***火花 vol.7 〜総つく〜***


 -tsukushi-

 「こ、婚約!?」
 類の言葉に、あたしは思わず席を立ち、大きな声を上げてしまった。
「おい、どういうことだよ、それ」
 西門さんもさすがに表情を険しくする。
「ごめん、親父が勝手に話進めちゃって」
 類が珍しく困ったように髪をかきあげる。
「来月、大きなパーティーがあるんだけど」
「もしかして、あの合併の話か」
 横で聞いていた美作さんが聞くと、類が頷いた。
「ああ。その発表会見の席で婚約発表したいって」
「待てよ、まさかそれ、承諾したんじゃねえだろうな」
 西門さんの言葉に類は首を振った。
「まさか。最初から、結婚はまだ考えてないって言ってたんだから。でも、親父としては、婚約くらいしておいた方がいいと思ったらしくて」
「冗談じゃねえ。話が違うだろ?牧野を預けたのは見合いを断る為って言われたからだぜ。婚約なんて認めるわけにはいかねえ」
 厳しい口調の西門さんに、類も困ったような顔をする。
「わかってるよ。なんとか説得してみるけど・・・・・母親もそうだけど、何故か親父が牧野のことえらく気にいっちゃって。芯のある、頭のいい女性だって言ってたよ」
「ええ?」
 類の言葉にギョッとする。
 何しろ道明寺の母親には最後まで嫌われていたから、F4の親というだけで、条件反射的に緊張してしまうのだ。
 それがまさか、それほど気に入られることがあるなんて思いもしなかった・・・・・。

 とにかくもう一度話をしてみる、と言って類は大学を後にした。

 「しかしあの類の親父さんがね・・・・・大したもんだよ、牧野」
 美作さんの言葉にあたしは顔をしかめた。
「やめてよ、感心してる場合じゃないんだから。まさかこんなことになるなんて・・・・・」
 そのあたしの横で、西門さんが不機嫌そうに溜め息をついた。
「ったく・・・・・だから、最初から断っときゃよかったんだ」
「そんなこと言ったって・・・・・」
「大々的に婚約発表なんてことになったら、それこそ芝居だったなんて言い訳通らなくなるぞ」
 西門さんの言葉に、あたしはギュッと拳を握りしめた。
「総二郎、今牧野を責めたって仕方ないだろう。牧野のせいじゃねえんだから、お前はとにかく牧野の傍にいてやれよ」
 美作さんの言葉にも西門さんは溜息をつき、イライラと頭をかいた。

 その姿に、あたしの胸が嫌な音を立てる。

 あたしが、軽はずみにあんなことを引き受けなければ・・・・・

 西門さんは、始めから反対していたのに。

 このままじゃ、西門さんだけじゃなくって、類や類の両親も傷つけることになってしまう―――。

 そう思うといても立ってもいられなくて、あたしは席を立った。
「牧野?どこ行くんだ?」
 美作さんが声をかける。
「類の両親に、会ってくる」
 あたしの言葉に、美作さんと西門さんがぎょっとして目を見開く。
「なに言ってんだよ、お前!」
 そこを離れようとしたあたしの手を、西門さんが掴む。
「さっき、類が行ったばっかりだろ?今お前が行ってどうなるんだよ?」
「だって、あたしのせいで―――」
「牧野」
「あたし・・・・・類の両親を騙したんだよ。恋人の振りして―――」
「それは、類に頼まれたからだろ?」
「でも、騙してることに変わりない。あんなに・・・・・優しくしてもらったのに・・・・・・あたし、あの2人を傷つけちゃうんだよ」

 類の両親に会って、謝りたかった。
 ちゃんと会って、頭を下げなければいけないと、そう思った・・・・・。

 「・・・・・わかった。俺も一緒に行く」
 西門さんの言葉に、あたしは驚いてその顔を見上げた。
「西門さんが?」
「ああ。その前に―――お前に、付き合ってほしいところがある」
「え・・・・・?」


 2人で大学を出て西門さんの車で向かった先は、とある料亭だった。

 そこの女将らしき女性が出てきて、案内されるままに西門さんとともに中を進んでいく。

 いったい何があるんだろう?

 知らず、あたしは緊張していた。

 「お連れ様をお連れいたしました」
 1つの部屋の前で止まり、女将が中にそう声をかけると、襖を静かに開けた。
「あ―――」
 思わず、声を上げる。
 お膳の向こうに並んで座っていたのは、西門さんのご両親だったのだ―――。
「お袋が、昨日のお礼に牧野を招待したいって言ってたんだ」
 西門さんの言葉に、西門さんのお母さんがにっこりと微笑む。
「ごめんなさいね、突然。あまりかしこまらないで、気楽にしてちょうだい」
「母さん、悪い。実はあんまりゆっくりしてられないんだ」
「まあ」
「総二郎、どういうことだ?」
 西門さんのお父さんが口を開く。
 あたしは、戸惑いながら西門さんを見上げた。
「これから、俺たち類の両親のところに行かなくちゃならないんだ」
 西門さんの言葉に、ご両親は顔を見合わせる。
「花沢さんに?それはどうしてだ?」
「・・・・・父さんが、昨日類と一緒のところを見たって言っただろ?」
「ああ」
「昨日、牧野は類の両親と会ってたんだ」
 西門さんの言葉に、座っていた2人は顔を見合わせたのだった・・・・・。




  

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