***ひざまくら***



 目の前に愛しい人の寝顔。
 膝に感じるぬくもりに、幸せを感じる昼下がり。
 時折、そっと彼を起こさないようにさらさらのその髪に触れてみる。
 柔らかくて、ちょっと冷たい感触に胸がときめく。


 ふと、脇に置いてあったバッグから振動音が響いていることに気づく。
 そっと手を伸ばし、バッグの中から携帯を取り出し。
 表示された名前を確認して、電話に出る。
「はい―――大丈夫だよ。どうしたの?―――え、いつ?今日?また急だね―――いいけど。どこに行けばいいの?―――わかった。じゃ、また後で・・・・・え?」
 電話の相手に言われた言葉に、一瞬固まる。
「な、なに言ってんのよ、西門さん!」
 電話の向こうで西門さんが笑っているのがわかり、思わずむっとする。
「もう、切るからね!」
 そう言って電話を切り、ふと下を向いて・・・・・
 バチッと類と目が合ってしまう。
「る、類、起きてたの」
「・・・・・起きてたら、まずかった?」
 なんとなく不機嫌そうな類。
「牧野の声が大きいから、目が覚めた」
「あ・・・・・ご、ごめん。つい―――」
「で?」
「へ?」
 じっと見上げてくる類。
 何か言いたげな表情。
「今日、これから総二郎と会うの?」
「あ・・・・・話、聞いてたの?」
「聞こえた。俺、何も聞いてないけど、そんな話。総二郎となんの用事?」
「えっと、実は着物の試着頼まれてて」
「着物?試着?」
「うん。今度のお茶会でちょっとした着物の発表会みたいな、ファッションショー的な催しをやるんだって。着物メーカーからの話で、試験的なものらしいけど。その着物が今日何点か届くから、その試着をして欲しいって。ほら、あそこ女の子がいないから、頼める人がいないんだって」
「ふーん・・・・・で、総二郎の家に?」
「うん」
 暫し沈黙。
 あたしの膝に頭を乗せながらも、不機嫌な顔の類。
 なんとなく気まずい。
「類?」
「・・・・・何言われたの?」
「え?」
「電話で・・・・・総二郎に何か言われて赤くなってた。何言われたの?」
「そ、それはその・・・・・」
 言われたことを思い出し、また頬が熱る。
 と、類の顔が更に不機嫌さを増す。
「むかつく」
「は?」
「そんなふうに赤くなって・・・・・総二郎と何かあったんじゃないの?」
「ま、まさか!違うよ」
 あたしは慌てて首を振る。
「じゃ、何?」
「に、西門さんが、変なこと言うから・・・・・」
「だから、何?」
「本番に備えて、角隠しの試着もしてみる?って・・・・・」
 類の瞳が見開かれる。

 大学を卒業したら、類と結婚することが決まっている。

 ついこの間正式に婚約をして、その時にも西門さんにはさんざんからかわれている。
 わかってはいても、言われるたびに恥ずかしくなってしまうのは、もう条件反射みたいなものだった。
 ちらりと類に視線を戻すと、なんとなく複雑そうな顔。
「なんか、悔しい」
「え」
「そんな会話、俺の知らないところでしてるなんて」
「だ、だからそれは、恥ずかしくて・・・・・」
「そういうかわいい顔、俺以外のやつに見せて欲しくない」
 伸ばされた指先が頬に触れ、ドキッとする。
「でも・・・・・角隠しっていうのは、いいね」
「え・・・・・」
「牧野、似合いそう」
 にっこりと微笑む類に、また頬が熱くなる。
「早く・・・・・見たいな」
「・・・・・類が、着せてくれるんでしょう?」
 その言葉に嬉しそうに微笑んで・・・・・
 そっと起き上がると、そのままあたしの頭を引き寄せ、唇を重ねた。

 「愛してる・・・・・」
 甘い声が耳元に響き、ゾクリとする。
 そんなあたしの反応を楽しむように首筋に一つキスを落とす。
「2人きりになりたい」
「でも、これから西門さんのところに・・・・・」
「ちゃんと連れて行く。だから、その前に・・・・・」
 甘い声で囁かれ、そのビー玉のような瞳で見つめられれば、拒否できるわけもなく・・・・・


 その後、西門邸に2人で現れたあたし達を見て。
 また、散々からかわれたのは言うまでもない・・・・・






 

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