-soujirou-
俺は、昨日牧野が類の両親と会うことになった経緯をかいつまんで話した。
どこから話をしようか悩んだが、親父は牧野と類が付き合ってたことも知ってる。 変に誤魔化して、後々牧野が責められたりするのも嫌だったので、以前牧野と類が付き合っていたことも、以前紹介したときのいきさつも話すことにした。
さすがに2人とも驚いてはいたが・・・・・
「じゃあ、花沢さんのご両親はまだあなたと牧野さんがお付き合いしていることを知らないのね」 お袋の言葉に、牧野は気まずそうに頷いた。 「はい。まさか、すぐに婚約なんてことになると思わなくて・・・・・・わたしが、浅はかだったと反省しています」 「いや、それは元はといえば総二郎が悪いだろう」 親父の言葉に、俺はちょっとむっとして顔を顰める。 「何で俺が―――」 「元はと言えば牧野さんがまだ類君とお付き合いしているときに彼女に恋人役なんかを頼んだからだろう。大方、何とかして牧野さんを自分に振り向かせようと企んだんだろう。そういえば、あの時まだ結婚する気はないと言いながら、大学を卒業したら結婚するのかと聞いたわたしに『彼女が承諾するなら』とか何とか、言ってたな。あれは遠まわしなプロポーズだったんじゃないのか?」 その親父の言葉に、牧野はえっと目を見開き、お袋もまあと驚いて俺を見る。
「―――あのなあ・・・・・」 俺は大きな溜息をつき、2人から視線を逸らすようにそっぽを向いた。 顔が熱くなって、たぶん赤くなっているだろうということが自分でもわかった。 「ああ、悪かったな。遠まわしすぎて、ご本人には伝わっていなかったのか」 にやりと、笑みを浮かべる親父。
―――くそ・・・・・いつか仕返ししてやる。
「とにかく、だ。そんな小細工をして牧野さんの気を引こうとしたお前が悪い。同じ状況で、まだ牧野さんを想っている類くんがお前と同じことを考えたとしたって、お前にそれを責めることはできないだろう」 親父のもっともな話に俺は溜息をつき、牧野がどうしたらいいかわからない様子で俺を親父の顔を交互に見ていた。 次に、口を開いたのはお袋だった。 「そうね。それについては仕方ないわ。牧野さんにとって、類さんが大切な存在だということも理解できます。でも現実問題として、牧野さんは今総二郎さんとお付き合いしているわけですから、類さんと婚約するわけにはいかないわ」 親父もその言葉に頷く。 「ああ。それで、2人で花沢さんのところに行って、どうするつもりだい?」 「本当のことを、話すつもりです。そして、きちんと謝りたいんです」 牧野の言葉に、親父は口に手をやり、暫く考えていたが・・・・・ 「―――君の気持ちは良くわかった。1つ、頼みがあるんだが」 「え・・・・・あたしに、ですか?」 牧野が不思議そうに首を傾げる。 「ああ。出来れば、わたしも一緒に行かせてくれないかね」 その言葉には、牧野だけではなく俺も驚いた。 「まあ、あなた―――」 お袋も、目を丸くしている。 「どういうつもりだよ?」 俺の言葉に、親父はちょっと肩をすくめ、 「牧野さんの力になりたいと思っただけだ。わたしは今まで好き勝手やってきて―――ずいぶん妻には気苦労をかけたと思っている」 「あなた―――」 「こういう特殊な世界をずっと見てきて、嫌気が差すことがずいぶんあった。そのたびにわたしは逃げて・・・・・面倒なことは妻に押し付けてきた。この家の当主として、貧乏くじを引いてしまったのは自分だと。運命に逆らえないのなら、せめて外の世界では好きなことをする権利があると、そんなふうに思っていた」 自嘲気味に話す親父を、お袋がなんともいえない表情でじっと見つめていた。 「だが、子供じゃあるまいし、この家から出ようと思えばいくらでもそうすることができたのに、そうしなかったのはなぜか・・・・・・牧野さん、昨日のあなたの話を聞いて、気付いたよ」 「あたしに・・・・・?」 「君は、総二郎のことを、とても好きだと言ってくれたね。自分から切り離すことはできないと。離れたくないと」 「はい・・・・・」 「わたしも、同じ気持ちなんだと思ったんだ」 そう言って、親父はお袋を見た。 「この家から出ないのは、家のためでも、子供たちのためでもない。自分のためなんだよ。わたしは・・・・・妻を愛してるんだ」 親父の言葉に、お袋が目を見開く。 「今更何を、と思うかもしれないが・・・・・私にとって妻はわたしから切り離せない存在・・・・・・。牧野さんが総二郎を思うのと同じように、わたしも妻のことを思っているということに、漸く気付いたんだ。家のためなんかじゃない。わたしが・・・・・・妻から離れられなかったんだと」 「あなた・・・・・」 お袋の瞳から、涙が一筋の涙が零れ落ちた。
長いことこの2人の息子をやっているけれど。 こんな2人の姿を見るのは初めてだった。
いつもお袋にも子供たちにも背を向け、何人もの愛人作っていた親父。 そんな親父を苦々しく思いながらも、何も言わずただひたすら家のために尽くしてきたおふくろ。
そんな2人から、愛情を感じることができず俺もまた、2人に背を向けていた。
「君が、気付かせてくれたんだ」 穏やかに微笑む親父。 そんな表情も、見たことがなかった―――。 「できれば、君にはずっと総二郎の傍にいてもらいたい。わたしと同じ道を・・・・・・家族に背を向ける道を進もうとしていた総二郎を変えてくれたのは君だ。君が総二郎の傍にいてくれるなら、わたしたちも嬉しい」 親父の言葉にお袋も頷き、牧野の方を見た。 「わたしも、そう思っています。あなたは―――我が家にとって、とても大切な人です」 「そんな、あたしはなにも―――」 恥ずかしそうに頬を染める牧野。 そんな牧野を見て、両親は目を細めていた。 「できるだけ、きみの力になりたいと思っているんだ。争いに行くわけじゃない。ただ、総二郎の親として・・・・・いずれ、君の義父になるものとして、花沢さんと、話がしたいんだ」
その言葉に牧野は頬を紅潮させ、目を瞬かせたのだった・・・・・・。
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