早速始まったお穣様修行。
それになぜかF4が代わる代わる参加して。
今日は茶道のお稽古で、西門さんの家へ行くことになった。
「これ以上ない講師ですものね。あちらも快く引き受けてくださったし」
お祖母さんの言葉に、あたしの笑顔が引きつる。
そりゃあ、時期家元が個人レッスンしてくれるというのだからこれ以上ないありがたい話なはずなんだけど。
なんとなく、西門さんと2人きりというシチュエーションに身構えてしまうのはなぜだろう・・・・・。
「そりゃあ、こんないい男が個人教授するんだから緊張するのは当然だろ」
しゃあしゃあと言ってのけるセリフも、何も言い返せないのが悔しい。
「心配しなくても、稽古中に手ぇ出すような不埒な真似はしねえから安心しろよ」
クックッとおかしそうに笑う西門さん。
完全に馬鹿にされているようで、ムカつくったらない。
この人と結婚なんて、絶対あり得ないと思うんだけどなあ。
それでも稽古が始まってしまえば、西門さんの表情もがらりと変わり、きりっとした表情と優雅な立ち居振る舞いに、思わず見惚れてしまっているあたしがいた。
「意外と筋がいいよな。本気でやりゃあ、すぐに上達するよ」
一通りの稽古を終えた後、西門さんがそう言って微笑んだ。
ふっと零れた優しい笑みに、どきりとする。
いつもの嫌味な感じじゃなくて、まるで優しく包み込むような―――
「なんだよ、ついに俺に惚れたか?」
ずいっと顔を近づけられて、はっとする。
「そ、そんなんじゃないから!」
プイっと顔をそむけて。
―――やっぱり西門さんは西門さんだ。
なんて思っていると、急に手を握られてどきりとする。
「な―――何よ」
その端正な顔を見上げてみると、にやにやと不敵に微笑む西門さんが、面白そうにあたしを見つめていた。
「いや―――お前も、やっぱ女だなあと思ってさ」
「どういう意味」
「ガサツで乱暴で、しとやかさとか色気のかけらもなくて、到底女としてなんて見れないと思ってたけど」
ずいぶんな言いようじゃない?
「悪かったわね。この手、離してよ」
あたしの言葉に、西門さんはくすくすと笑って。
「まあ待てって。けど良く見てみりゃあ可愛い顔してるし、肌もきれいだし、たまに女の子っぽいこと言ったり色気なんかも垣間見える。磨けば磨くほど光るタイプなんだよな」
「急に褒められても、素直に受け止めらんないんだけど」
「いや、マジでさ。普段そんな風に見えないからこそ、たまに見える女の部分にドキッとするっていうか―――。もっと、お前のことを知りたくなる」
「―――冗談でしょ」
「そう思うか?だったら―――お前も俺のことをもっと知ってみれば?俺ら4人の中の誰を選ぶか・・・・もっとちゃんと1人1人のことを知れば、意外な答えが見つかるかもしれないぜ?」
―――意外な答え?
あたしが、この人を選ぶこともあるかもしれないってこと?
この、きれいな顔をした女たらしを―――
確かに、お茶をたてている時の西門さんは、見惚れてしまうほどいい男だと思うけれど―――
「―――手始めに―――俺のことを、教えてやるよ―――」
耳元に甘い声で囁いて―――
そのまま、西門さんの顔が近付いてくる―――
あと1センチで唇に触れる、というところではっと我に帰る。
「わぁっ!!」
西門さんの胸を押し戻し、慌ててその場から飛び退くと、傍にあったバッグをひっつかんだ。
「お、お稽古ありがとうございました!!さよなら!!」
バタバタと、まるで逃げるように部屋を飛び出して。
西門邸の駐車場に待機していたリムジンに乗り込んだ頃―――
「ありゃあ、落とし甲斐があるぜ―――」
と言って西門さんが楽しそうに笑っていたことなど、あたしは知る由もなかった・・・・・。
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