「牧野さん、今度おうちに遊びに行ってもいいかしら」
あの意地悪3人組が、あたしの前で気持ち悪いくらいの愛想笑いを浮かべて言う。
「―――悪いけど、忙しいから」
決して嘘はついていないけれど。
もし暇でもお断りって正直思ってしまったのは仕方のないことだよね。
「え〜、ざんね〜〜ん!ねえ、じゃあ今度ぜひうちのパーティーにいらしてよ。親戚に紹介したいの」
「あら、それならわたしも!」
「ずるいわ、わたしが先よ」
うんざり。
無視してさっさと帰ろうとしていると―――
「牧野、今度うちに来ないか?」
突然、隣にいた男子が話しかけてくる。
「は?」
「うちの両親に牧野のこと話したらすげえ会いたがってさ。今度ぜひうちに連れて来いって言われちゃって―――」
「な――何勝手なこと―――」
「まったくだ」
突然後ろから背中越しに抱きしめられ、あたしは息を呑む。
「牧野が俺らF4にとってどんな存在かわかってて言ってんのか。だとしたら大層な度胸だけど」
「西門さん!?」
ギュッと腰に回された腕に、くらくらする。
「ちょ、ちょっと西門さん、離して」
「やだね」
「な―――」
「言っとくけど、こいつに手ぇ出したらただじゃすまないと思えよ」
西門さんにじろりと睨まれた男子は真っ青になって後ずさった。
「そ、そんな、手を出すだなんて―――じゃ、じゃあ俺はこれで!ま、またな牧野!」
一目散に教室から出ていく男子を見送り。
西門さんはあたしの手を取ると、そのまま手を引き歩き出した。
「ちょっと、西門さん―――」
ムッとしたままの西門さん。
「いいから、お前は来い」
その手の力は強くて、とても振りほどけなかった・・・・・。
連れて行かれたのはいつもF4がいる裏庭ではなく、あまり人が行かないような、今は使われていない古い資料室だった。
「―――何でこんなとこ」
あたしの言葉に、西門さんは肩をすくめた。
「すぐにわかるようなとこじゃまた邪魔されるからな」
そう言うと、掴んだ手を離さないままくるりと向き直り、あたしをじっと見つめた。
「どうしたの?」
「―――最近、すげえイライラする」
あたしをじっと見つめるその瞳はどこか熱を帯びていて。
「1人の女相手に、こんな風に思ったことないのにな。ちょっとしたゲームのつもりだったのに―――最近の俺はお前のことばっかり考えてるよ」
その瞳の熱さから逃れようと、後ずさるけれど。
西門さんの手の力が緩むことはなくて―――。
いつの間にかあたしは壁に押し付けられ、壁に手をついた西門さんから行く手を阻まれるような形で身動きができずにいた。
「類や司とのやり取りとか、あきらに対する信頼とか、そんなの見るたびにイライラする。さっきのも―――あんなつまんねえ男に言い寄られやがって」
「あ、あれは―――」
「お前は、隙がありすぎ。他の男に甘い顔見せんなよ」
「甘い顔なんて―――」
―――大体、何で西門さんにそんなこと・・・
ちょっとムッとして西門さんを睨みつけると、西門さんが困ったように顔を顰めた。
「―――やばい。俺重症」
突然あたしの肩に顔を埋めるようにして溜息をつく西門さん。
「は?重症?西門さん具合悪いの?」
「―――あほ」
「あ―――」
再び顔を上げたかと思うと、至近距離であたしをじっと見つめる西門さんに、どきんと胸が鳴る。
「―――怒ってる顔も可愛いと思えるなんて、かなり重症だろ」
「え―――」
「マジで―――俺は、お前に惚れてるってこと・・・」
一瞬、頭が真っ白になった。
西門さんの手があたしの頬を撫で、ゆっくりと顔が近付いてくる―――。
あと少しで唇が触れるというところ。
あたしははっとして、西門さんの胸を押し返した。
「―――やめて」
「―――何で?類とはキスしたんだろ?」
「それは―――」
「類はよくて俺はだめなわけ?お前は―――類が好きなのか?」
―――あたしが、類を好き―――?
「だとしても―――まだ俺はお前を諦めるつもりはねえからな」
西門さんの熱を帯びた瞳が、あたしをじっと見つめる。
「絶対―――振り向かせて見せる。覚悟してろよ」
こんな西門さん、見たことない。
いつも余裕な顔で、人をからかって楽しんで・・・
『仲間』だと思っていた人が急に『男』に変わった・・・・
そんな現実に戸惑い、受け入れられないでいるあたしがいた・・・・・。
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