***秘密の花園 vol.7 〜?つくし〜***



   F4との結婚話に、なんでだか知らないけどF4の方が乗り気で。

 あたしの方は今まで考えもしなかったこの状況に、まだ頭がついていかない。

 考えをまとめるために、広い庭をぶらぶらしていると。

 「あ―――パパ」
 庭の真ん中に作られた大きな池の中央に、浮かぶように作られた東屋。
 その中でパパが何やら雑誌を広げていた。
「つくしか。どうした?」
「ちょっと、ぶらぶらしてた。パパこそどうしたの?今日って仕事は?」
 あたしの言葉に、パパは頭をポリポリとかいた。
「うん、それが―――休暇をもらったんだ」
「休暇?どうして?」
「実は、ママが菅野家の人間だったことがいつの間にか知れ渡ってて。パパの所属を変えようっていう話になったらしい」
「へえ」
「だけどその人事がなかなか大変らしくって・・・・・その調整に時間がかかりそうだからしばらく休んで欲しいって言われたんだ」
「え・・・・じゃあ、いつまで休みなの?」
「さあ」
「さあって」
「決まったら連絡くれるって言ってたよ」

 何とも暢気というか。

 こんな調子だから今まで昇進とか縁がなかったんだと思うんだけど。

 だけど、菅野家の人間だというだけで、こうも環境が変わってしまうのかと思うと恐ろしい気もしてきた。

 「―――パパ、あたし、まだ結婚なんて言われても全然現実味ないんだけど・・・・・やっぱり決めなきゃいけないのかな」
 パパはちらりとあたしを見て―――
 それから、ポンポンとあたしの頭を撫でた。
「つくしは、つくしの思ったようにすればいいよ。結婚は、一生の問題だからね。焦って失敗するようなことがあっちゃいけないと思うし。菅野家も大事だけど―――つくしの将来は、もっと大事だよ」
「パパ・・・・・」

 思わず、涙が溢れてきた。

 「パパ、大好き」
 ギュッと抱きつくと、照れたように頬を染めるパパ。
「パパもつくしが大好きだよ」
 そう言って頭を撫でてくれるパパの手が優しくて。
 このまま、ゆっくりと時が流れていって欲しいと、そう思った・・・・・


 だけど、現実はそうもいかない。

 翌日から、進は英徳の中等部に編入することになった。

 そしてあたしが菅野家の人間であることも学校中に知れ渡ることとなり。

 周りの、あたしに対する態度が豹変したのは言うまでもない。

 あたしに意地悪していた女たちも、それから先生たちまで。

 みんながにこにこと、気持ち悪いくらいの愛想笑いを浮かべて近づいてくるのだ。

 その状況の変化に耐えられなくなったあたしは授業を抜け出し、非常階段へと向かった。

 そして、そこにはいつものように先客が―――。
「やっぱり来た」
 花沢類が、あたしを見てにこりと笑う。
「やっぱりって、なんで?」
「そろそろ来るころだと思ったから」
 あたしの気持ちを見透かしたように笑みを浮かべて言う類に。
 照れくさくなってちょっと睨みつける。
「何よ―――だって、みんな手のひら返したように態度違うんだもん。気持ち悪くって」
「そんなもんでしょ。特にここの人間は―――。でもよかった」
「何が?」
「牧野が、変わらなくて」
 ふっと微笑み、あたしを見つめる。
 そのビー玉のように透き通った瞳に、いつもながらドキッとしてしまう。
「な、なにそれ。変わるわけないじゃん」
「うん。牧野は、絶対変わらないだろうなって思ってたけど―――。逆に、反発して家を飛び出したりするかもって思ってた」
 くすくすと楽しそうに笑う類。
 あたしってどんな印象よ。
「しないよ、そんなこと。家族みんながあそこにいるのに―――。それに、お祖父さんもお祖母さんも、あたしは好きだし。まだそれほど話もしてないけど―――それでも、あの人たちがうそつきじゃないってことはわかるよ。きっと、ずっとママのことを心配してたんだろうなって。それにママも、意地張ってるけど、きっと戻りたいって思ってたんだろうなって―――。だからパパも黙ってるんだと思うし」

 あたしの結婚の話に、ママは『あなたの好きにしなさい』とだけ言ってくれた。  

 菅野家の将来のことを考えればF4との結婚という話にも賛成だけれど。

 自分がパパと駆け落ちした時のことを思うと、無理強いすることはしたくないと思ったのかもしれない・・・・・。

 そんな風に勝手に解釈したあたしは、あたしの気持ちを尊重してくれた両親のためにも、真剣に考えてみようかと思ったのだ。

 F4の誰かと結婚するということを―――。

 「―――牧野は、司を選ぶのかと思ってたけど」
 花沢類の言葉に、はっとする。
「道明寺のことは―――嫌いではないけど、結婚なんて冗談じゃないって思ってたから。あの家に嫁ぐなんてあたしには無理って」
「でも、状況は変わったでしょ」
「まあね。でも―――あいつとの結婚生活なんて、やっぱり考えられない」
「じゃあ俺は?」
「え?」
 あたしは驚いて、類を見上げた。
 ビー玉のような薄茶の瞳が、あたしを見つめていた。
「俺とだったら―――考えられる?」

 その言葉がどういう意味なのか。

 その瞳からは類の気持ちまで読み取ることはできなくて。

 あたしはすぐに答えることができなかった・・・・・。







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