美作さんは言ってくれた。
どんな結果になったとしても、自分はあたしの味方だと。
自分が結婚できなかったとしても、あたしに一番近くで、あたしの幸せを見守っていられる立場にいたいと。
あたしが菅野家の人間だとわかってから、婿取り合戦のようなものが始まって。
親も乗り気だし、自分自身、あたしへの気持ちに変化が出て来て―――
それは恋愛感情で、自分自身もあたしとの結婚を望んでると思ったのだけれど、それはちょっと違うような気がしてきたと。
たとえば道明寺や、花沢類のあたしに対する気持ちとは微妙に違う。
もっとおおらかで―――それでいて誰よりも愛しく思えるような―――。
あのパーティーで甘い雰囲気に流されそうになった時、美作さん自身も流されていたって言っていた。
それが、あの2人が現れたことでわかったって。
「お前が菅野家の人間だからってだけでお前と結婚したがるようなやつは俺が許さない。あいつらに限ってそれはねえけど・・・・。お前の気持ちを無視して結婚を迫るようなやつに、お前はやれない。あいつらがお前を悲しませるなら―――そんときは、俺がお前を幸せにしてやるよ」
そんな風に言いながらも、美作さんの瞳はどこまでも優しくて。
親とも、兄弟とも違うけれど。
でも、この人には何でも言えるような気がした。
きっと、いつでも変わらず、あたしのことを見守ってくれるって。
そんな思いが、あたしの中に生まれていた・・・・・。
「気に入らない」
久しぶりに、非常階段で花沢類と話していた。
あのパーティーの前は、なるべく顔を合わせないようにしてたから―――。
だけど、久しぶりに一緒にここでの時間を過ごす類はどこか不機嫌で。
「その役目って、俺の役目じゃなかった?」
「役目って・・・・・」
「牧野の傍にいて、牧野の気持ち、何でもわかってあげられるみたいな―――そういうのって、俺の役目だと思ってた。いつの間にそんなにあきらと仲良くなったの」
声に抑揚はないけど、それが余計に類が本気で怒っているように感じさせて。
あたしはちょっと冷汗をかいていた。
「な、仲良くって、別に―――美作さんて、前からお兄ちゃんみたいなキャラだったし―――ダンスなんか教えてもらってるうちに、いろいろ話せるようになった・・・・・のかな」
「―――どう思ってるの?あきらのこと」
類の目はとても真剣で。
とてもいい加減な答えなんかできそうになかった―――。
「どうって―――友達―――だよ。すごく大事な、友達。ずっとなくしたくない、大事な友達だと思ってる・・・・・」
「友達―――それは、恋愛対象じゃなくて?」
「―――じゃ、ないと思う・・・・。それはたぶん美作さんがあたしのこと大切に思ってくれてるのと同じで―――うまく言えないけど、あたしも美作さんには幸せになって欲しいと思うから」
「じゃあ、俺は?」
「え―――」
「俺は、友達?それとも―――少しは恋愛対象として見てる?」
じっと見つめられる、そのビー玉のような瞳には弱い。
目を、そらすことができない・・・・・。
「―――俺も、牧野には幸せになって欲しいと思ってるよ」
あたしを見つめながら、類が言う。
「ずっとそう思ってたし、牧野が幸せなら相手が俺じゃなくてもいいと思ってた・・・。でも―――牧野があきらのことを大切だって言った時―――悔しかった。俺の知らない牧野を、あきらが知ってるみたいで―――今まで、俺は牧野のこと何でもわかってるってどっか自惚れてた」
実際、類はあたしのことをよくわかってくれてるって、あたしも思ってたけど―――。
「だけど、牧野にはまだまだ俺の知らない顔がたくさんあって―――。俺は、そういうの全部知りたいって思った。それで―――他の誰よりも、牧野を知っていたいって思った・・・・・」
切なげな声と、熱を帯びた瞳。
まるで魔法にかかったみたいにあたしは動くことができなくて―――
美作さんとキスしそうになった時とは違う、抗えない何かに捕えられたみたいに―――
気付けば重なりあった唇から、類の切ないくらいの想いが伝わってくるようだった・・・・・。
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