「邪魔するぜ」
突然扉をノックする音がしたと思ったら、聞き覚えのある声が聞こえ、あたしは驚いて類の胸を押し戻した。
「すげえ、グッドタイミング」
にやりと笑う西門さんが、あたしを見て言った。
「バッドタイミングだよ。何で総二郎がここに居んの」
じろりと西門さんを睨む類。
西門さんはそんな類の視線から目をそらし、肩をすくめた。
「んなもん、邪魔しに来たに決まってるだろ。こないだはお茶の稽古邪魔されたからな」
「邪魔なんかしてない。見てただけだよ」
「よく言うぜ。じゃ、俺も見てるだけにしてやるよ。フランス語の勉強だろ?本が閉じられてるみてえだけど?」
「実践してたんだよ」
「へーえ、ラブシーンの実践でもしてたわけ?ずいぶん密着してたけど」
「総二郎には関係ない」
2人の間に、バチバチと火花が飛んでいるようだった。
「ちょ、ちょっと、やめてよ2人とも。花沢類、勉強しよ。ね、さっきの続きから―――」
あたしは閉じられていた本を手に取ると、さっきまで開いたページをぱらぱらと探した。
「牧野、いいよ」
類があたしの手を止める。
「え―――いいって?」
「総二郎がいたら余計に集中できないでしょ。今日はもうやめて、どっか行こう」
そう言って類が立ちあがった。
見ていた西門さんが、怪訝な顔をする。
「どこ行くんだ?」
「総二郎に言う必要ないし。行こう、牧野」
「ちょ、ちょっと―――」
グイっと手を引かれ、あたしは引きづられるように立ち上がったけれど―――
「こら、待て!」
すぐに逆の手を西門さんに掴まれ、グイっと引き寄せられる。
「牧野はお前んとこにフランス語の勉強しに来てんだろうが!勝手にさぼんなよ!」
「教えんのは俺だから、俺がいいって言ったらいいんだよ」
「だから、勝手なルールつくんなって!」
「ちょ―――」
2人に両側から手を引かれ、あたしはどっちに行くこともできず次第に手が痺れてきた。
「総二郎、その手離してよ」
「お前の方が離せ」
「やだね」
「てめ―――」
「いい加減にしてよ!!」
あたしの怒鳴り声に、2人の動きが止まる。
「もう、離して!」
反射的に、パッと手を離されようやくあたしは自由になった。
「一体何の喧嘩してんのよ」
あたしがじろりと睨むと、花沢類と西門さんは顔を見合わせた。
「何って―――」
「俺は、牧野と2人になりたいだけ」
「だから、お前は牧野にフランス語を教えるんだろうが」
「教えてるよ」
「お前な―――」
「ストップ!もう、いちいち喧嘩腰にならないでよ」
これじゃあ本当に勉強どころじゃない。
これから西門さんの家や花沢類の家へ行くたびにこれじゃあ、本気で困る。
やっぱりここは―――
「美作さんに、いてほしいな」
思わず口から出た言葉に、2人の眉がピクリとつり上がる。
「―――それ、どういう意味?」
「お前まさか、あきらのこと―――?」
「そ、そういう意味じゃなくって!美作さんがいれば喧嘩にはならないかと思って―――」
2人が、再び顔を見合わせる。
「―――なるほどね。そういうことなら―――」
「今度から、あきらも呼ぼう」
「へ―――?」
いったい何でそうなるのか。
2人きりの勉強会から、なぜかF3との勉強会に代わってる・・・?
ていうか。
何でそこに道明寺の名前は出てこないんだろう・・・・・?
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