気が付いたら家についていた。
類に送ってもらったらしいことはわかっていたけれど。
あたしの頭の中はパニック状態で、とてもじゃないけど、今の状況を冷静に受け止めることなんてできなかった。
映画館でのキス。
まるでスクリーンの中に迷い込んでしまったかのように、花沢類のきれいな顔が眼前に迫ってきて―――
思い出しただけで顔が熱くなる。
「―――どうしよう」
意味のない言葉が口から洩れる。
どうしようったってどうしようもない。
花沢類とキスしてしまった。
それは紛れもない事実で―――
それを拒めなかったことにも、あたしはショックを受けていた。
―――花沢類が、好き・・・・・・?
もちろん、好きだ。
だけど、この気持ちは恋なんだろうか・・・・・?
―――わからない・・・・・
眠れぬまま夜が明け、あたしは寝不足の状態で翌日登校したのだけれど―――
「何お前、寝不足?」
教室に入る前に美作さんに捕まり、そう言って顔を覗きこまれる。
昨日の今日で、またきれいな顔が目の前に迫り、思わず赤面する。
「―――その反応、怪しすぎ。昨日、類と何かあったろ」
「なな、なんにもないよ!何言ってんの!」
あたしの言葉に、溜息をつく美作さん。
「正直な奴―――。いいから来いよ」
ぐいぐいと手を引かれ、そのまま裏庭まで連れて行かれる。
「ちょっと、授業が―――!」
「んなもん出なくていいって。それより、白状しろよ。昨日何があった?」
「な―――何もないってば」
誰もいない裏庭で。
掴まれた手をグイっと引き寄せられ、必要以上に顔が近付く。
「お前、それでごまかしてるつもり?ばればれなんだよ」
「ごまかしてなんて―――大体、何でそんなこと美作さんに言われなきゃならないの」
「そんなの当然だろ」
「当然て―――」
なんだか怖い。
美作さんの目が、いつもと違う気がする。
掴まれた手はすぐには振りほどけないほどで。
じっと見つめる美作さんから、目をそらすことができなかった。
そのまま、近づいてくる美作さんの顔。
スローモーションのように、ゆっくり―――
“カサッ”
後ろから聞こえた微かな音にあたしははっとして、掴まれた手を振りほどき、美作さんから離れた。
「―――もしかして邪魔した?」
姿を見せたのは、西門さんだった。
「すげえ邪魔。てか、狙ってたんだろ、どうせ。このタイミングの良さ」
呆れたように肩をすくめる美作さん。
「まあな。抜け駆けはさせねえよ」
「それ、類にも言った方がいいぜ。もう手遅れだけどな」
美作さんの言葉に、西門さんが顔を顰める。
「はあ?どういうことだよそれ。牧野、お前類と何かあったのか」
じろりと西門さんに睨まれ、あたしは反射的に後ずさる。
「な、何よ、なんにもないってば」
「嘘つけ。お前の嘘なんかすぐ見破れるっての。言えよ、何された?」
美作さんよりもさらにストレートな物言いに、あたしは顔が熱くなっていくのを感じていた。
「―――その顔。キスでもされたか?」
ボッと、火が出そうな勢いで熱が一気に上がったような気がした。
「キッ、キスなんてっ―――!」
「決まりだな」
「類の奴―――」
2人の目が、不機嫌に細められ、その眉間に深いしわが寄せられるのを、あたしは背中に嫌な汗が流れるのを感じながら見ていた。
「キスくらい、どうってことねえけど―――」
「ああ。おかげで、こっちも火がついたな」
そう言って、2人が一歩あたしに近付き。
「「牧野。覚悟しとけよ」」
その言葉に。
あたしは思わずその場を逃げ出したのだった・・・・・。
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