***秘密の花園 vol.30 〜?つくし〜***



   茶道の稽古の日。

 なぜか類が参加するようになってから、和気あいあいとお茶を飲む会に変わってしまっていた。

 西門さんと類だけだとどうにも険悪な感じになってしまうので、美作さんにも来てもらい。

 茶室にF3とあたしという、由緒正しい茶室にはなんだかアンバランスな4人だ。

 「じゃあ、司のことはもういいのか」

 あたしの前にお茶を出してくれながら、西門さんがいう。

 「うん・・・・・。今のあたしには、あいつと結婚するだけの覚悟はないから」
「覚悟、ね。まあ、道明寺の家に嫁ぐってのは相当の覚悟がなきゃできねえよな。お前以外に、そんな覚悟のできる女っているのかね」
 美作さんが半分呆れ顔で言う。
「けど、総二郎の家だって似たようなものでしょ。茶道の世界なんて、普通の人間にはなかなか踏み込めない世界だよ」
 類の言うのに、西門さんがじろりと睨む。
「変なこと言うな。別に、それほど大げさなもんじゃねえよ。少なくとも牧野と結婚したらちゃんと俺が責任もって教え込むっつーの」

 教え込む―――

 それもなかなか大変そうだわと、あたしは溜息をついた。

 「お前んとこだってそう簡単じゃねえだろ?なにしろあの厳しい親父さんがいるんだからよ」
 西門さんの言葉に、類の眉がピクリと動いた。  

 前に聞いたことがある。

 その厳しさうえ、花沢類は塞ぎこみ、引きこもりになってしまったって・・・・・。

 その状況から類を救ってあげたのが、静さん・・・・・。

 今でも思い出すと、切ないような、苦しいような、それでいて初恋の甘酸っぱさを感じる静さんの面影―――。

 類は―――本当にもう、静さんのことはいいんだろうか。

 あんなに―――フランスへ追いかけていくほど好きだったのに・・・・・。


   そんなことをぼんやり考えていると―――

 “パチンッ”

 「いた!!」
 突然おでこを指ではじかれ、顔を顰める。
「いったいな〜、もう・・・・・」
 おでこを抑えながらじろりと西門さんを見上げる。
「アホ面してぼんやりしてっからだよ。何考えてた?」
「アホって何よ。別に、あたしぼんやりなんか―――」
「してただろうが。稽古中に何考えてんだよ」
 言われて、ぐっと詰まる。

 類のことを考えてたなんて言ったら、何を言われるか―――。

 じーっと刺すような視線が痛い。

 どうやってごまかすか。

 なんて考えてたら。
「総二郎、牛乳ある?」
 それまで自由気ままに茶室でくつろいでいた類が、お抹茶の入った器を手に言った。
「はあ?類、お前まさか―――」
「このままじゃ苦いし。抹茶ミルク作るから、牛乳ちょうだい」
「てめえ・・・・せっかくこの俺が入れてやった茶を―――」
「だって、苦いし」

 2人がバチバチと睨みあっているのを見て、あたしはこっそりと息を吐き出した。

 ―――よかった。これで、何とかごまかせたかな・・・・・

 そんなあたしを見て、苦笑してる美作さんを視界の端で捉える。


   「―――と、やべえ、こんなことしてる暇ないんだった」
 類ともめていた西門さんが、ふと時計を見て言った。
「悪いけど、今日はここまで。この後、人に会う約束があるんだ」
「なんだよ、女か?」
 美作さんの言葉に、西門さんがむっと顔を顰める。
「そんなんじゃねえよ。来月、茶会があんだ。その打ち合わせ。牧野、お前も来月までに準備しとけよ」
 突然話を振られ、あたしは目を瞬かせた。
「は?何であたし?」
「お前にも茶会に出てもらうからだよ。言っとくけど、お前に拒否権はないからな」
「なんで!」
「こないだのあきらのパーティー、忘れたわけじゃねえからな。あきらとはパーティーに行くのに、俺の茶会には出られないわけ?」
「そ、それとこれとは―――」
「同じだろ?とにかく―――当日、着てくる着物とか考えとけよ」

 にやりと笑う西門さん。

 その笑顔が、決して冗談じゃないということを告げていて―――

 あたしの背筋を、また冷汗が流れていった・・・・・。







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