***秘密の花園 vol.18 〜?つくし〜***



   気が付いたら家についていた。

 類に送ってもらったらしいことはわかっていたけれど。

 あたしの頭の中はパニック状態で、とてもじゃないけど、今の状況を冷静に受け止めることなんてできなかった。

 映画館でのキス。

 まるでスクリーンの中に迷い込んでしまったかのように、花沢類のきれいな顔が眼前に迫ってきて―――

 思い出しただけで顔が熱くなる。

 「―――どうしよう」

 意味のない言葉が口から洩れる。

 どうしようったってどうしようもない。

 花沢類とキスしてしまった。

 それは紛れもない事実で―――

 それを拒めなかったことにも、あたしはショックを受けていた。

 ―――花沢類が、好き・・・・・・?

 もちろん、好きだ。

 だけど、この気持ちは恋なんだろうか・・・・・?

 ―――わからない・・・・・



 眠れぬまま夜が明け、あたしは寝不足の状態で翌日登校したのだけれど―――

 「何お前、寝不足?」
 教室に入る前に美作さんに捕まり、そう言って顔を覗きこまれる。

 昨日の今日で、またきれいな顔が目の前に迫り、思わず赤面する。
「―――その反応、怪しすぎ。昨日、類と何かあったろ」
「なな、なんにもないよ!何言ってんの!」
 あたしの言葉に、溜息をつく美作さん。
「正直な奴―――。いいから来いよ」
 ぐいぐいと手を引かれ、そのまま裏庭まで連れて行かれる。
「ちょっと、授業が―――!」
「んなもん出なくていいって。それより、白状しろよ。昨日何があった?」
「な―――何もないってば」

 誰もいない裏庭で。

 掴まれた手をグイっと引き寄せられ、必要以上に顔が近付く。
「お前、それでごまかしてるつもり?ばればれなんだよ」
「ごまかしてなんて―――大体、何でそんなこと美作さんに言われなきゃならないの」
「そんなの当然だろ」
「当然て―――」
 なんだか怖い。

 美作さんの目が、いつもと違う気がする。

 掴まれた手はすぐには振りほどけないほどで。

 じっと見つめる美作さんから、目をそらすことができなかった。

 そのまま、近づいてくる美作さんの顔。

 スローモーションのように、ゆっくり―――

 “カサッ”

 後ろから聞こえた微かな音にあたしははっとして、掴まれた手を振りほどき、美作さんから離れた。

 「―――もしかして邪魔した?」
 姿を見せたのは、西門さんだった。
「すげえ邪魔。てか、狙ってたんだろ、どうせ。このタイミングの良さ」
 呆れたように肩をすくめる美作さん。
「まあな。抜け駆けはさせねえよ」
「それ、類にも言った方がいいぜ。もう手遅れだけどな」
 美作さんの言葉に、西門さんが顔を顰める。
「はあ?どういうことだよそれ。牧野、お前類と何かあったのか」
 じろりと西門さんに睨まれ、あたしは反射的に後ずさる。
「な、何よ、なんにもないってば」
「嘘つけ。お前の嘘なんかすぐ見破れるっての。言えよ、何された?」
 美作さんよりもさらにストレートな物言いに、あたしは顔が熱くなっていくのを感じていた。
「―――その顔。キスでもされたか?」

 ボッと、火が出そうな勢いで熱が一気に上がったような気がした。

 「キッ、キスなんてっ―――!」

 「決まりだな」

 「類の奴―――」

 2人の目が、不機嫌に細められ、その眉間に深いしわが寄せられるのを、あたしは背中に嫌な汗が流れるのを感じながら見ていた。

 「キスくらい、どうってことねえけど―――」

 「ああ。おかげで、こっちも火がついたな」

 そう言って、2人が一歩あたしに近付き。

 「「牧野。覚悟しとけよ」」

 その言葉に。

 あたしは思わずその場を逃げ出したのだった・・・・・。







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