***火花 vol.3 〜総つく〜***


 -soujirou-

 パタン。

 パタン。

 さっきから何度も繰り返している動作。

 携帯電話を開いたり閉じたり。

 イライラと落ち着かない俺を、あきらが呆れた表情で見てる。

 「終わったら、電話来るんだろ?少しは落ち着けよ」
「・・・・・わかってる」
「少しは信用してやれって。類も牧野も、お前を裏切ったりしねえだろ?」
「わかってるって。信用はしてる。そういう問題じゃねえんだよ」
「じゃあどういう―――」
 そこまで言いかけて、言葉を切る。
 そして俺の顔をまじまじと見つめたかと思うと、ぷっと吹き出した。
「なんだよ」
「いや・・・・・。お前、マジで変わったよな」
「は?」
「類がどうとか、牧野の気持ちがどうとかじゃねえんだな。結局、牧野がお前以外のやつといるのが気にいらねえんだ。そうだろ?」
 にやりと笑いながら俺を見るあきらのからかうような視線に、俺は堪らず視線を逸らす。
「そこまで独占欲の強いやつだとは知らなかったぜ。牧野もこれから苦労すんな」
「うるせーな。苦労なんて―――」
 そう言いかけたとき、持っていた携帯が鳴り出し、着信を告げた。
「もしもし」
 慌てて電話に出ると、少し驚いたような、牧野の声。
『早いね、出るの』
「たまたま、だよ。終わったのか?」
 ニヤニヤと笑いながらこっちを見ているあきらに背を向け、そう聞く。
『えっと、それが・・・・・』
「何だよ?」
『夕食に、招待されちゃって・・・・・』
「はあ?断んなかったのか?」
『断り切れなくて・・・・・。帰りは、類に送ってもらうから』
 なんとなく、嫌な予感がした。
「・・・・・類は?なんて言ってる?」
『ごめんって。適当に話し合わせてくれればいいって。久しぶりに時間が取れたんだから、たまには親に付き合えって言われて・・・・・。お父さんのほうはともかく、お母さんには弱いみたいで、類も困ってた』
「見合いの話はどうなった?」
『あ、それは大丈夫みたい。今回は見送るって言ってたから』
「ってことは、お前の役目は果たしたってことだろ?何とか断れねえのかよ」
『そんなこと言ったって・・・・・・。あ、類。ごめん、とにかくそういうことだから、またね』
「あ、おい―――」
 気付けば、無機質なツーツーという音に、俺は舌打ちする。
「どうした?類と結納でもしてたか?」
 あきらのジョークに、笑う気にもなれない。
「・・・・・類の両親と食事だと」
「へえ。ってことは気に入られたんだな、類の親に。あの気難しい親父さんにしちゃあ珍しいな」
 それがまず気に入らなかった。
 類の父親が、厳しい人間だってことは俺もあきらも昔から知ってる。
 まだ小さかった俺らに対しても、甘い顔をしたことなんて一度もない。
 その父親が、牧野を気に入ったとしたら・・・・・?

 「・・・・・俺帰るわ」
 席を立つ俺を、あきらが心配そうに見上げる。
「おい、大丈夫か?別に食事するだけなら心配するほどのことでもねえだろ?」
「わかってる。ちょっと用事思い出したから、帰るだけだよ」
 そう言って手を振り、あきらの家を出る。

 もちろん用事なんてない。
 今日は牧野が来てから、一緒に食事にでも行こうと思っていたのだから。

 
 家に帰ってからも何も手につかず、ベッドに横になり、ぼんやりと過ごす。

 そのうちに、眠気が差してきてほんの少しウトウトとする。

 ―――コンコン

 ドアをノックする音に、はっとして起き上がる。
「―――総二郎、いるか?」
「―――ああ、ちょっと待って」
 体を起こし、ドアを開ける。

 目の前に立っていたのは、父親だった。
「珍しいね。俺の部屋に来るなんて」
「少し、聞きたいことがある」
 
 俺は部屋に父親を通し、自分はベッドに座った。
「何」
 自慢じゃないが、物心ついた頃から父親と1対1で話したことなどほとんどない。
 ましてや父親が俺の部屋に来たことなんて・・・・・。
「・・・・・お前がいつだったか、連れて来たお嬢さんがいただろう。なかなか礼儀正しい、気の強そうな―――」
「牧野のことか?」
「ああ、そんな名前だったか。その牧野さんとは・・・・・今でも付き合っているのか?」
「―――ああ」
 正確には、付き合いだしたのはあの後なのだけれど・・・・・
 今はそんなことはどうでもいいだろう。
「付き合ってるよ。それがどうかした?」
「今日・・・・・彼女を見かけたよ」
「は?」
「類くんと一緒だった。きれいにドレスアップして・・・・とてもお似合いのカップルに見えた。どういうことなんだ?」
 俺はその話に溜め息をつき・・・・・口を開いた。
「牧野と付き合ってるのは、俺だよ。類と牧野は・・・・友達だ。普通の友達とはちょっと違うかもしれないけど・・・・・なんて言うか・・・・・」
 言いよどんでいると、父親がそんな俺を見て苦笑した。
「モトカレ、とか言うやつか」
 そんな父親の言葉に目を丸くする。
「そんなに驚くな。わたしもだてに長く生きてない。そのくらいの言葉は聞いたことがある」
「へえ・・・・・そんなに若い彼女がいるとは知らなかったな」
 俺の言葉に、父親は口の端をあげて笑った。
「―――お前には関係のないことだ。それより、大丈夫なのか、お前たちは」
 その言葉に、俺は肩をすくめた。
「それこそ、あんたには関係ないことだろう」
 そう言って父親を睨みつける。
 父親も、俺の視線を受け止め・・・・・

 暫く俺たちはそうして、睨み合っていた・・・・・





  

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