美作さんのリードでどうにか恥をかくことなく、パーティーの雰囲気にも慣れ始めたころ。
「こちら、菅野会長のお孫さんですって?かわいらしいこと」
品のいい中年の女性が、にこやかに話しかけて来た。
あたしは慌てて頭を下げる。
「あ―――牧野つくしです」
「とてもしっかりしてらして・・・・・あきらさんとお付き合いを?」
女性がちらりと美作さんを見上げる―――と。
―――あれ?
その視線に、わずかに感じる違和感。
今までの上品なイメージと微妙に違う空気。
なんだろう?
その時、美作さんがごく自然な感じであたしの肩を抱いた。
「さあ、どうでしょうね。僕は彼女一筋ですけど、競争相手が多いもので・・・・・」
そう言ってにっこり笑うと、女性の表情がまた微妙に変わる。
わずかに、ピリッとした空気が流れる。
「失礼、ちょっと彼女が疲れてるようだ。あちらで休んできますよ」
そう言うと、美作さんはあたしの肩を抱いたまま女性から離れた。
「美作さん―――」
「気にすんな。向こうで飲み物でも飲もう」
連れて行かれたのはバルコニー。
夜風がちょっと冷たいが、一休みするにはちょうどいい空間だった。
「彼女とは、前にもパーティーで会ったことがあるんだ」
美作さんの言葉に、ああ、と思い当たる。
「もしかして―――付き合ってたの?」
「いや―――食事に誘われて、1回だけ会ったけど。彼女の旦那とうちの父親が昔からの知り合いで。仕事でも繋がりがあったからな。仕事がらみとなると面倒なんだ」
「はあ・・・」
あんな品の良さそうな人が―――
女って怖い。
「喉乾いただろ。飲めよ」
そう言って、いつの間に持って来たのか飲み物の入ったグラスをあたしに差し出した。
「これ―――」
「心配すんな、ジュースだよ」
そう言ってにやりと笑う。
「美作さんのは?」
「俺のはカクテル。大丈夫。そんなに強いのじゃねえよ。ジュースと変わんねえから」
くすりと笑って、あたしの頭を優しく撫でる。
こういう時の美作さんは、どこかお兄さんみたいな雰囲気を持ってる。
渡されたジュースを口に含み、ちょっと息をつく。
知らず緊張していたのが、溶けていくような感じだった。
「―――大分、上達したな」
美作さんの言葉に、あたしはその顔を見上げた。
優しくあたしを見つめる瞳。
「そ、そうかな」
「ん。まだちょっと硬いけどな。上出来だよ」
その言葉とちょっと甘い笑顔に。
なんだか嬉しくなって自然と笑顔になる。
「美作さんのおかげだね」
ふと、見つめ合い。
2人の間に甘い空気が流れる。
まるでこの空間に、2人だけで放り出されたように、周りの音が聞こえなくなる。
美作さんの手が、あたしの頬に触れる。
そのまま、引き寄せられるように2人の距離が近づいて。
あと少しで唇が触れようというところ―――
「そこまでにしておけよ」
突然割って入った声に、ぎょっとしてあたしは美作さんから離れた。
声の方を見ると―――
バルコニーに出る窓のところに立っていたのは、西門さんと類だった。
「なんだ、やっぱり来たのか」
溜息とともに吐き出された言葉に、あたしの方が驚く。
「やっぱりって―――」
「そりゃ、お前が隠し事できないってことくらい読んでたからな。たぶんこの2人は嗅ぎつけてくるだろうとは思ってたよ」
肩をすくめてそう言う美作さんを、西門さんが睨む。
「隠し事ってのはこのパーティーのことか?それともお前ら2人のことか?」
「は?」
2人のことって、どういう意味?
首を傾げるあたしと、にやりと笑う美作さんを、類が交互に見る。
「見間違いじゃなければ―――今、キスしようとしてたみたいに見えたけど」
その言葉に。
あたしはカーッと顔が熱くなるのを感じた。
「あ―――あれはっ」
「俺が声をかけなければ、そのままキスしてたんじゃねえか?どういうことだよ、牧野。お前は、あきらが好きなのか?」
「あ、あたしは―――!」
2人の痛いくらいの視線と、隣でにやにやと笑っている美作さん。
3人を前に、あたしはこの場をどう切り抜けたらいいのかわからず、パニックに陥っていた・・・・・。
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