-akira-
俺の役目は牧野を見守ること。 いつの頃からかそう思っていた。 ホテルで働いてるあいつを見かけて、たまに飲みに行ったりするようになって。 好きだと思ったこともあった。 いや、正確には今でも好きなんだけど、好きの意味が違う。 女として好きだったのはほんの一瞬。 その後は友達ともちょっとちがう、家族のような感じで、とても大切な存在だと俺は思ってる。 類と何かあったんだろうってことはすぐにわかった。 それも、牧野にとって相当辛いことだったんだろうということは容易に想像できたから、俺はそれ以上は追求しなかった。 時間が解決してくれることだってある。だからそっとしておいたんだけど・・・・・ 久しぶりに総二郎に会って、牧野のことを聞かれた時に、そう言えば話してなかったなと思った。 特に意識してるつもりはなかった。故意に避けてるつもりもなかったんだけど・・・・・ でももしかしたら。 少し秘密にしておきたいっていう気持ちがあったのかもしれない。 俺と牧野がこんなふうに会ってるなんて、誰も想像しないだろうから。 2人だけの秘密なんて、ちょっと面白いよな。
意外だったのは、総二郎が牧野に惚れてるらしいってこと。 F4きってのプレイボーイのやつは、どんなイイ女にも本気にならない。それはやつなりの哲学でもあり、いつかは親の決めた相手と結婚しなければならないという運命への諦めでもあった。 その総二郎が見合いをぶち壊した。しかも牧野と再会したその時に、だ。 最初はまさかと思ったけれど・・・・・。 俺と牧野の関係を知って嫉妬する総二郎を見て、確信した。 牧野と総二郎。なんとなく変わった取り合わせだと思ったけど・・・・・ マジな総二郎の顔見てたら、それも良いかもしれないと思った。 恋愛経験の豊富なあいつなら、牧野の苦しみを取り除いてやることができるかもしれない。 そんな気がしたから・・・・・。
俺が日本を発つ日、空港まで見送りに来た牧野が、恨めしそうに俺を見て言った。 「美作さん、知ってたんでしょ」 その表情で、だいたい何があったのか分かる。 「ん?何が?」 わざと分からない振りをして聞いてやる。 「西門さんのこと!わざと2人にしたでしょ」 「なんだよ、告白でもされた?」 その言葉に真っ赤になる牧野。 全くわかりやすいやつだ。 「ぶっーーーーくっくっく・・・・・お前、分かりやす過ぎ」 「な・・・・・何よ、だって美作さんが―――」 「まあ、そう怒るなって。これでもお前の為を思ってやってんだぜ」 そう言って頭をぐしぐしとなでてやると、ちょっと迷惑そうにしながらも、頬を赤らめ俺を見上げる。 「総二郎と話して、ちょっとすっきりしたとこもあるんじゃねえの?」 「まあ、ね・・・・・でも、あたしはまだ・・・・・」 「いいんだよ、焦んなくて。ただ、苦しくなったらあいつを頼れよ。結構頼りになるから」 「・・・・・美作さんだって、頼りになるよ?」 俺に気を使ってるのか、そんな風に言ってくれるのが嬉しくて、上目使いに俺を見つめる顔が可愛くて、ついからかいたくなる。 「じゃあ、総二郎やめて俺にする?」 そう言って顔を近付ける。 「へ・・・・・?」 真っ赤になって固まる牧野。 早く逃げてくれないと、マジでキスしちゃいそうなんだけど・・・・・。 そう思いながらもそのまま唇に触れそうな距離まで近づく・・・・・
と、そこで突然おでこをグイッと押され、よろける。 「うあっと・・・・なんだ、総二郎いたのか」 牧野の後ろに、いつの間に来たのか相当不機嫌な顔をした総二郎が立っていた。 こいつとの付き合いも長いけど、これほど不機嫌な顔は見たことがないかもしれない。 「西門さん!」 牧野も驚いて振り向く。 「いたのか、じゃねえよ。何してんだよ、このスケベ」 不機嫌に低い声でそんな風に言われても、ビビリはしない。 つうか、逆になんかおもしろいものが見れて得した気分だ。 「スケベって、何言ってんのよ、西門さん!」 牧野のほうがむっとして顔を顰めてそんなことを言うもんだから、余計に総二郎の機嫌が悪くなる。 「お前も、何してんだよ!あきらとキスするつもりか?」 その言葉に、牧野の顔が真っ赤になる。 「な、何言ってんのよ!あたしは―――」 「まあまあ、待てよ牧野。総二郎もそんなに怒るなって」 俺がそう言うと、総二郎が俺をじろりと睨みつける。 「あきら、お前やっぱり・・・・・・」 「バカ、勘違いすんな。このくらいでむきになるなって。キスくらい、目くじら立てるほどのことじゃねえだろ」 わざと挑発するようににやりと笑ってやると、牧野は真っ赤になり、総二郎は額に血管を浮かび上がらせた。
―――おもしれえな・・・・・。当分このネタで笑えそうだ。
「あきら・・・・・お前、俺で遊んでんだろ」 総二郎が顔を引きつらせながら言う。 「まあな。おもしれえな、お前。結構独占欲強いんじゃん」 「・・・・・うるせえよ」 ぷいっと背けられた総二郎の頬が、微かに染まっていた。 牧野の顔を見ると、心底驚いた表情で総二郎を見ている。 でも、その顔は別に嫌がってるわけでもなく・・・・・総二郎と同様、微かに染まった頬は、これからの2人の未来を予感させているようだった。 「ま、がんばれよ。今度帰ってくるころには、もう少しその距離が縮まってることを期待するよ」 そう言って、総二郎と牧野の間の10cmほどの隙間を指差した。 「美作さん!」 頬を赤らめ、文句を言おうとする牧野のおでこを、指でピンとはじく。 「心配すんな。ちゃんと俺が見守っててやるから。甘えたいときは、無理しないで甘えろよ」 そう言って、俺は牧野の頬に軽く触れるだけのキスをすると、素早く牧野から離れて搭乗ゲートに向かった。 「じゃあな!総二郎、牧野を泣かすなよ」 「わかってるよ」 何か言いたげな総二郎の顔を見てにやりと笑い。 俺は2人に向かって手を振ると、そのまま向きを変えて歩き出したのだった・・・・・・。
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