-soujirou-
「なんかお前、感じ変わったな」 例の写真週刊誌を眺めながら、あきらが言った。 「は?何が?」 「この写真のお前、やたら甘い顔してんじゃん。牧野と2人になると、こんな顔するわけ?」 にやりと笑みを浮かべて。 俺は知らん顔してあさっての方を見る。 「・・・・・牧野も、一応女だし。その日は振袖なんか着てたから、女の扱いしてやってただけだよ」 「ふ〜ん?ま、良いけど。あれ、類?」 大学構内の芝生で話し込んでた俺たち。 そこへ、類がやってきた。 「何だよ、牧野と一緒じゃねえの?」 俺の言葉に、ちらりと視線を向けて、同じようにそこに座る類。 「・・・・・ここで、待ち合わせ」 「へえ。うまくいったんだな、良かったじゃん」 あきらがにやりと笑う。 「空港まで俺が行ってやった甲斐があったってことか?」 俺が言うと、類はまた俺に視線を向けた。 その視線が・・・・・さっきから微妙に鋭いよな。 「別に・・・・・。それに俺、まだ気を許したわけじゃないよ」 「なんだよそれ。説明しただろ?あきらと3人で行ったんだぜ、何も怪しまれるようなことねえよ」 「・・・・・それは事実だと思ってるけど、でも総二郎の気持ちは?」 類が、真っ直ぐに俺を見てくる。 「は?俺の気持ち?」 「少なからず・・・・・牧野に対して友情以上のものを持ってるんじゃないかってこと。100%ただの友達だって言い切れる?」 鋭い視線を俺に向けながら、そう聞いてくる類に、俺は目を逸らすことができず・・・・・ 「・・・・・牧野は、仲間だろ。友達以上の感情を持っていたとしたって、そんなの一時のことだ。最後には、仲間に戻るよ。一生・・・・大切な仲間として傍にいる」 その気持ちに、嘘はない。 牧野は友達であり、仲間であり・・・・・ そして、俺にとっては大事な女・・・・・。
正月に、振袖を着付けてやった。 遠慮するあいつを無理やり家に連れて行き、着付けからヘアーセットまでやらせて、出来上がりを見て・・・・・不覚にも見惚れてた俺。 自分のものに出来たらと、思わなかったわけじゃない。 だけど、あいつが思ってるのは俺じゃない。
類がどれほど牧野に惚れてるかってこともわかってる。 類は大事な親友だ。
『それでもし・・・・・玉砕しちまったら、俺のとこに来いよ。ちゃんと待っててやるから』
あの言葉を、牧野は友達として受け止めた。 その時点で、俺の立場は確定してるんだ。 今更、勝負に出ようなんて思わない。
「・・・・・俺は、もう牧野から離れるつもりはないよ。誰にも・・・・・渡すつもりはない」 真剣な類の目に、俺は苦笑した。 「んなこと、わかってるよ。2人の間に入り込もうなんて、命知らずなこと考えてねえから安心しろ。俺はただ、牧野の力になりたかっただけだ。それは、これからだって変わらない。あいつが助けを必要としたときは、どんなところへだって駆けつけるよ」 「・・・・・じゃあ、そんなことにならないように気をつければいいのかな、俺は」 ふっと、肩の力を抜くように微笑む類。 俺もつられて笑った。 「そういうことだな。あいつを・・・・・牧野を、幸せにしてやれよ」 返事をする代わりに、類は笑みを深くして俺を見返した。 言葉にしなくても、伝わる思いがある・・・・・・。 俺たちは、親友だからな。
「牧野、来たぜ」 あきらの声に、俺たちは顔を上げた。 牧野が、ちょっと息を切らしながらこちらへ駆けて来るところだった。
「おはよう、牧野」 類がにっこりと微笑む。 それを見て、牧野がほんのりと頬を染める。 牧野がこんな反応をするのは、類にだけだ・・・・・。 「よお、俺たちもいるんだけど。しかとかよ?」 にやりと笑ってそう声をかけると、はっとしたように俺を見る牧野。 「そ、そんなんじゃないよ。あ・・・・・西門さん、昨日はありがとう・・・・・」 少し照れながらも、そんなふうに言ってもらえるのは素直に嬉しい。 「いーや?あのくらいお安い御用。また、ピンチのときはいつでも呼びな、お友達料金で出向いてやるよ」 「友達からお金とるの?」 渋い顔の牧野。 そんな表情さえかわいく見えるんだから、俺も相当イカレてる。 「だから、お安くしといてやるよ。1回につきデート1回。どう?」 「それはいや」 顔を顰めて即答。 まったく・・・・・俺って結構かわいそう。
類が無表情のまますっと立ち上がると、牧野の腕を取った。 「牧野、行こう」 「あ、うん。じゃあね、西門さん、美作さん、また」 「おう、またな」 「類、今度飲みに行こうぜ」 「ああ」 そう言って、類は俺たちに背を向けたけれど・・・・・ 目が合った瞬間、類の瞳に嫉妬の影が見えた気がした。
穏やかそうに見えて、実は情熱を秘めてる奴、だよな。 牧野限定だろうけど・・・・・・。
「・・・・・暇だな。遊びに行くか?総二郎」 あきらが空を見上げて言う。 こいつは、いつも何も言わなくても何かを感じ取り、さりげなく気を使うんだよな・・・・・
「・・・・・ああ」 俺たちは立ち上がり、そのままキャンバスを後にしたのだった・・・・・。
fin.
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