***秘密の花園 vol.23 〜?つくし〜***



   どうして類のキスは受け入れて、西門さんのキスは避けてしまったのか。

 その理由なんてわからない。

 きっと他の人から言わせれば、それは花沢類のことを好きだからだろうってことになるんだろうけど―――

 だけど花沢類の時は状況的に逃げるのが難しかったっていうのもあるし。

 ただ、花沢類への気持ちが、他の人への気持ちとは違うっていうのも確かで―――

 これは恋なんだろうかと、自問する日々が続いていた・・・・・。


 「つくし、ちょっといいかしら」
 その日の勉強が終わり、息抜きに庭を散歩していると後ろからお婆様に声をかけられた。

 「たった今美作さんのお母様からお電話をいただいてね」
「美作さんの?」
「ええ。今度の土曜日のパーティーに、あきらさんと一緒に出席してもらえないかと言われたんだけれど・・・・・」
 その言葉に、あたしは目を丸くした。
「パーティーって・・・・あたしが、ですか?」
「ええ。本当ならあちらの夫婦で出席するべきなんだけれど、ご主人がどうしても都合がつかないらしくて―――それで、代わりにあきらさんが。ただ、そのパーティーは原則カップルで出席ということになってるらしいのよ。それで、あきらさんがぜひあなたとって」
 思わず、顔が引きつるのを感じる。

 ―――美作さんってば!あたしがそういうの苦手って知ってるくせに!

 「あの、でも、あたしまだダンスもちゃんと踊れないし―――」
「それは心配いらないと言っていたわ。なにしろダンスを教えてくれているあきらさんがパートナーなんだもの。きっとうまくフォローしてくれるはずよ」
「それは―――」
 そうなんだけど!
「いってらっしゃいな。そういうパーティーに参加することも一つの勉強よ。これからはきっとそういう場に出る機会も増えるわ」

 そんなありがたい言葉を残し、お婆様はにこにこしながら行ってしまった・・・・・。

 呆然とその場に立ち尽くしていると、ポケットに入れていた携帯が鳴りだして思わずびくりとする。

 携帯の画面には、『美作さん』の文字。

 『―――よお、聞いたか?』
 楽しげな美作さんの声に、あたしは溜息をつく。
「どういうこと?何であたしなの?」
『そりゃあ、パートナーにするならお前だと思ったからだよ。なんだよ、都合悪かったか?』
「そうじゃないけど―――。あたし、パーティーなんて・・・・・」
『心配すんな。俺がしっかりフォローするから』
「そんなこと言われても」
『俺が相手じゃ不満?』
「そうじゃないけど」
『だったらいいだろ?心配しなくても、それで即結婚なんて話にはなんねえよ』
「あ、当たり前でしょ!」
『じゃ、そういうことで、よろしくな』
「はあ?ちょっと美作さん―――?」

 電話の向こうからはツーツーという、無機質な音が響いていた。

 何でこう金持ちっていうのは人の話を聞かないんだろう。

 大きな溜息をつきながらも。

 でも美作さんは、本当にあたしが嫌がってることならしないよね・・・・・。

 妙な信頼感。

 ふと、西門さんに言われたことを思い出す。

 こういうのが、イライラするんだっけ・・・・・。

 4人への気持ちが、微妙に違うことは認めるけど―――

 だからって、西門さんよりも美作さんの方が好きとか、そういうことはないんだけどな・・・・・


 翌日、学校へ行くと教室の前で美作さんが待っていた。

 そこに立っているだけで周りの女子が色めき立つ。

 そんなことも全部わかってて知らん顔してるあたり、さすがだと感心してしまう・・・・・。
「昨日、言い忘れたことがあってさ」
 そのまま屋上まで連れだされ、美作さんが言った。
「何?」
「昨日の話、あいつらには言うなってこと」
「言っちゃいけないの?」
「邪魔されたくねえからな。いいか?絶対言うなよ?」
 指をつきたてられ、念を押される。

 そりゃあ、言うなと言われれば言わないけど。

 でも道明寺はともかく、あの2人にそんなの通用するの?

 甚だ疑問ではあったけれど―――

 あたしだってトラブルが起きてほしいとは思ってないから。

 ここは言う通りにしようと思ったわけなんだけど―――

 でもそんなことが、黙って見過ごされるはずはなかった・・・・・。







お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪