「なんでお前がいるんだよ」
西門さんが、不機嫌にじろりと睨んだ先には花沢類。
「総二郎と牧野、2人きりにしたくなかったから」
そう言って肩をすくめ、茶室でくつろぐ類に、西門さんの眉がピクリとつり上がる。
「お前な・・・・・これから稽古だっつーのに―――」
「その稽古にかこつけて、牧野に触れるつもりでしょ」
「ふん。触れるくらいどうってことないだろうが。そういうお前は牧野に何した?抜け駆けしやがって」
「俺は俺のやりたいようにやってるだけ。それに、牧野の気持ちを無視してるわけじゃないよ」
「―――どういう意味だ?」
「さあ」
2人の間に、火花が散る。
もう、逃げたいんですけど。
じりじりと後ずさり始めるのを、西門さんの手が伸びて来て無言で止められる。
―――『牧野の気持ちを無視してるわけじゃない』
確かに、無理やりキスされたわけじゃない。
でもあれは、不意打ちというか―――
「それでも、俺も諦めるつもりはねえからな」
「どうぞご自由に。でも、牧野は渡さない」
「だから、おめえのもんじゃねえだろうが」
「ね、ねえ、稽古しないの?」
これ以上放っておいたらもっと険悪なことになりそうで、あたしは慌てて身を乗り出した。
「お前も、なんだってそう類には甘いんだよ」
今度はあたしをじろりと睨む西門さんに、思わずうっと詰まる。
「あ、甘いって―――」
「最初っから、お前は類に甘い。本気で類が好きなのかと思った時期もあるけど、お前のは条件反射に近い。類に何か言われるといやって言えねえんだ」
それは、はっきり言って否定できない・・・・。
何よりも、あのビー玉のように透き通った瞳で見つめられると、何も言えなくなってしまう。
だけど、それがなんていう気持なのかは、わからない。
好きなのかな・・・・・
「だけど俺もまだ勝負を捨てたわけじゃねえからな。類の1人勝ちになんかさせねえから覚悟しとけよ」
再び睨み合う2人に。
いつになったら稽古が始まるんだろうと、溜息をつきたくなるあたしだった・・・・・。
結局その日は類の邪魔もあってほとんど稽古にならず。
それなのに石田が迎えに来るころにはすっかり疲れきっているという状態だった。
そして翌日は美作さんの元でダンスのレッスン。
「どうせなら、美作さんもいてくれたらよかったのに」
昨日のことを話しながらそういうと、美作さんが苦笑した。
「俺を安全パイみたいに言うなよ。俺だってお前の花婿候補の1人だぜ?」
「そうだけど―――。なんか最近、西門さんと花沢類ってちょっと雰囲気悪いっていうか―――」
「ああ、あの2人は―――類と司も正反対の2人だと思うけど、総二郎と類の家ってのもまるっきり環境が違うからな。類は1人っ子で総二郎は3人兄弟。昔から引きこもりがちで人と接するのが苦手だった類と、嫌でも兄貴と比べられて家を嫌ってた総二郎。いつでもマイペースの類に、結局周りの人間のことを常に考える性格の総二郎はイラつくことも多かっただろうしな。類はそういうのを鬱陶しがるし」
「ふーん・・・・・。でも、周りのことを考えるってところは美作さんだってそうでしょ?」
あたしの言葉に、美作さんはちょっと笑った。
「俺と総二郎の違いは、総二郎は間違ってると思ったことははっきりそう言うし、自分と合わないと思ったらとことんぶつかり合うのに対して、俺は丸く収めようとするから。相手が触れて欲しくないようなとこには触れないし、誰か2人が険悪になってればそれを無理に仲直りさせようとはしないで間に入って2人の距離を保つ。痛いとこには触れないから毒にはならないけど、結局問題は解決しないから薬にもならねえ。そんなとこじゃねえの」
何となく自嘲気味な言葉。
「美作さんは、大人なんだよ。特に道明寺なんて子供だから・・・美作さんみたいな人がいなかったら、きっとF4なんて存在しなかったんじゃない?昨日みたいにちょっと険悪になった時って、やっぱり美作さんってすごいなって思うもん」
その言葉に、美作さんがちょっと笑う。
その笑顔が、思いの他嬉しそうに見えてドキッとする。
「褒めても何も出ねえけどな。あいつらとの付き合いは長いから、扱い方を知ってるんだよ。もしなんか困ったことがあったら俺んとこ来いよ。お前の力にはなってやるから」
ポンポンと、優しく頭を撫でる美作さんの手に。
なんだか妙に安心しているあたしがいた・・・・・。
|