「雰囲気に流されたんだよ」
不意に、美作さんが言った。
ピリピリと張りつめかけてた空気が、そこで途切れる。
「雰囲気・・・?」
類が怪訝な顔をする。
「ああ。別に、牧野にとって俺が特別ってわけじゃねえ。ある意味このパーティーの雰囲気にのまれてるってだけだ。ま、それが狙いって言えば狙いだったんだけどな」
そう言って美作さんは、あたしを見てにやりと笑った。
「けど・・・それを今ここで言ったら、元も子もねえだろ?」
西門さんが、腑に落ちない顔をする。
でも、その通りだ。
現に、あたしはさっきこの場の雰囲気に流されてキスまでしそうになったけど。
でもそれが雰囲気にのまれただけだなんて、美作さんに言われなかったら気付かなかったかもしれないのに。
何で・・・・・?
「さあな。牧野に後悔させたくなかった、ってとこか?」
相変わらずあたしを見つめる美作さんの目は優しくて。
なんだか胸が苦しくなる。
「―――どういう意味?」
あたしの言葉に、美作さんは肩をすくめた。
「雰囲気に流されてたとしたら、きっとあとでそれに気づく時が来るだろ?そんときに―――お前に後悔させたくない―――ってか、後悔されたくはない。俺とお前がいつか結婚するとして。それはお前の意思であってほしいと思うからだよ」
「あたしの、意思―――」
「そういうこと。―――で、せっかくここまで来たお前らには悪いけど、今日は俺がこいつのパートナーだからな。今日だけは譲るつもりはねえから、帰ってくれねえ?ま、この場で適当に相手を見繕うつもりならそれでも構わねえけど?」
美作さんの言葉に、2人が顔を見合わせる。
「―――冗談だろ?牧野以外の女なんていらないよ」
そう言って、類がくるりと背を向ける。
続いて、西門さんも溜息をつき。
「今日のところは退散するよ。けど、もうこんな隠し事はなしにしろよな」
「さあ、それはお前らが見破ればいいだけの話だろ?」
美作さんの言葉に、やってらんねえと呟きながら、西門さんも背を向ける。
2人が行ってしまい、再び2人きりになる。
なんとなく、顔が上げづらい。
どんな顔をしたらいいのかわからない・・・・・。
「来たのがあの2人でよかったな」
美作さんの言葉にハッとする。
そういえば、道明寺は来なかったんだ。
「あいつはお前に関しちゃ勘の働く奴だと思ってたけどな」
「―――美作さんだからじゃない?」
あたしの言葉に、ちょっと目を見開く。
「俺?」
「美作さんだったら―――無茶なことはしないって思ってるんじゃない?」
道明寺はバカだけど、変に野生の勘が働くところがあるから。
美作さんが4人の中では一番大人で無茶なことはしないってわかってる。
「―――ま、あいつはある意味素直だよな。人の言ったことをそのまま受け取る。今日のことを知ったらさすがに怒りそうだけど―――」
それはなんとなく想像できて―――
あたしは美作さんと顔を合わせ、ちょっと笑った。
今度は甘い雰囲気にはならずに・・・・・
「あきらてめえ!抜け駆けしやがったな!」
月曜日。
パーティーのことを知った道明寺が美作さんの胸ぐらをつかんで迫った。
「ちょっと!やめてよ道明寺!」
「牧野!てめえも何やってんだよ!俺のことを騙しやがって―――」
「騙したんじゃねえだろ?言わなかっただけだ」
怒るでもなく、冷静にそう言う美作さんに、道明寺はますますカッカしている。
「同じことだろうが!類!総二郎!てめえらも何で言わねえんだよ!」
傍で呆れたように見ていた類と西門さんに当たる道明寺。
2人はちらりと顔を見合わせ、ほぼ同時に肩をすくめた。
「パーティー会場で暴れられるのも迷惑な話だしな」
「逆にややこしくなりそうだったから」
顔を真っ赤にして怒る道明寺。
他の3人―――あたしも含め4人は妙に冷静で。
やっぱりあの場に道明寺がいなくて良かったと、あたしは胸をなでおろしていた・・・・・。
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