***秘密の花園 vol.14 〜?つくし〜***



   「道明寺家と何かあったかって?」

 日曜日の朝、食事の後あたしはママの部屋へ行き、聞いてみた。

 過去に同明寺家と菅野家の間に何かあったというのなら、当然ママも知っているだろうと思ったのだけれど。
「さあ、ママは知らないわよ」
「そうなの?」
「ママ、昔から会社のことには興味なくてね。いろいろお見合いの話なんかはあったけど、全部断っていたし―――。パーティーにもほとんど出たことがないのよ」
「そうなんだ。なんか意外。あたしには玉の腰だなんて言って、道明寺と付き合えなんて言ってたくせに」
 あたしの言葉に、ママは苦笑した。
「そりゃあ・・・・・娘にはママと同じ苦労はさせたくないと思ったからよ。パパとの結婚は、あなたたちもいて幸せだったけど経済的には楽じゃなかったからね。親なら、子供にお金の苦労はさせたくないって思うものなんだって、子供を持って初めてそれがわかって―――反省したわ。そして両親に感謝した」
「ママ・・・・・」
「でも、パパと一緒になったこと、お金以外のことでは後悔してないのよ。あの通り暢気だけど、パパほど優しい人はいませんからね」

 ママらしい。

 お嬢様らしく、お金に無頓着だったママが、駆け落ちして初めてお金の苦労を知った・・・・・。

 きっと、自分には必要なことだったと思ってるんだろう。

 今、ママは菅野コンツェルンで経理の仕事をしていた。

 世間知らずのお嬢様だったママの仕事ぶりに、お爺様も驚いているという話だった・・・・・。


 「やっぱり直接聞いた方が早いかな」
 道明寺との間に何があったのか。  

 一旦気になりだすと止まらなくって。

 どうしても真相を突き止めたくなってしまった。

 だけどその真相は、意外な人物から聞かされることになるのだった・・・・・。


 「道明寺様から、ランチのご招待をいただきました」
 石田の言葉に、あたしは目を瞬かせた。
「道明寺が?ランチ?」
「正確には、道明寺楓さまからのご招待でございます」
「―――道明寺の、母親・・・・・?」

 何となく嫌な予感。

 だけどすでに道明寺家の車が迎えに来ていて。

 「まあ、ランチのご招待だなんて素敵だわ。ぜひ楽しんで来て頂戴」
 お婆様の言葉に、あたしは仕方なくその車に乗り込んだのだった・・・・・。


 「ようこそ」
 鉄の仮面の女。
 薄い笑みを浮かべた道明寺楓が、その冷たい眼差しであたしを見て微笑んだ。
「よお、座れよ」
 道明寺があたしを見てにやりと笑う。
 今日だけは、こいつがここにいてくれてよかったと、あたしは胸をなでおろしていた。
 鉄面皮のこの女と2人だけじゃ、ランチなんてとても喉を通りそうになかったから・・・・・。

 「あなたが、あの菅野コンツェルンの人間だったなんて、驚いたわ」
 食事の後、口元をナプキンで丁寧に拭いながら楓が言った。
「―――あたしも驚きました」
「あなたの母親が、菅野会長の娘だったなんて―――」
 あたしの言葉をまるきり無視し、楓はそう呟き―――小さく溜息をついた。

 見たことのない表情だった。

 何か思いにふけるような―――

 やっぱり、両家の間には何かあったのだろうか・・・・・

 「なんだよ、こいつの母親がどうかしたのか?こいつの母親のこと知ってんのかよ」
 道明寺の言葉に、楓はちらりとその視線を息子に向けた。
「―――いいえ、直接は知らなかったわ。話に聞いていただけで―――。わたしがあなたのお父様と結婚したのは、つくしさんのご両親が駆け落ちした後ですからね」
「駆け落ちのこと―――ご存じなんですか」
「もちろんよ。そのおかげでわたしは道明寺家の跡継ぎと結婚することになったんですから」
 その言葉に、さすがに道明寺も驚いたように母親の顔を見た。
「は?なんだよそれ。そのおかげってどういう意味だ?」
「言葉どおりの意味よ」
「それじゃわかんねえから聞いてんだろうが。答えろよババア」
 道明寺の言葉に眉を顰め。

 呆れたように溜息をつくと、また口を開いた。

 「わたしがあなたのお父様と結婚する前―――正確にはあなたのお父様とお見合いをする前、あなたのお父様の花嫁候補として筆頭に上がっていたのが―――つくしさんのお母様よ」

 その言葉に。

 あたしも道明寺も、言葉をなくした。

 ママと、道明寺の父親が、結婚―――?

 「そんなこと、母は何も―――」
 あたしの言葉に、楓は口の端を上げて笑みを作った。
「あなたのお母様は、後継ぎ問題にまるで興味がなかったと聞いてるわ。自分の見合い相手がどんな人間かも、その名前すら聞く耳持たなかったと。そしてごく平凡なサラリーマンと姿を消した。そして25年―――突然また姿を現して、今度はあなたと司を結婚させようだなんて―――まったく、常軌を逸した行動は相変わらずのようね」
「お言葉ですけど」
 あたしは強い口調で口を挟んだ。
「母は自分の気持ちに正直だっただけだと思います。後継ぎ問題よりも、好きな人を選んだことが、そんなに悪いことだとはあたしは思いません。それに―――今回のことは母やあたしにとって突然のことで、結婚のことだって祖父母の考えで、母から道明寺と結婚しろだなんて―――貧乏だった時にはともかく、あの家に行ってからは言われたことはありません。わたしだって道明寺と結婚するつもりなんて―――」
「おい、結婚する気はないってのか!」
「そう言ってるでしょ!」

 「まったく―――菅野会長もどうしてこの子をこのままにしておくのかしらね。もっと徹底的に教育しなおさなくては、菅野コンツェルンの恥さらしもいいとこだわ」
 楓はそう言ってあたしをその冷たい目で一瞥すると、ふっと冷めた笑みをこぼした。
「最も―――この道明寺財閥には関係のない話ですけどね」
「―――どうしてわたしを呼んだんですか?」
「あなたに知っておいてもらうためよ。菅野家の人間だからと言って、この道明寺財閥にすぐに入り込めるわけではないということ。菅野コンツェルンの力などなくても―――道明寺財閥の力は衰えないわ」

 そう言って悠然とあたしを見下すその態度に。

 もう2度とこの家には来るもんかと心に決めたあたしだったけど―――

 なぜか、何かが心に引っかかっていた。

 それが何なのか、その時のあたしにはわからなかったけれど―――







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