不在だったときに西門さんに『お袋が呼んでる』と連れ出された。
 普段話もしない母親がここのところ機嫌が良いと言うので、西門さんもあたしを連れ出したがるのだ。
 
 そうして出かけた先にいた西門さんのお母さんのお買い物に付き合い・・・・・その途中、類からの電話であたしは大学まで戻ることになったのだ。
 西門さんの車で大学まで戻ると、そろそろ空が茜色になってきていて、その茜色に照らされた芝生に、類は寝そべっていた。

 「ここで待ってるって言ってたのに」
 類はあたしたちのほうも見ずにごろりと寝返りを打った。
「そう言うなよ。ちょうどお前いなかったしさ、5時までには戻るつもりだったんだ。うちの母親の我侭だし、俺が無理に連れ出したんだ、大目に見てくれ」
 西門さんに促され、類の傍に膝をつくと類があたしの膝に頭を乗せる。

 最近、ご機嫌のよくないときの類の定位置となりつつあるそこで、類は目を閉じた。

 「・・・・・本気で、総二郎と結婚させるつもりなんじゃないの?」
 類の言葉に、あたしはちょっと笑った。
「まさか。そうじゃないから気楽に付き合えるんだよ。たぶんね、予行演習のつもりなんじゃない?お嫁さんになる人とうまく付き合えるように」
 あたしの言葉に今度は西門さんがげんなりとする。
「おい、止めてくれよ。冗談じゃない」
 そう言いながらも母親と出かけるのがまんざらいやそうでもない西門さん。
 やっぱり、家族思いな人なんだと思う。

 やぶへびと思ったのか、西門さんはその後あたしたちをまた例のごとくからかい、その場を後にした。
「・・・・・すぐに連絡しなくて、ごめんね」
 薄茶のさら髪を撫でながら、あたしが言うと類はその瞳をあたしに向けた。
「・・・・・わかってるよ。総二郎に引っ張られて行って、後はあのおふくろさんに捕まって電話する暇がなかった。だろ?」
 類の手が伸びて、あたしの頬に触れた。
「わかってると思ってた・・・・・・」
「理屈ではわかってても、やっぱりむかつく。俺がいないときにっていうのがわざとっぽい」
「まさか、考えすぎだよ。西門さんも、素直じゃないからお母さんと2人だと普通に話せないけど・・・・・間にあたしを挟んでると、ちゃんと普通に会話してる。でしょ?」
「だね。俺も驚いた。あんなに素直な総二郎は見たことないよ」
 ふっとおかしそうに笑う。
 漸くいつもの彼に戻ってきたようだった。
「でも今度から総二郎には釘を刺しておかなくちゃ。俺がいないときは連れて行くなって」
「心配ないのに」
「気付いたら西門家の嫁になってたなんてしゃれにならないから」
 首の後ろに手が回り、ぐっと引き寄せられる。
 そのまま唇が重なり、甘いひと時が訪れる・・・・・。

 「・・・・・機嫌、直った?」
 あたしの言葉に、類が優しく微笑む。
「後30分、こうしてくれてたらね」
「30分?足がしびれちゃうよ」
「牧野のこと、心配しすぎて眠くなったから。もう少し、がんばってよ」
 そう言って類は大きなあくびをすると、目を瞑ってしまった。

 あたしは溜め息をつきつつも・・・・・
 
 天使の様な類の寝顔を眺めて、柔らかな彼の髪を撫でたのだった・・・・・。






  

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