「信じらんない!いきなり結婚だなんて!」
仕事があるからと屋敷を後にした祖父母の姿が見えなくなると、あたしはそう言って頭を抱えた。
「自分たちの年を考えたら、のんびり待ってられないってことだろ?」
美作さんが言うと、西門さんも頷いて。
「後を任せるにはそれなりの人物じゃないと。予想通りだな。俺たちの誰かと結婚して、企業提携する。菅野にとっても俺たちにとってもプラスになるってわけだ」
お祖父さんの話は西門さんの言っていた通りだった。
菅野家にとっても、F4にとってもプラスとなる話。
でも、それができるのは祖父母が健在である今しかない。
70を過ぎてると言ってもまだまだ元気ではあるけれど。
やはり寄る年波には勝てず、最近は物忘れするようにもなって来たんだとか。
体力的にも若いころとは比べ物にならない。
それでも、今ならまだ権力をふるうことができるから。
今のうちに、後継ぎを決めてしっかりと引き継ぎをしておきたい―――
そういう考えなのだと、お祖父さんは言っていた。
「でも、結婚なんていきなりすぎて―――」
そう言うあたしに、お祖母さんは微笑んで言った。
「もちろん、つくしに無理強いすることはできないと思ってるわ。あなたはいくらお金を積まれたって人のいいなりになるような子じゃないものね。だから―――結婚はあなたの意思に任せるつもりよ」
その言葉に、あたしは首を傾げた。
「じゃあ・・・・・無理に結婚しなくてもいいということですか?」
「そうね。でも―――本当に誰かと恋に落ちて、この人なら結婚してもいいと思うようになった時は―――この菅野家を継ぐ決心もしてほしいの」
「それは、つまり―――俺達次第ということですか?」
西門さんの言葉に、お祖母さんは頷いた。
「そうです。あなたたちがつくしのことを本当に愛して―――つくしにも愛されることができれば、この菅野家の未来につながる。つまり、菅野家の未来はあなたたちにかかっているということです」
菅野コンツェルンなんて、跡継ぎなんて知らない。
そんなことは言っていられなくなった。
「俺は構わねえぜ」
そう言ったのは西門さんだった。
「は?」
キョトンとするあたしを見て、にやりと笑う。
「最近お前、意外といい女になってきたしな。つまんねえ見合いして面白みのない女と結婚させられるよりは、お前みたいな手応えのある女の方がいいし」
「な―――何言ってんのよ!冗談じゃない!何十人も愛人作るような夫、絶対に嫌だから!」
「そうとも限らないぜ?俺だって本気で惚れればその女以外手ぇ出さねえって自信はある」
「それは信じられない」
あたしの言葉に花沢類と美作さんが噴き出す。
「俺は総二郎と違って一途だぜ?」
美作さんの言葉に、ぎょっとする。
「ちょっと、美作さんは年上が好きなんでしょ?」
しかも10以上上じゃないとだめだって聞いた。
「まあな。けど、お前はその辺の女とは違うから―――最近ちょっと気になってたんだよな」
本気とはとても思えない2人の言葉に戸惑っていると、さっきからずっと黙りこんでいた道明寺が―――
「おい、てめえら!俺の存在忘れてんじゃねえぞ!牧野の相手だったら、俺以外にはいねえだろうが!」
「やめてよ!跡継ぎだったらなおさら、あんたと結婚なんかしたらどうなるか―――!」
「どういう意味だよ!」
「言葉どおりの意味よ!あんたと結婚なんて、冗談じゃない!」
「じゃ、牧野は誰ならいいの?」
そう言ったのは花沢類だ。
一番興味のなさそうな顔して、話にも全然入ってこなかったんだけど」
「誰って―――そ、そんなの、考えたこと―――」
「ないの?本当に?」
じっとあたしを見つめるビー玉のような瞳。
この目には弱い。
なんでも見透かされてるみたいな。
「だ、だって、急にあたしもセレブの仲間入りって言われたって、実感わかないし!ましてやあんたたちと結婚だなんて―――あり得ない!」
「ふーん。でも、牧野だって女なんだから理想の結婚とかあったんじゃないの?」
「理想の―――結婚・・・・・?」
そりゃあ、あたしだって女の子だもん。
いつかすてきな人と出会って、恋をして、結ばれる―――
そんな理想がなかったわけじゃない。
セレブじゃなくたっていい。
あたしを心から愛してくれる、そんな人といつか出会えるって。
だけど―――
「言ってみればこれって政略結婚でしょ?少なくとも、そんなのあたしの理想なんかじゃないよ」
あたしの言葉に、4人がちらりと視線を交わす。
「だけど、婆さんも言ってたじゃん。お前の意思に任せるって。本気で恋愛するんなら、政略結婚でも関係ないんじゃん?」
「それは―――確かにそうだけど」
「とにかく、お前の結婚がこの家の将来を左右することは事実だ。言っとくが、今更逃げ出すことはできないぜ」
西門さんの言葉に、ごくりと唾を飲み込む。
この家の人間になった以上、逃げられない運命。
あたしはこの時初めて、F4という最強のセレブ達の実情というものを、垣間見た気がした・・・・・。
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