隠し事は苦手だ。
隠さなきゃいけないって思うとどうしても行動が不自然になる気がする。
早く土曜日になればいい。
そう思っていたのだけれど―――
非常階段にも行かないようにしていたのが、きっと返って良くなかったのかもしれない。
「なんで俺のこと避けるの?」
いきなり腕を引っ張られたと思ったら、そのまま非常階段に連れて行かれ、壁と花沢類の間に挟まれているあたしがいた。
「な―――」
「避けてるだろ?俺のこと。ここにも来ないし―――。何で?俺何かした?」
「そんなことないよ」
「じゃあ―――あきらと何か関係ある?」
その名前に、思わずぎくりとしてしまった。
もちろんそんなことを類が見逃すはずもなく―――。
すーっと目が細められ、わずかに類の顔が近付く。
「―――どういうこと?あきらと、何の隠し事?」
「あの―――」
どうしよう。
できればまだ言いたくないんだけど―――
でもこの状況で、花沢類相手にごまかすのは、至難の業だ・・・・・。
「―――俺には言えないようなこと?」
類の瞳が悲しそうに揺れる。
だから、この目に弱いんだってば。
「そうじゃなくて―――ごめん、今はまだ、言えない」
「今は?てことは、いつなら言えるの?」
「ええと・・・・・来週、あたり・・・・?」
仮に、来週になって本当のことを言ったらそれはそれで怒られそうな気もするけど―――
でも今は、そうでも言っておかないと・・・・
「―――わかった。じゃあそれまで待つけど―――でも、その時になったら絶対言わせるから、覚悟しといて」
にっこりと、天使の笑顔。
でもその裏側に悪魔の尻尾が見え隠れしてるんだから。
この人には絶対敵わない。
そして、やっぱりこの人にも捕まってしまった。
「つくしちゃん、俺に挑戦してる?」
移動教室で音楽室へ向かう途中。
気付けば人気のない空き教室に連れ込まれていた。
「えーと・・・・何の話?」
笑顔を作ったつもりだったんだけど、西門さんにはそうは見えなかったようで。
「―――顔に思いっきり『わたしは隠し事をしてます』って書いてあるぜ?」
「ま、まさか」
「俺の目をごまかそうったってそうはいかないぜ。何を隠してる?類とのこと?それとも―――あきらか?」
ここで、顔に出しちゃいけない。
類と同じことにならないように必死にポーカーフェイスを保とうとするけれど。
この人にそんなもの通用するはずもなくて―――
「―――へえ、あきらか。ふーん・・・・で、何を企んでる?」
「企んでなんか―――」
「まだ言うか。そこまで隠すってのはお前の意思じゃねえよな。あきらの入れ知恵?どっちにしろ、もう諦めた方がいいなじゃね?」
そんなこと言われたって。
ここで言ってしまうのは美作さんに申し訳ない気がして。
「―――今は言えない。約束だから・・・・・」
「約束?あきらと?へーえ・・・・ずいぶん仲いいじゃん」
すーっと細められた瞳にデジャブを感じる。
やばいなと思って、微かに後ずさったあたしの手を、西門さんの手が素早く捕まえる。
あっという間に引き寄せられ、腰を捕まえられたと思うと、耳元に甘い声が響く。
「このままで済むと思うなよ?」
耳に掛かる吐息にくらくらする。
この人たちは心臓に悪すぎる。
もっと冷静に、ちゃんと真剣に考えたいと思っているのに、その瞳に、声に、しぐさに―――
いつの間にか翻弄され、流されそうになっているあたしがいた・・・・・。
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