「あきらと一緒にいると安心するって?そりゃあお前、あきらが恋愛対象外だからだろうが」
偶然廊下で会った道明寺と、なぜか屋上で話していた。
『あいつらに邪魔されたくねえ』と言う道明寺に引っ張ってこられたんだけど―――。
「やっぱりそうなのかな。でも、美作さんがいなくなったら本当に困りそう」
そう言うあたしを道明寺がじろりと睨む。
「妙に腹立つな。まさかあきらと結婚したいとかいうんじゃねえだろうな」
「なんでそうなるのよ。今、恋愛対象外だってあんたも言ったばっかりじゃない」
「けどあきらと一緒にいると安心するんだろ?結婚相手としちゃあ最適じゃねえか」
「最適って―――そういう意味で言えばってことでしょ?あたし的には恋愛対象にならない人とはやっぱり結婚なんてできないと思うし」
「じゃあ俺は?」
そう勢い込んで聞いてくる道明寺に、ちょっと身を引きながら。
「なんでそこであんたが出てくんの!」
「当り前だろうが!お前の相手は俺って決まってるんだ!」
「だから、決まってないっつーの!誰か1人選ぶなんて、まだそんな段階じゃないんだから」
「じゃあ、この状態のままで卒業まで引っ張るつもりかよ?」
その言葉にハッとする。
卒業までに決めればいい。
そんな風に漠然と考えていたけど。
でもそれじゃあ、4人の気持ちはどうなるんだろう?
4人の人生は、4人のもので。
あたしが決めていいものじゃないんだ。
だったら、卒業までなんてのんきなことを言ってちゃいけないんじゃないだろうか・・・・・。
バイト先の店では新しいバイトの学生も決まり、あたしは学校が終わると迎えの車に乗り、家で特別な教育を受ける毎日だった。
まさか自分が英才教育を受けるようなことがあるなんて思わなかったけれど。
勉強ばかりの毎日でつまらないかと言えばそうでもなくて。
毎日いろんなことを勉強できるのは意外と楽しかった。
それに週に3回は花沢類、美作さん、西門さんの家に行くことができるし。
それ以外にも道明寺が家に来たり、F4全員が揃うこともあって、なかなか賑やかで楽しかった。
だけど楽しんでばかりはいられないんだと、道明寺の言葉を思い出す。
『この状態のままで卒業まで引っ張るつもりかよ?』
やっぱりそれはよくない。
だけど、どうすればいいんだろう。
F4は仲間で、友達で―――
誰も傷つけたくはない。
だけど、このままじゃ誰かが傷ついてしまう。
誰も傷つかないではいられないのかもしれないけど―――
「牧野」
花沢類の声にハッとする。
気づけば、そのきれいな顔が間近に迫っていて。
「心ここにあらず?何かあった?」
心配そうにあたしの顔を覗き込む類。
「な、何でもない。ごめん」
類はじっとあたしを見てたけれど、ふと、開いていたフランス語の本を閉じた。
「今日はもうやめようか」
「え―――」
「何か考え事をしてる時って、いくら勉強しても頭に入ってこないだろ?今日はおしまい。何か話しよう」
にっこりと微笑む類に。
あたしの心がちょっと浮上する。
この人の笑顔には、いつも癒される。
ドキドキさせられる時もあるけど―――
でも、なぜだかいつも、幸せな気分にさせてくれるんだ・・・・・。
「今朝、司と何話してたの?屋上で」
「あ・・・・見てたの?」
「ちょうど見えたんだ。何か、言い合ってるように見えたけど」
「言い合ってたわけじゃ―――」
「じゃ、何話してたの?朝から2人きりで、屋上で」
「え―――」
にっこりと微笑むその類の笑顔が。
ちょっとだけ怖くなったような。
嫌な予感がして、あたしはそのまま後ずさろうとしたけれど。
逆に腰を引き寄せられ、ぐっと顔が近付く。
「は、花沢類、あの―――」
「やっぱり、司が好き?」
類の言葉に、あたしはぶんぶんと首を振る。
「違う?じゃあ、俺のことは?好き?」
―――好き。
咄嗟にそう言いそうになって、あたしは自分で驚き手を口にあてる。
―――ちょっと待って。今、あたし―――
「牧野?」
頬を撫でる、類の冷たい手にびくりと震える。
「俺のこと―――好き―――?」
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