***秘密の花園 vol.8 〜?つくし〜***



   「お嬢様、それは困ります」
 石田が困ったように首を傾げた。
「だって、急に辞めるわけにはいかないもの。せめて新しい人が入るまでは―――」
 あたしの言葉に、それでも石田も首を縦に振らない。
「お穣様をお守りする立場としては、すぐにでも辞めていただかないと―――」
「だから、すぐには無理なんだってば」
 負けじとあたしが言えば、石田も険しい顔で腕組みをする。

 リムジンを前に、2人で睨みあっていると―――

 「何してんだ、お前ら」
 後ろから声をかけられ、あたしが振り向くとそこには西門さんと美作さんが並んで立っていた。


   「そりゃあお前、石田がかわいそうってもんだろ」
 学校近くのカフェで3人でテーブルを囲むという、ちょっと珍しい光景。
 美作さんの言葉に、あたしをむっと顔を顰めた。
「だって、急にアルバイトやめろだなんて。あの和菓子屋さんにはお世話になってるんだから、そんな簡単に辞めらんないよ」
「けど、前とは状況が違う。そんなとこでバイトしててもし何かあったらって、石田の立場なら心配するのも無理ねえだろ。お前がバイトしてる間、誰かがそれを見張ってなきゃいけないって状況も有り得る」
 美作さんの言葉に西門さんも頷き―――
 あたしはげんなりとした。
「何それ―――。いいよもう、わかった。とりあえず女将さんに話して新しい人が決まるまでってことにしてもらうから」
「ま、慣れるまではいろいろ大変だろうけど頑張れよ。窮屈なこともあるだろうけど、今までと違って金に困ることはなくなるわけだから」
 何となく楽しそうに西門さんが言う。
「まあ・・・・・お金に困らないっていうのはありがたいけど。慣れるまでって、どのくらい?慣れないことだらけで全然想像つかないよ」
「まあ、嫌でも慣れてくだろ。大体、俺らと結婚でもすることになればそれがずっと続くわけだし」
 にやりと笑ってあたしを見る2人。
 何となくぎくりとして、身構えてしまう。
「そ、それはもっと想像つかないんだけど―――」
「そうか?意外と快適だと思うぜ。女の扱いにかけちゃ俺らの右に出る奴なんていないし」
「総二郎のはちょっと意味違うけどな。けどマジで、お前が結婚するんなら俺らくらいのやつじゃなきゃつとまんねえと思うぜ?」
「どういう意味よ?」
「その辺の男で収まるか?お前が」
 美作さんの言葉に西門さんも頷き・・・・・。
「でも、あんたたちで務まるとは限らないでしょ?だいたい、あんたたちがあたしと本気で結婚したがってるなんて思えない。何企んでるの?」
 あたしの言葉に、2人は顔を見合わせた。
「―――まああれだ。俺たちももうすぐ18。そろそろ見合いの話なんかも出てくる」
 西門さんが、急に真剣な表情になって話し始めた。
「家のための結婚も、そういう家に生まれたんだからしょうがねえってずっと思ってた。俺たちの自由なんて、あってないようなもの。結局は親の引いたレールの上を歩かされてるだけなんだって諦めもあった。けど―――そういう考えが、最近ちょっと変わってきたんだよ」
 その言葉に頷き、美作さんが口を開いた。
「ああ。牧野、お前と会って・・・・・俺らの中の何かが少しずつ変わり始めたんだ。それはきっと、他の女といたんじゃ感じなかったことだ。お前だから、そう思えたんだって思ってる。だから・・・・・もし自由に結婚相手が選べるのなら、その相手はお前がいいって、そう思ってたんだよ」

 ―――は?

 あたしは自分の耳を疑った。

 何言っちゃってるんだろう、この人たちは。

 結婚相手を選ぶならあたし?

 なんなのそれは。

 「今回の話は、俺たちにもチャンスだと思ってる」
 西門さんがにやりと笑った。
「今までは、パンピーとの結婚なんて家が認めるはずねえって思ってたから最初から眼中になかった。だけどお前が菅野家の人間だってわかった今、親が反対することは考えられねえ。だったら―――本気出してやる」
「本気って―――」
「お前と、結婚するってことだよ」
「おい、まだ早いぜ。俺だって本気だ。司だって黙ってねえだろうし―――たぶん類もな」

 信じらんない。

 本気?

 この2人が?

 一番あり得ないって思ってたことが、今目の前で展開されて。

 あたしはここ数日で、何度目かのパニックに陥っていた・・・・・。







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