夕食の時間は、同時に食事マナーのレッスンの時間でもあった。
あたしと進、並んで座り食事マナーのスペシャリストだという女性の指導を受けながらの食事。
味気ないったらない。
それでもしばらくの辛抱だと思ってやるしかないのかな・・・・・。
そんな風に半ば諦めていたある日、いつものように夕食の時間にその部屋へ入ると―――
「おせーぞ、何やってんだ」
人の家のテーブルで偉そうにこちらを見たのは―――
「道明寺?なんであんたがここに居んのよ?」
いつものあたしたちの席の向かい側に、なぜか道明寺が座っていたのだ。
「お前の婆さんに頼まれたんだよ」
「お祖母さんに?何を?」
「毎日勉強ばかりでつまらないだろうから、たまには一緒に食事でもして楽しませてやってくれってさ」
「楽しませてって―――」
道明寺と一緒に食事したって・・・・
なんて思っていたけれど。
厳しい指導も最中も道明寺があれこれ茶々を入れるものだから、なかなか集中できない。
だけどいつもしんとした中で食べてるものも、こうして文句を言いながらもおしゃべりをしながら食べるとなんだか味が違ってくるみたいだった。
―――そう言えば、道明寺も昔から1人で食事をとってたって聞いた。
花沢類もそうだけど、こんな広い部屋でたった1人で食事をしてたなんて。
それが子供のころからずっとだなんて、どんなに寂しかっただろうと。
確かに道明寺も花沢類も―――もちろん他の2人もマナーは完ぺきだけど。
きっと、そんなものでは満たされない何かがあったはず。
―――この人が来てくれて、良かったのかもしれない。
隣であたしと道明寺の口げんかを聞きながら、困ったような、でも楽しそうに食事をしている進をちらりと見て。
少しだけ、道明寺を見直したりしていた・・・・・。
「ったく、何でおれだけ2人きりじゃねえんだよ」
食事が終わり、帰る前にちょっと付き合えと言われ2人で庭をぶらぶらしていた。
「あいつらはそれぞれお前と2人きりになる時間があるってのに・・・・」
「仕方ないでしょ。あんたがあたしに教えられることなんてないじゃない」
あたしの言葉に、道明寺がむっと顔を顰めた。
「じゃあ、これからは毎日ここに来てやる」
「はあ?なんでそうなるのよ?」
「俺だけ2人きりの時間がないからだ。毎日ここに通って、一緒に飯を食ってやる!」
めちゃくちゃだ。
理屈も何もあったもんじゃない。
だけど。
今日の進の顔を思い出す。
久々に楽しそうに食事をしていた。
あたしも・・・・・
そして翌日から、本当に道明寺が毎日来るようになって。
それはまあいいとして。
「なんでおめえらまで来るんだよ!」
道明寺の声に、F3が肩をすくめる。
「そりゃ、ここにくれば牧野と食事できるからな」
と美作さんが言えば西門さんも、
「そういうこと。できるだけ長く牧野といたいし?」
にやりと笑う。
その横で花沢類は。
「牧野といたら、食べ物もうまく感じるし」
と、天使の微笑み。
ただ1人不機嫌なのは道明寺で―――
「不公平だろうが!おめえらは牧野と2人きりになれる時があんのに!」
「道明寺、うるさい」
あたしの言葉に、ますますいきり立つ道明寺。
「お前も何とか言えよ!」
「しょうがないでしょ。あたしがあんたから教わることなんてないし。それに、食事は大勢でした方が楽しいでしょうって、お祖母さんも言ってたんだから」
そう。
F3を呼んだのはあのお祖母さまだ。
最初に道明寺を呼んだのもそうだけど。
進が楽しそうに食事をしていたとマナーの先生に聞いたらしいお祖母様が、それならもっと人数も多い方がいいだろう、と提案したらしいのだけれど。
道明寺はすっかり拗ねてしまっていた。
それもまあ仕方がないことだとは思うのだけれど・・・・・
「司と牧野を、2人きりにしたくない理由があるのかもね」
花沢類の家に行った時、ふとそんなことを言われた。
「2人きりにしたくない理由?お祖母様に?」
「かな。俺にもよくわからないけど。確かに、4人のうち1人だけが違うって不自然だしね」
言われてみればそうなのだけれど―――
「菅野家と道明寺家の間で、過去に何かあったのかな・・・・」
花沢類の言葉に、何となく胸騒ぎがしていた・・・・・
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