「なんだよ、それ」 類の顔が、珍しく怒りの表情を浮かべていた。 手首を掴む手に、力がこもる。 「だって・・・・・」 「俺は、婚約なんかしてない。そう言っただろ?それとも俺の気持ちわかってて・・・・・からかってんの?」 その言葉に、慌てて首を振る。 「そんなんじゃ・・・・・!」 「俺は、ずっと牧野のことしか思ってない」 はっきりと言われた言葉に、あたしは思わず目を見開いた。 「この1年、俺がどんな思いでいたか。牧野のことを忘れようとして・・・・・でも忘れられなくて・・・・・・好きで、好きで、どうしようもなくて・・・・・会いたくて仕方なかった。でも、仕事を途中で放り出して帰ることは許されなくて・・・・・。もう、限界だった。あんたのいない毎日は。それで、何とか両親を説得して・・・・・漸く帰国できることになった。帰国したら、一番にあんたに会いたいって。会って、もう一度想いを告げたいって、それだけを考えてた。なのに・・・・・飛行機の中で見つけたあの週刊誌を見て・・・・・俺がどんな気持ちになったか、あんたにわかる?」 突き刺さるような、その熱い瞳に捕らえられて。 あたしは、何も言うことができなかった。 「俺のいない間・・・・・あんたの傍に総二郎が、他の男がずっとついてたことに、むかついてしょうがなかった。俺の知らないあんたを知ってる奴がいると思っただけで、冷静でなんかいられない」 「花沢類、あたしは・・・・・」 「俺の思いは変わらない・・・・・・。あんたがたとえ誰のものになっても・・・・・・」 「花沢類、あたしの話、聞いて」 あたしは必死で力を振り絞り、あたしの手首を掴んでいた類の手に、自分の手を重ねた。
―――今、言わなきゃ。
そう意思を決めて。 あたしは、真っ直ぐに類を見つめた。 「あたしが好きなのは、西門さんでも、他の誰でもない。あたしが好きなのは・・・・・・花沢類だよ」 その言葉に・・・・・・・ 類の瞳が、驚きに見開かれた。 「ごめん・・・・・。本当は、1年前に言いたかった。だけど、あの頃のあたしはまだ道明寺と別れて間もなくて・・・・・すぐに告白するのは、軽薄すぎるような気がしたの。もうずっと、類のことしか見てなかったのに・・・・・素直にそれを、言うことができなかった。それで、類を傷つけて・・・・・本当にごめんなさい。今度帰ってきたら、言わなきゃって思ってた。もし、もう花沢類の気持ちが変わってしまっていても・・・・・ちゃんと言わなきゃって―――」 手首を掴まれてた手の力が緩み、次の瞬間には、あたしは類の腕の中に抱きしめられていた・・・・・。
-rui- むかついてしょうがなかった。
真正面から向き合うことなんて今までなかった両親に何度も会い、説得を続けて・・・・・
漸く牧野に会えると、そう思ったのに。
飛行機の中で何気なく手に撮った写真週刊誌の記事に、俺の心が凍りついた。
―――総二郎と、牧野―――?
空港で、約束どおり俺を待っていた牧野。 だけど、俺は喜ぶことなんか出来なくて。 そして現われた総二郎。 殴ってやりたかった。 週刊誌の記事が間違いだと。あきらも一緒にいたのだと聞いても、100%信じきることが出来なかった。写真の中の牧野と総二郎は、本当の恋人同士のようで、間違いだったと言われても嫉妬してしまうほど親密そうに見えたから。 何よりも牧野を見つめる総二郎の目が、1年前とは違っているように見えた。 とても大切なものを見るような、優しい眼差し・・・・・。 総二郎という男は、あんな瞳をする奴だったか・・・・・・?
思わず自分の想いを吐露した俺に、牧野が告げてくれた言葉。
『あたしが好きなのは、西門さんでも、他の誰でもない。あたしが好きなのは・・・・・・花沢類だよ』
俺は、それを信じてもいい? もうずっと、離さなくてもいい・・・・・・? 気がついたら、牧野を抱きしめていた。
「牧野・・・・・もう1回、言って」 「え・・・・・?」 「俺のことを好きって、もう1回・・・・・」 俺の言葉に慌てだす、腕の中の牧野。 無駄だよ。離す気なんかないから。 「もう1回言ってくれたら・・・・・信じられる気がするから」 「・・・・・ほんと・・・・・?」 「うん」
それでも恥ずかしいのか、暫く躊躇した後に・・・・・ 漸く牧野が口を開いた。
「好き、だよ・・・・・・。あたしは、類が好き・・・・・大好き・・・・・」 背中に腕を回し、きゅっとしがみついて来る牧野。 かわいくて、愛しくて・・・・・。 「俺も・・・・・牧野が好きだ」 そう言ってまた牧野を抱きしめる腕に力をこめた。 「もう、離さないから、覚悟しといて。一生、捕まえておくから・・・・・」 「・・・・・うん・・・・・・花沢類・・・・・?」 「ん?」 牧野が、少し俺から体を離すと、そっと俺を見上げてくる。 「誕生日、おめでとう」 にっこりと微笑む牧野。 そうか・・・・・牧野に会えるって、それだけでいっぱいいっぱいで・・・・・忘れていた。 「忘れてた?」 くすくすと笑う牧野。 ちょっと悔しくて、再び牧野を腕の中に閉じ込める。 「・・・・・ありがとう」 「あのね、プレゼント・・・・・・」 「いらない」 「え?」 「牧野が一緒にいてくれれば良い」 「そんな!せっかく用意したのに・・・・・」 「・・・・・じゃ、1つリクエストしてもいい?」 牧野の顔をそっと覗き込む。 少し警戒するような表情。 「・・・・・何?」 「キス、してもいい?」 耳元に囁けば。 予想通り、真っ赤に頬を染め上げる牧野。 それでも逃げられる前に。 牧野の、柔らかい唇を奪う。 自分の誕生日プレゼント。 このくらいの我侭は、許されるよね?
そうして俺は、思う存分、その唇の甘さを堪能した・・・・・・。
唇を離したときには、俺たちの回りには人垣ができていて。 気付いた牧野が真っ赤になって逃げ出すのをまた捕まえる。 そうやって、何度でも捕まえるんだ。 牧野だけは、何があっても逃がさないよ・・・・・・。
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