『俺は、友達?それとも―――少しは恋愛対象として見てる?』
花沢類の言葉が、頭の中でぐるぐる回る。
あたしにとって、花沢類はいつだって特別な位置にいた。
F4という存在を知った時からずっと・・・・・。
だけど、それが恋なのかどうか、よくわからない。
もちろん恋だと思ったこともあった。
だけど、花沢類の中には静さんという素晴らしい女性がいて、あたしなんかその足元にも及ばないし、到底かなわないと思っていた。
あたしにとって、類はどういう存在なんだろう・・・・・?
「N.Yに行かなきゃならねえ」
道明寺に呼び出され、学校の屋上へ行くと、そこにはF4が集まっていて、唐突に道明寺がそんなことを言い始めた。
「N.Y?何かあったのか?」
美作さんの言葉に、道明寺が頷く。
「親父が倒れたんだ。今すぐどうってわけじゃねえけど、のんびり構えてる場合でもねえってことで明日には向こうに発つ」
「明日?また急だな」
西門さんが目を丸くする。
花沢類も、さすがに心配そうな顔をしていた。
「どのくらい向こうに?」
「さあな、それは親父の容体にもよるだろうし、わからねえよ。けどお袋が―――あのくそババアが、動揺してる。落ち着いてるように見えるけど、俺にはわかるんだ。あんなお袋の姿は今まで見たことがねえ。俺が―――ついてないと」
びっくりした。
なんだか急に、道明寺が大人びて見えた。
こんなに変わるなんて―――
やっぱり、どんなに離れていても、家族の絆って大きいんだ・・・・・。
「牧野」
道明寺が、あたしの方に真剣な眼差しを向けた。
「お前に―――話がある」
その言葉に、F3がちらりと視線を交わした。
「―――俺らは行くよ。またあとでな」
美作さんが言い、3人が屋上を後にする。
「―――こんなことになって、俺もまだ頭がついてってねえんだけど」
「―――うん」
「今は、俺がしっかりしなくちゃいけない時期なんだと思ってる。だけど―――それでも、お前とのことだけははっきりさせておきたい」
そう言って、道明寺はあたしの肩をつかんだ。
真剣な、射抜くような眼差し。
そのあまりにも強い眼差しに、あたしは身動きすらできなかった。
「―――俺と、結婚してくれ」
そして、言われた言葉にも―――
あたしは、すぐに口を開くことができなかった。
冗談でしょ?なんて、とてもじゃないけど言えない。
でも、急にそんなこと言われても、あたしには―――
「牧野。俺は真剣だ。ババアにどんなに反対されようが、俺にはお前しかいねえと思ってる。どんなことがあっても―――お前のことは俺が守る。だから―――俺と、結婚してくれ」
「道明寺・・・・・あたしは・・・・・」
「牧野―――頼む」
肩をつかむ手に、力がこもる。
痛いくらいのその強さと、道明寺の眼差しに―――
あたしは、自分の心の中に、何かが見えたような気がした。
「―――ごめん。あたし、あんたとは結婚できない」
はっきりと告げた言葉に、道明寺の瞳が揺らいだ。
「―――どうしてもか」
その言葉に、あたしは頷く。
「あんたの気持ちは嬉しいよ。あんたが本気で言ってくれてることもわかる。でも―――今のあたしは、あんたのその思いに答えることができない。結婚するっていうことは、一生を共にするってこと―――。あたしはあんたと一生を共にする覚悟が―――できないの」
道明寺は、しばらく無言であたしを見つめていた。
その目は悲しみと―――不思議な落ち着きに満ちていた。
あたしの答えを、知っていたようなその目に、あたしの胸がきしむように痛む。
「道明寺、あたしは―――」
口を開いた瞬間。
道明寺が唇でそれを塞いだ。
一瞬の、触れるだけのキス。
「―――いい、言うな」
少しだけ、悲しそうに微笑んだその顔は、今までに見た度の表情よりも優しくて。
あたしは何も言うことができなかった。
「俺はまだ諦めたわけじゃねえ―――。けど、今はまだ―――やらなくちゃならないことがある。それが終わったら、必ず戻ってくる。その時に―――また、挑戦してやる」
その言葉に。
あたしはただ、曖昧に笑うことしかできなかった・・・・・。
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