ずらりと並べられた豪華絢爛な着物たち。
菅野邸の広い和室に用意されたそれを前に、あたしは思わず立ちくらみを感じていた。
「どうかしらね、この中につくしの気に入るものがあるかしら?もし他が良ければ用意させて―――」
そう言って首を傾げるお婆様に、あたしは慌てて首を振った。
「い、いいです!大丈夫!これだけあればもう十分で―――」
「そう?わたしの若いころのものや千恵子のものばかりだから、流行りの柄ではないのだけれど・・・・・」
と、ちょっと恥ずかしそうにいうけれど。
着物の流行りなんて、あたしにはわからないし。
でも、並べられた着物のどれもが高級なものであることは想像がつく。
それはきっと、値段も聞くのが怖くなってしまうほどの―――
だけど、そう思っても思わず手に取ってみたくなるほど素敵な物ばかりだった。
―――これを、ママもお婆様も着てたんだ・・・・・。
なんだかそう思うと感慨深いし、余計に素敵に見えてきた。
「どれも、きっとつくしには似合うと思うわ。そうね・・・・・総二郎さんに一緒に選んでいただいてもいいかもしれないわね」
西門さんと・・・・?
そうか、そういう手もあるけど―――
どうしよう。
それならやっぱり、類も呼んだ方がいいのかな・・・・・。
そう思いながら2人の姿を頭に思い浮かべて―――
―――やっぱり自分で選ぼう。
と思いなおしたのだった・・・・・。
「俺、茶会には出られないからな」
美作さんの言葉に、思わず箸が止まる。
昼休み、いつも通り学校のカフェで昼食のお弁当を食べていたあたしの前で、突然美作さんが椅子に座ったと思ったらそう切り出したのだ。
「―――何で?」
あたしの言葉に、美作さんが肩をすくめる。
「用事があるんだよ」
「―――類は来るんだよね?大丈夫かなあ」
最近、良くぶつかることのある西門さんと類。
それを止めることができるのは美作さんだけだと思ってるんだけど・・・・・。
「―――ま、大喧嘩したりすることはないだろ」
そう言いながら、心もとない感じで美作さんを見ていたあたしの頭をぽんと叩いた。
「んな顔するな。できれば俺もお前の傍にいたいけど、こっちも仕事だからな、どうしても外せないんだ」
本当にすまなそうにそう言う美作さんに、あたしは頷いた。
「うん、わかってる・・・。ありがとう」
優しい人だから、きっとあたしが思ってるよりもいろいろ考えてくれてたんだろう。
その気持ちだけでも、嬉しい。
傍にいてもらえれば安心だけど、甘えてばかりでもいけない。
いつの間にか、あたしはとっても美作さんを頼りにしていたんだと、今更ながら気づいた・・・・・。
「いつまでたっても来ないと思ったら」
突然、上の方から花沢類の声。
「あきら、抜け駆けしてんじゃねえぞ」
続いて西門さんの声も。
見れば、2人がじろりとあたしたちを見下ろしていた。
「抜け駆けじゃねえよ、少し話してただけ。な、牧野」
「うん」
「―――なんか怪しい。こないだから、仲良すぎない?あきらと」
類の言葉に、思わず美作さんと顔を見合わせる。
「本当だぜ。そうやって顔見合わせるタイミングとかも合い過ぎ。まさか俺たちに黙って2人で会ったりしてねえだろうな」
疑いの目を向ける2人に、あたしはまた何となく美作さんを見る。
そんなあたしに、美作さんがふっと優しく笑う。
「別に、そんなことはしてねえよ。恋愛対象じゃない分、俺には気を許してるってことだろ?そんな目くじら立てるなよ。そうやって2人がいつもピリピリしてたんじゃ牧野だって気の毒だっつーの」
そんな美作さんの言葉に、2人は納得しきれないような顔をしていたのだった・・・・・。
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