-soujirou-
パタン。
パタン。
さっきから何度も繰り返している動作。
携帯電話を開いたり閉じたり。
イライラと落ち着かない俺を、あきらが呆れた表情で見てる。
「終わったら、電話来るんだろ?少しは落ち着けよ」 「・・・・・わかってる」 「少しは信用してやれって。類も牧野も、お前を裏切ったりしねえだろ?」 「わかってるって。信用はしてる。そういう問題じゃねえんだよ」 「じゃあどういう―――」 そこまで言いかけて、言葉を切る。 そして俺の顔をまじまじと見つめたかと思うと、ぷっと吹き出した。 「なんだよ」 「いや・・・・・。お前、マジで変わったよな」 「は?」 「類がどうとか、牧野の気持ちがどうとかじゃねえんだな。結局、牧野がお前以外のやつといるのが気にいらねえんだ。そうだろ?」 にやりと笑いながら俺を見るあきらのからかうような視線に、俺は堪らず視線を逸らす。 「そこまで独占欲の強いやつだとは知らなかったぜ。牧野もこれから苦労すんな」 「うるせーな。苦労なんて―――」 そう言いかけたとき、持っていた携帯が鳴り出し、着信を告げた。 「もしもし」 慌てて電話に出ると、少し驚いたような、牧野の声。 『早いね、出るの』 「たまたま、だよ。終わったのか?」 ニヤニヤと笑いながらこっちを見ているあきらに背を向け、そう聞く。 『えっと、それが・・・・・』 「何だよ?」 『夕食に、招待されちゃって・・・・・』 「はあ?断んなかったのか?」 『断り切れなくて・・・・・。帰りは、類に送ってもらうから』 なんとなく、嫌な予感がした。 「・・・・・類は?なんて言ってる?」 『ごめんって。適当に話し合わせてくれればいいって。久しぶりに時間が取れたんだから、たまには親に付き合えって言われて・・・・・。お父さんのほうはともかく、お母さんには弱いみたいで、類も困ってた』 「見合いの話はどうなった?」 『あ、それは大丈夫みたい。今回は見送るって言ってたから』 「ってことは、お前の役目は果たしたってことだろ?何とか断れねえのかよ」 『そんなこと言ったって・・・・・・。あ、類。ごめん、とにかくそういうことだから、またね』 「あ、おい―――」 気付けば、無機質なツーツーという音に、俺は舌打ちする。 「どうした?類と結納でもしてたか?」 あきらのジョークに、笑う気にもなれない。 「・・・・・類の両親と食事だと」 「へえ。ってことは気に入られたんだな、類の親に。あの気難しい親父さんにしちゃあ珍しいな」 それがまず気に入らなかった。 類の父親が、厳しい人間だってことは俺もあきらも昔から知ってる。 まだ小さかった俺らに対しても、甘い顔をしたことなんて一度もない。 その父親が、牧野を気に入ったとしたら・・・・・?
「・・・・・俺帰るわ」 席を立つ俺を、あきらが心配そうに見上げる。 「おい、大丈夫か?別に食事するだけなら心配するほどのことでもねえだろ?」 「わかってる。ちょっと用事思い出したから、帰るだけだよ」 そう言って手を振り、あきらの家を出る。
もちろん用事なんてない。 今日は牧野が来てから、一緒に食事にでも行こうと思っていたのだから。
家に帰ってからも何も手につかず、ベッドに横になり、ぼんやりと過ごす。
そのうちに、眠気が差してきてほんの少しウトウトとする。
―――コンコン
ドアをノックする音に、はっとして起き上がる。 「―――総二郎、いるか?」 「―――ああ、ちょっと待って」 体を起こし、ドアを開ける。
目の前に立っていたのは、父親だった。 「珍しいね。俺の部屋に来るなんて」 「少し、聞きたいことがある」 俺は部屋に父親を通し、自分はベッドに座った。 「何」 自慢じゃないが、物心ついた頃から父親と1対1で話したことなどほとんどない。 ましてや父親が俺の部屋に来たことなんて・・・・・。 「・・・・・お前がいつだったか、連れて来たお嬢さんがいただろう。なかなか礼儀正しい、気の強そうな―――」 「牧野のことか?」 「ああ、そんな名前だったか。その牧野さんとは・・・・・今でも付き合っているのか?」 「―――ああ」 正確には、付き合いだしたのはあの後なのだけれど・・・・・ 今はそんなことはどうでもいいだろう。 「付き合ってるよ。それがどうかした?」 「今日・・・・・彼女を見かけたよ」 「は?」 「類くんと一緒だった。きれいにドレスアップして・・・・とてもお似合いのカップルに見えた。どういうことなんだ?」 俺はその話に溜め息をつき・・・・・口を開いた。 「牧野と付き合ってるのは、俺だよ。類と牧野は・・・・友達だ。普通の友達とはちょっと違うかもしれないけど・・・・・なんて言うか・・・・・」 言いよどんでいると、父親がそんな俺を見て苦笑した。 「モトカレ、とか言うやつか」 そんな父親の言葉に目を丸くする。 「そんなに驚くな。わたしもだてに長く生きてない。そのくらいの言葉は聞いたことがある」 「へえ・・・・・そんなに若い彼女がいるとは知らなかったな」 俺の言葉に、父親は口の端をあげて笑った。 「―――お前には関係のないことだ。それより、大丈夫なのか、お前たちは」 その言葉に、俺は肩をすくめた。 「それこそ、あんたには関係ないことだろう」 そう言って父親を睨みつける。 父親も、俺の視線を受け止め・・・・・
暫く俺たちはそうして、睨み合っていた・・・・・
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