きれいな桃色地にカスミソウとユリの花の模様。
金の帯に赤の格子柄がちょっと現代っぽくてかわいいと思った。
お茶会の前に、いくつか気に入った着物の写真を撮って、西門さんに見てもらった結果、これがいいと言われたのだ。
そのセンスはさすが。
やっぱりこういうのはわかる人に見てもらうのが一番なんだなと思った。
「まあかわいらしいこと。さすがは菅野家のお嬢さんね。良くお似合いだわ」
西門さんのお母さんのセリフに、思わずあたしの笑顔も引きつる。
「さあどうぞ。もう花沢さんもいらしてるのよ」
「あ・・・はい」
やっぱりこういう時は類の存在にホッとする。
上流社会のしきたりとか、そういうものにはまだなじめない。
それは育ち云々というよりは、生まれ持った性質なのかもしれないと、最近は思っていた・・・・・。
「牧野、すごい可愛い」
にっこりと笑う類。
ストレートな褒め方に、思わず赤くなる。
「あ―――ありがと」
「俺の見立てがいいからな。けど予想以上。すげえ似合ってるよ」
にやりと笑う西門さんも、着物は着ていてもいつもの調子で、ほっとする。
「牧野、顔が緊張してる」
類にくすくすと笑われ、あたしはちょっと恥ずかしくなる。
「だって、着物なんて慣れないし、めちゃくちゃ緊張するってば」
「ま、いいことなんじゃねえ?着物着てる時はある程度緊張感があった方がいい。自然と背筋も伸びるからな」
着物姿で、お茶をたてる西門さんはいつもの雰囲気とはやっぱり違っていて、さすがだと思った。
かっこよくて見惚れてしまったりもするけど―――
でも、なんだろう。
ちょっと、西門さんが遠い存在に感じられて、少し寂しかったり・・・・・
「牧野、こっち」
ぼーっとしていたあたしの手を、類が優しくひいていく。
連れていかれたのは、木陰に用意された長椅子だった。
「疲れてるみたいだったから」
そう言って類はそこに座り、隣にあたしを座らせた。
「ありがと」
「そのうち、こういうのにも慣れるよ」
にこりと微笑む類。
そう言えば、類も今日は着物を着ていて、いつもと雰囲気が違ってかっこいい。
なんだか、こんな間近に見るのにドキドキしてしまう。
「る、類は良く来るの?」
「俺?そうでもないよ。俺もこういうの、苦手だし。たまに、付き合いで仕方なくっていうのはあるけど」
「そうなんだ・・・。でも、着物似合ってるよね」
「そう?」
「うん。洋装の方が似合いそうな感じなのに、こうしてると和装もいいなって思うもん」
「牧野も、どっちも似合うよ」
ふっと、優しく微笑む類に、またドキドキし始める。
なんか、今日はずっとドキドキしてるみたい。
すぐ隣にいる類が、まともに見れない・・・・・。
「牧野?どうかした?」
そう言って、類があたしの顔を覗き込む。
「な、なんでもないよ」
思わず声が上ずる。
お願いだから、そんな近くで見ないで欲しい。
きっと、今のあたしは真っ赤だ。
どうにも緊張がとれなくて。
類の顔もまともに見れなくて。
どうすることもできずにその場に固まっていると―――
類の顔がふいに近付いてきたかと思ったら、チュッと、頬に類の唇が触れた。
「ひゃっ!?」
思わず驚いて飛び退く。
「な、何―――」
「真っ赤になっててかわいいから、つい」
「ついって―――こんなとこで!」
「誰も見てないよ」
「誰が見てないって?」
実にタイミングよく現れるものだ。
なんて落ち着いてる場合じゃなくって。
いつの間に来たのか、西門さんがあたしたちの目の前で腕を組み、仁王立ちをしていたのだった・・・・・。
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