-soujirou-
あきらの見送りに空港へ行って、牧野にキスしようとしてるあきらが目に入って。 反射的に体が動いてた。
本気でキスしようとしたわけじゃなくても、ああいう場面は見たくないと思うのが当たり前だろう。
自分自身、こんなに嫉妬深かったのかと驚くほどだ。 あきらが見えなくなってからも名残惜しそうにそっちの方をじっと見つめる牧野にちょっとイラッとしてしまう。 「いつまで見てんだよ」 そう言っておでこを弾いてやる。 「いたっ。もう、何すんの」 涙目で俺を睨みつける牧野。 全く、自覚がないってのは恐ろしいぜ。 「また、3ヶ月もしたら帰って来んだろ。そんな寂しそうな顔すんなよ」 「わかってるよ。ただ、無理して体壊したりしないといいなと思っただけ」 「・・・・・あっそ。なあ、何か食ってかねえ?俺、朝から何も食ってなくて腹減ってんだけど」 「いいけど・・・・・。なんかこないだから、西門さんと会うと何か食べてばっかりいるみたい」 クスッとおかしそうに笑う牧野。
俺としちゃあ少しでも長く牧野と一緒にいたいと思うからこそなんだけど、こいつにはそんな微妙な男心は分かんねえだろうな。 ま、分かんなくていいんだけど・・・・・
「お前、パスタ好き?こないだも食ってたよな」 空港の中のレストランで、おいしそうにパスタを頬張る牧野を見て言った。 「うん、大好き」 にっこりと笑って答える牧野が、すごくかわいかった。 「じゃ、今度うまいパスタの店に連れてってやるよ」 「え、ほんと?」 途端にその大きな瞳を輝かせる牧野。まるで少女のような無邪気な反応に、俺の胸がときめく。 「ん、ほんと。その代わり、デートしようぜ」 続いた俺の言葉に、顔を引き吊らせる牧野。 「何だよ、その顔。別にデートくらいいいだろ?ホテル行こうって言ってるわけじゃねえんだから」 「あ、当たり前でしょ!何言ってんのよ、もう」 ホテルという言葉に過剰に反応して真っ赤になる牧野。
―――ほんと、見てて飽きないやつだよな。
そんなところが男心を惹き付けてるんだって、本人は全く気付いてないんだろうけど・・・・・
「あのな、別に今すぐ答えなんか求めてねえって言ってんだろ?あんまり構えんなよ。こっちがやりづれえ」 溜め息とともに言えば、牧野がちょっと申し訳なさそうにうつむく。 「ごめん」 「謝ることはねえけどよ。ほら、だから、あきらといるときみたいにしててくれればいいんだって」 「美作さんと?」 「そ。あいつと居るときは、もっと自然に話してるだろ?」 「そりゃ、まあ。けど、美作さんと西門さんじゃ違うし」 そう言って首を傾げる牧野に、ちょっとむっとする。 「違うって、どこが?」 「どこがって・・・・・うまく言えないけどさ。高校生のときなんかはよく一緒にいたし、同じように女好きなイメージがあったんだけど・・・・・」 「おい」 「だって、しょうがないじゃない。でも、美作さんと2人で飲みに行ったりするようになって、初めて気付いたこととかもあったよ。美作さんて、基本気遣いの人だから、あたしといるときにはあたしを1番にエスコートしてくれるし、他に女の人が近くにいても知らん顔してるし」 「そりゃ、当たり前だろ」 「あと・・・・・美作さんは、あたしが言いたくないことは聞かないで居てくれる。多分、話せばちゃんと聞いてくれるんだろうけど・・・・・・でも、言いたくない、と思ってるとさりげなく話を逸らせて気を紛らわせてくれて・・・・・・。美作さんといるとあたし、すごく気持ちが楽になる」 やわらかい表情で、牧野が微笑む。 男として見てはいなくても、牧野にとってあきらが特別な存在なんだってことが、わかるようだった。 なんだか悔しくて、俺は牧野の顔から目を逸らした。 「・・・・・じゃ、俺は?」 「え?」 「俺は、お前の目にどう見えてる?」 そう聞いてみると、牧野はちょっと戸惑ったように目を瞬かせた。 「西門さんは・・・・・よく、わからないよ」 「なんだよ、それ」 ちょっとがっかりして溜息をつく。 あきらとはずいぶん違わねえ? 「だって・・・・・昔の西門さんの印象って言ったら何十股もかけてるような女たらしで、お調子者で、すぐ人のことからかうような・・・・・ある意味女の敵ってイメージだったから」 「・・・・・すげ、最悪」 「でも、再会してからはちょっと変わったよ」 フォローするように慌てて身を乗り出す牧野。 「変わったって、どんな風に?」 「ホテルで会ったときのこと、覚えてる?あたしが言ったこと」
―――西門さんって意外とピュアっていうか・・・・・・真剣な恋愛を求めてるのかなって・・・・・
あの言葉で、俺は見合いをやめたんだ。覚えてないわけがない。
「もちろん」 「あれはね、高校生のときからなんとなく感じてたことなの。さっき言った、女の敵みたいなイメージって、西門さんが自分で作ってるものなんじゃないかなって感じてたから。本当はきっと、周りが思ってるよりもまじめなんじゃないかなって。それが、大人になってちゃんと見えてきたっていうか・・・・・なんか、ソフトな感じになったなって」 「・・・・・俺、そんなに尖ってたか?」 結構ショック。 学生のころ、そりゃあ今に比べればガキだったろうけど、それでも牧野に指摘されるほど子供っぽかったんだろうか。周りの人間よか大人のつもりだったんだけど・・・・・ 「尖ってたっていうのかな。変に大人ぶってたというか、本心見せないところあったじゃない?それが時々近づきがたい壁を作ってた気がするけど、今はその壁がなくなったみたいな感じがするの」 「ああ、そういうことか・・・・・・。ま、そりゃあ俺だってただ年とったわけじゃねえし。確かに最近は素直になったかもな。多分・・・・・失恋したせいかな」 「失恋?西門さんが?」 牧野がきょとんとして首を傾げる。
失恋、て言うんだろうな、あれも一応。
まるで10年も前のことのように、俺は更のことを思い浮かべた・・・・・
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