***秘密の花園 vol.5 〜?つくし〜***



   疑問に思ったことは聞いてみればいい。

 そうだ。

 あたしは昨日からあの大邸宅に住んでいるのだから帰ってから本人に聞いてみればいいんだ。

 そう思って、あたしは学校を後にしようとして―――

 「お迎えに上がりました。つくしお嬢様」
 黒光りするリムジンの前で深々と頭を下げたのは、あの日あたしを菅野邸まで連れていった、あの男性だった。
「ええと―――石田さん、でしたっけ」
「石田とお呼びください、お嬢様」
「い、石田―――あの、あたしは1人で帰れるから迎えなんて―――」
「そういうわけには参りません。あなた様は大事な菅野家の跡取り様でございます。誘拐などされる可能性も十分ございます」
「誘拐―――」

 ―――考えたこともなかった・・・・・。

 「菅野コンツェルンの人間だったら当然の話だろ」
 突然聞こえてきた声に驚いて振り向けば、そこにはF4が立っていた。
「まったく、お前がセレブだなんて世も末だぜ」
 西門さんの言葉に、他の3人も大きく頷き―――
 あたしはむっとして4人を睨んだ。
「うっさいな。別にあたしセレブになんかなりたくないし!大体なんであんたたちがここに―――」
「俺らも呼ばれてるんだよ」
 美作さんの言葉に、あたしは驚いて目を見開く。
「西門様、美作様、道明寺様、花沢様にはもう1台車を用意してございますので、そちらにお乗りください」
 石田はそう言うとリムジンの扉を開け、あたしを促した。
 仕方なくそこから乗りこむと―――
「あれ、進?あんたも乗ってたの」
 何となく居心地が悪そうに、広い後部座席の端っこに進が身を縮めて座っていた。
「迎えに来られたから―――。けど、目立っちゃってしょうがないよ」
「だろうね。普通の学校じゃリムジンのお迎えなんてあり得ないもんね」
「そうそう、それでさ、今朝ママからちらっと言われたんだけど」
「何を?」
「俺、転校するかも」
 その言葉に、あたしは驚いて目を見開いた。
「は?どこに?」
「英徳の中等部に行かないかって。その方がセキュリティー的にも安心だし、姉ちゃんと一緒に行けるから送り迎えもしやすいって」
「マジで・・・・・?なんか―――生活環境が急激に変わりすぎて、頭の方がついていかないんだけど」
「俺も」
 そしてあたしたちは、2人そろってため息をついたのだった・・・・・。


 あたしとF4は、家に着くとすぐに昨日祖父母に会ったあの大広間に呼ばれた。

 道明寺家に負けない超高価な調度品で揃えられた天井の高いその広間は、そこだけで今まで住んでいたアパートの何倍もの広さがあった。

 その部屋に無造作に置かれたふかふかのソファーに座らされ向かい合ったソファーに腰掛けた祖父母が、あたしを見て微笑んだ。
「お帰り、つくし。学校は楽しいかい?」
 祖父の菅野詠太の言葉に、あたしは緊張しながら頷いた。

 白髪の老紳士。

 どこにでもいそうで、そうじゃない。

 その威厳と何とも言いようのないオーラが、さすがというべきか、大財閥の会長なのだということを知らしめているようだった。

 「それはよかった―――。つくしには、いい友達がいるようだね」
 そう言って、お祖父さんがF4に視線を移す。
 4人が、軽くお祖父さんに会釈をする。
「まあ、友達と呼べるようになるまでにはいろいろとあったようだが―――おかげでつくしがどんなに素晴らしい子か私たちにもよくわかったよ」
 意味深な笑みを浮かべるお祖父さんに、F4は一様にぎくりとした様子を見せ―――ちらりと目を見かわした。

 そうか―――。

 全部調べて、知っているんだ。

 あたしがF4にいじめられていたことも、あたしが宣戦布告したことも、その後のことも―――

 「今更、その時のことをとやかく言うつもりはないよ。今までわたしたちはつくしたちの置かれている状況を知りながら、なんの手助けもしてこなかった。それを考えれば―――わたしたちに君たちを非難する権利などないからね。ただ、つくしがわたしたちにとって大事な孫であることは事実なんだよ。それは、理解していただけるかな?」
 にこやかにそう言うお祖父さんに、F4は戸惑いを見せながらも頷いた。
「そこで―――君たちに頼みがある。わたしたちなりに調べ・・・・そして考えた結果の答えだ。それを踏まえた上で聞いて欲しい」
 そのお祖父さんの言葉の後、それまで黙っていたお祖母さんが口を開いた。
「あなたたちが高校を卒業するまで―――あと1年の間に、誰がつくしの夫になるか、決めて欲しいのよ」

 一瞬の沈黙。

 それを破ったのは―――

 「な―――何言ってんの!?何であたしがこいつらと―――!」
 あたしは思わず立ち上がり、2人に詰め寄った。
「あら、つくし、まだこの4人が嫌いなの?もうすっかりお友達になったと思っていたけれど」
 にっこりとおおらかに微笑むお祖母さんに。
 あたしはうっと詰まる。
 確かに、今じゃあすっかり仲間って感じで一緒に行動することが多くなったF4だけど―――。

 でも、それとこれとは話が別!

 「で、でも夫だなんて!こいつら―――いえ、この人たちだってみんなジュニアで自分の実家を継ぐことに―――」
 あたしの言葉に、お祖父さんが頷いた。
「ああ、もちろんわかっているよ。だから、婿にとは言わん。だが―――この菅野コンツェルンを残していくためには君たちの力がどうしても必要なんだ」
 その言葉に、F4は再び顔を見合わせた。
「それは、どういう意味ですか?」
 美作さんの言葉に。

 お祖父さんは、静かに口を開いた―――。

 「菅野コンツェルンの未来は、君たちにかかっているということだ」







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