金曜日の夜、あたしはお爺様とお婆様に呼ばれ、大広間へと向かった。
そこに広げられていたのは、たくさんのドレスや靴やアクセサリー。
ファッションに疎いあたしでも、それがとても高価なものだということはわかった。
アクセサリーについている宝石も、おそらく全て本物で・・・・・
「明日のパーティーに、好きな物を着ていくといいわ」
にっこりと微笑むお婆様。
あたしはそのきらびやかな光景に暫し固まり―――
「あの―――凄過ぎて、どれを選んだらいいんだか―――」
その言葉にお爺様とお婆様は顔を見合わせ、ふっと笑った。
「どれでも、自分の好きな物を選んでいいのよ。どれもつくしには似合うと思うのだけれど―――たとえばパートナーのあきらさんとも相性の良さそうな物を選ぶといいわ。あきらさんのことはよく知ってるでしょうから、彼のことをイメージして」
お婆様の言葉に、あたしは美作さんのことを頭に思い浮かべた。
優しくて、繊細で、大人で―――
色で言うなら紫かな。
どぎつい紫じゃなくて、藤の花みたいな、優しくて繊細な紫。
あたしはぐるりとたくさんのドレスを見渡し―――
そのドレスを見つけ、傍に寄ってみた。
きれいな藤色の、シフォンのドレープが何重にも重ねられたドレス。
胸元はビスチェ風になっていてシンプルなデザインのそのドレスは、少し大振りなアクセサリーをつけたら映えそうな気がした。
足元にはシルバーに輝くパンプス。
その隣に、美作さんの姿を想像してみる。
「―――これがいい」
そう言ったあたしの姿を、お爺様とお婆様は穏やかな笑顔で見つめていた・・・・・。
慣れないドレス。
慣れないパンプス。
ダンスも習い始めたとはいえまだまだ人様に見せられるようなものじゃない。
やっぱり良家の令嬢なんて、柄じゃないんだけどなあ。
溜息をついていると、部屋をノックする音がして、遠慮がちに開けられた扉の所に現れたのは進だった。
「うわ、姉ちゃんすげえ」
「やめてよ。もう、こんなの柄じゃないってのに」
「けど結構様になってるよ。その髪とか、メイクもしてもらったの?」
「うん。変じゃない?」
あたしの言葉に、進は首を振った。
少しだけウェーブをつけた髪を緩くまとめ、ドレスに合わせたリボンの髪飾りをつけてもらい、うっすらとメイクもしてもらった。
鏡に映るあたしは緊張した顔をしていたけれど、いつもより少しはきれいになった気がした。
「つくしお嬢様、美作様がお迎えにいらっしゃいました」
お手伝いさんの声に、あたしは椅子から立ち上がり、ちょっと息をつくと部屋を出て玄関に向かった・・・・・。
「よお、すげえきれいじゃん。びっくりした」
あたしの姿を見た途端ちょっと目を丸くし、嬉しそうに美作さんが笑う。
「本当?おかしくない?」
「全然。超イイ女だよ」
「それは褒めすぎ。こういうの慣れないんだから・・・・不自然なところとかあったらちゃんと言ってよ」
「ん、了解。じゃ、とりあえず歩き方から。お前、堅過ぎんだよ。もうちょっと肩の力抜いてみ」
「肩の力・・・?」
「ほら、俺の腕に掴まってみ」
すっと目の前に出される美作さんの腕。
薄いブルーグレーの少し光沢のあるスーツに身を包んだ美作さんからは、ほのかに香水の匂いがして…
いつもよりも少し甘めに見えるその瞳にドキッとしてしまう。
緊張しながらそっとその腕に手をかける。
「じゃ、行くか」
美作さんの歩調に合わせてゆっくりと歩き始める。
表に留められていたリムジンに乗り込み、静かに走り出し―――。
車の中でまだ緊張していたあたしは、少し離れてついてくる車の存在には全く気付いていなかった・・・・・。
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