***Fantasista vol.17***



 -soujirou-

 俺は驚く牧野の腕を掴み、自分のほうへ引き寄せた。
「ちょっ、西門さん!?」
「行くな!!」
「は!?」
 目を丸くして、俺を見上げる牧野。
 傍にいた天草が、俺の出現に驚いて呆然と突っ立っていた。
「ちょっと待って。何言ってんのよ?」
「だから、N.Y.になんか行くなって言ってんだよ」
「って言われても・・・・・もうすぐ時間なんだけど。ねえ?」
 そう言って、牧野は天草の方へ視線をやる。
 天草が苦笑して肩を竦める。
 たったそれだけのことなのに、腹が立ってしょうがない。
「どこにもやらない。俺は、この手を離すつもりはねえからな」
 掴んだ手に、力をこめる。
「ちょっと、痛い・・・・・」
 牧野が顔を顰める。
 それを見た天草が、間に入ってきた。
「おい、乱暴はやめろよ。痛がってる」
 掴んでいた手の力を少し弱め・・・・俺は天草を睨みつけた。
「あんたが何者かは知ってるけど・・・・・こいつだけは、渡せない。悪いけど、N.Y.へは行かせられない」
 その言葉に・・・・・
 なぜか2人は目を瞬かせ、顔を見合わせた。
「どういうこと?」
 牧野が首を傾げる。
「それは俺が聞きたい。こいつと一緒にN.Y.へ行くって、どういうことだよ」
 俺の言葉に牧野はますます首を捻り・・・・・・そして何か思い当たったように目を見開き、俺を見た。
「あのさ・・・・・あたしがN.Y.に行くって、美作さんに聞いたの?」
「ああ。そうだけど・・・・・」
 俺が頷くと、牧野は大きな溜息をつき天を仰いだ。
「もう、美作さんてば・・・・・」
「おい、何だよ。どういうことだ?」
 何がなんだかわからない。
 なぜか少し赤い顔で、牧野が俺を困ったように見つめる。
「つくし。もうすぐ時間だ。もう行かないと・・・・・」
 天草が、牧野に言う。
 が、牧野はちょっと考えるように俺を見つめ、それから天草の方に向き直った。
「・・・・・金さん、ごめん。あたしやっぱりいけない」
 その言葉に、天草はまるでわかってたとでも言うようにふっと笑い、肩を竦めた。
「O.K.じゃ、俺は行くよ。もし向こうに来ることがあったら、店に寄ってくれよな」
「うん。ほんとにごめん。がんばってね。あや乃さんにもよろしく」
 そう言って手を振る牧野。
 天草も笑顔で手を振り、ちらりと俺に意味有り気な視線を投げた後、搭乗口へと歩いていってしまった・・・・・。
 そのあまりにもあっさりした様子に、俺が呆気に取られていると牧野がくるりと俺の方に向き直った。
 少し呆れたような顔。
 まるで言うことを聞かない子供を見るような・・・・・・・。
「・・・・・らしくないよ」
 その言葉に、俺がむっとして
「うるせえよ、そんなことわかってる。けど俺は―――」
 と言いかけると、牧野は首を振って溜息をついた。
「そうじゃなくって。こんな手に引っかかるなんて」
「・・・・・どういう意味だよ?」
「・・・・・あのさ、どっか入らない?気が抜けたら、なんかお腹すいてきちゃった」
 そう言ってにっこりと微笑む牧野。
 何がなんだかわからないけれど・・・・・
 その笑顔がかわいかったので、素直に従うことにした。


 「―――で、俺が何に引っかかったって?」
 レストランに入り、牧野がいつものようにパスタを頼む。
 お腹が空いていたのは本当のようで、夢中で食べる牧野。
 そして5分ほどでそれを平らげたあと―――俺は漸く話を切り出すことが出来た。
「―――美作さんに話聞いたとき、おかしいと思わなかった?」
「は?」
「大体、いくら西門さんと喧嘩したからって、どうしてあたしが金さんと手に手を取ってN.Y.に行かなきゃならないのよ」
「って・・・・・だってお前、実際N.Y.に行くはずだったんじゃ・・・・・」
「そうだよ。ただし、3日間だけね」
「・・・・・3日・・・・・?」
「そ。明日が、金さんのお店のオープン初日なの。で、それに招待されたの。お寿司、好きなだけ食べていいから来ないかって。で、その後はちょっとお店のお手伝いして・・・・・帰ってくる予定だったの」
「手伝いって・・・・・・・」
「・・・・・・基本、夫婦2人でやる予定のお店だからね、現地のスタッフは雇わないんだって。でもそれじゃあきっと最初は大変でしょ?少しでも手伝えないかなって思ったの」
「ちょっと待て、夫婦って・・・・・・あいつはまだ独身だろ?そのくらい俺だって知ってるぜ」
 有名な代議士の息子だ。婚約だの結婚だのって話になってれば俺の耳にも入ってくるはずだ。
「だから、今後よ。ご両親との約束なんですって。今まで勝手やってきたからって・・・・・・最後の我侭だって言ってた。N.Y.の店を2人でやって行くことができたら、1年後にあや乃さんと結婚するって・・・・・」
「じゃ・・・・・そうか、あきらのやつ・・・・・」
 漸く気付いた。
 あきらのやつに、嵌められたってことに。
 きっと牧野にこないだの話も聞いてて、思いついたんだろう。
 あきらならではの、気の利かせ方ってところか・・・・・・
「あきらのやつ・・・・・・・」
 思いっきり溜息をつく。
 そんな俺を見て、牧野はちょっと笑って・・・・・・そして少し頬を赤らめて、口を開いた。
「でも・・・・・来てくれて、嬉しかった」
 その言葉に、俺のほうが驚く。
「は・・・・・?」
「こないだ・・・・・類の見送りに来た日。西門さん、言ってたでしょ?『あきらの留守の間、お前のこと頼まれてるしな』って。それ聞いて・・・・・ちょっとがっかりしてたの。あたしの傍にいてくれるのは、美作さんに頼まれたからなのかなって・・・・・」
 あの時の、自分のセリフを言われて思い出す。
 そういえばそんなこと言ったけど。
「そんなこと・・・・・俺の気持ちは知ってるだろ?」
「うん。でも・・・・・・本当は言うほど好きじゃないのかなって・・・・・・そう思ったら、なんだかがっかりして・・・・・自分でも意外なほど、落ち込んでたの。だから・・・・・」
 恥ずかしそうに頬を染めて話す牧野が。
 夢なんじゃないかって、思えた・・・・・・





  

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