当時、私立の女子高に通っていたママは大学生だったパパと付き合っていて、放課後になると急いで待ち合わせの喫茶店に向かうのが日常だったらしい。
そしてそんな日常の中、ある男に出会った。
いつものように待ち合わせの喫茶店に向かう途中、ママは喫茶店で自分を待っているはずのパパの姿を見つける。
数人の学生に囲まれているパパ。
どうやらカツアゲされているようだった。
迷うことなくそんなパパを助けようとママはそこへ飛び込んでいった。
当然その学生たちは怒りの矛先をママに向け―――
パパを庇って男たちの前に立ちはだかるママ。
殴られることも覚悟した時―――
『目障りなんだよ。消えろ』
迫力のある低い声。
学生たちはその男を知っているようだった。
あっという間に学生たちは逃げ去り―――
パパを庇うように立っていたママを見て、こう言ったんだそうだ。
『女に庇ってもらうような男と付き合ってると、ろくなことにならねえぞ』
だから、ママはこう言い返した。
『この人のことは、あたしが守る。庇ってるんじゃなくて、あたしにとってこの人が必要だから守ってるのよ!』
そんなママを、まるで珍しい動物でも見るような目で見ていた男。
『―――変な奴だな』
呆れたように。
でもおかしそうに笑ってそう言った男。
今の今まで忘れていたけれど―――
「今考えてみると、あの時の男は今の道明寺さんとそっくりだったわ」
「道明寺と―――」
もしかして、それがきっかけで、道明寺の父親はママに興味を持ったんだろうか。
ママのことを調べて―――
ママが菅野家の娘だと知った。
そして、近づこうとした―――?
でもそれは想像に過ぎない。
それに。
出会いがどうだったとしても、今現実にママはパパと結婚していてあたしと進という子供がいる。
そして道明寺の父親も楓と結婚し、2人の子供がいる。
両家の間にどんな因縁があったとしたって、今のあたしには関係ないはず―――。
「だったら、俺と付き合ったって何の問題もねえじゃねえか!!」
「だから、何であたしとあんたが付き合うのよ!」
学校で、あたしはF4に道明寺家との過去のことを話していた。
「そんなドラマティックなことがあったなんて、意外だな」
と、美作さん。
西門さんも頷いて。
「ああ。さしづめ、司の親父はその時の牧野の母親に一目惚れしたってとこか」
「で、見合いまでセッティングしたのに逃げられた―――と。男としちゃあプライドが傷つけられるわな」
「で、その直後に司の母親と見合いしてそのまま結婚か。事情を知ってるんなら、母親の方だって穏やかじゃねえよな」
「そんな昔のこと、未だにこだわってんだから相当プライドが傷ついたんじゃねえ?」
「―――プライドの問題、なのかな」
あたしの言葉に、F4があたしの方を見た。
思い出すのは道明寺楓の表情。
怒りというよりは悲しみ―――。
傷ついたのはもしかして、プライドじゃなくて―――
「どっちにしろ、この婿取り合戦、司は戦線離脱だな」
にやりと笑う西門さんに、道明寺がいきり立つ。
「なんでそうなるんだよ!今牧野も言ってただろ!?過去に何があったって、俺たちには関係ねえ!!」
「お前らがそう思ってたって、道明寺楓が納得しねえだろ?あの母親が認めないってことは、すなわちお前らの結婚はないってことじゃん」
「ざけんな!ババアの言いなりになんかならねえかんな!」
そう言って拳を握って立ち上がり、そのままの勢いで道明寺はどこかに行ってしまった・・・・・。
「―――司の父親は、知ってるのかな」
類がぽつりと言った。
「何を?」
「その、昔自分と見合いするはずだった菅野家の娘が今また戻って、その女の娘と自分の息子が結婚するかもしれないって話」
「どうだろうな。ずっとアメリカの方に行ってて、司もずっと会ってないって話だし。仕事が忙しくって、そんな昔のこと思い出す暇もないんじゃねえ?」
美作さんの言葉に、西門さんはふとまじめな顔をした。
「―――意外と、そういうのって男の方がデリケートだったりするけどな」
「なんだよ総二郎、急にまじめな顔して」
「いや―――。もし司の父親が本当に牧野の母親のことを忘れてなかったら―――父親の方は司と牧野が結婚するのに賛成かもしれねえなって思ったんだよ」
「だとしたって、あたしが道明寺と結婚するとは限らないでしょ。両家の過去がどうだって、今のあたしには関係ないよ」
そう、大事なのは今だ。
両家の過去なんて、そんなあたしが生まれる前の話なんて関係ない。
なんだか周りが勝手にいろんな過去を引っ張りだしてくるから、自分の結婚なんてなおさら考えられなくなってくる。
でも、とりあえず。
あの道明寺楓のことを思うと、道明寺との結婚なんてとても考えられなかった・・・・・。
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