***秘密の花園 vol.11 〜?つくし〜***



   「心臓に悪いのよ、あの人は」  

 あたしの言葉に、くすくすとおかしそうに笑いながら、美作さんが優雅にあたしの手をとる。

 今日はダンスのレッスン。

 講師は美作さん。

 いつも思っていたんだけど。

 この人からは、時折甘い香りがする。

 花の匂いなのかな。

 なんだか、優しい感じの―――

 「総二郎からすりゃあ、お前みたいのはからかい甲斐があるんだろうな。いちいち言われたことを真面目に受け止めて赤くなったり青くなったり―――見てて飽きねえよ」
「おもちゃじゃないんだから―――」
「おもちゃだったらいつか飽きる。けどお前は違うだろ?いつも同じ反応するわけじゃねえし。予想外の反応見せたりするから一緒にいる方は楽しいんだよ」

 そう言ってちょっと小首を傾げ、あたしを見つめる。

 その艶っぽい視線に一瞬どきりとする。

 ステップを踏むたびに、美作さんのきれいな髪が揺れる。

 この人の立ち居振る舞いもまた秀逸だ。

 相手をうまくリードして、下手なのにちゃんとできているような錯覚を起こす。

 なんて思っていたら、危うく足を踏みそうになって、慌てて体勢を直す。
「ご、ごめん」
「いや、気にすんな。最初はそんなの当たり前なんだから。こっちも踏まれること覚悟してっから、大丈夫だよ」  

 美作さんの言葉に、スーッと気分が楽になる。

 やっぱりこの人は大人だ。

 優しくて、繊細で、それでいて包容力がある。

 女の人にもてるのも納得。

 もちろん、この人の女性にも負けない美しさももてる要素ではあるのだろうけど。

 「美作さんの髪って、きれい」
 あたしの言葉に、美作さんが目を瞬かせる。
「なんだよ、急に」
「前は、ウェーブがかかってたでしょ?今はきれいなストレート。パーマかけてたの?それとも今がストパ?」
「ストパ。このほうが楽なんだ、絡まなくて。司ほど剛毛じゃねえけど、俺のも頑固なくせ毛だから。それに今はストレートの方が女の子にウケる」
 にやりと笑う美作さんに、思わず溜息。
「あっそ・・・・・。女の子にもてるためにそうしたの?」
「ま、理由の1つではあるよ。誰だって嫌われるよりは好かれる方がいいだろ?どんな人間だって、始めは見た目で判断するし」
「そりゃそうだけど―――」
「お前は?」
「へ?」
「お前はどっちがいい?ウェーブとストレート」
 ぐっと顔を近づけられて。
 思わずドキッとする。
「あ、あたしは別にどっちでも―――。ただ、ウェーブの時に思ったんだけど、ああいう髪型が似合う男の人ってそういないなって。ちょっとキモイし」
「キモイ?」
 ピクリと引きつる美作さんの顔。
 あたしは慌てて首を振った。
「美作さんじゃなくて、一般的にってこと!美作さんだと―――なぜか王子様みたいに見えるっていうか―――むしろ可憐に見えるから不思議だなと思ったの。やっぱりお母さん似なのかな」
 その言葉に、複雑そうに顔を顰める。
「褒められてんのか?それ」
「褒めてるんだけど」
「―――ま、いいか。けどまあ、今はこの髪型が気に入ってるから当分変える気はねえけどな」
「何よ、じゃあ聞かないでよ」
「お前の意見が聞きたかったんだよ」

 にっこりと微笑むその笑顔に、またどきりとする。

 この人たちって。

 女の子にうけるツボを知っているというか、自分の魅力を知りすぎてるっていうか・・・・・。

 いろんな意味で気をつけなくちゃいけない人たちだ。

 ふと、美作さんの手があたしの髪に触れた。
「お前の髪って、ちょっと硬いけどきれいだよな。染めたりとかしたことねえだろ」
「う、うん」
 触れられたことにドキッとしてしまう。
「変なくせがなくて、まっすぐなストレート。まるきり、お前自身みたいだな」
 くすりと笑う。
「―――今まで、司を通して見ることが多かったけど―――これからは、もっとお前のことを知りたいな。知れば知るほど、嵌っていきそうで怖いけど―――」
「何よ、怖いって」

 「―――本気で惚れそうってこと」

 急に耳元で囁かれて。

 その甘い響きに、くらくらしてしまっているあたしがいた・・・・・。







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