***Fantasista vol.18***



 -soujirou-

 あきらにはしてやられた。
 だけど、結果的には良かったんだと思う。
 たった3日間だって言われたって、俺に黙って他の男とN.Y.に行くだなんて、納得できるわけがない。
 たとえ結婚が決まってる男だとしたって、許せるわけなかった・・・・・。

 「俺には、お前がいなきゃダメなんだ」
 俺の言葉に、牧野の頬が染まる。
「でも・・・・・お前の気持ちを無視することはできないから・・・・・時間がかかっても、待ってようと思ったんだ。お前の気持ちが俺に向くまで・・・・・。時間がかかってもいい・・・・俺の方に振り向いてもらえるなら。そう思ってたけど」
「西門さん・・・・・」
「だけど、あいつが・・・・・天草が現われて、焦っちまった。あんなふうにお前のことを名前で呼ぶほど親しいんだと思ったら、むかついて・・・・・我慢できなかった。自分でもこんなに嫉妬深かったなんて呆れるけど。もう、抑えが利かなかった。俺はあきらみたいに大人じゃねえからな。他の男に持ってかれて黙ってることなんて出来ねえ。それでも・・・お前を傷つけるようなこと言って・・・・・・ごめん」
 その言葉に、牧野が首を振る。
「傍に・・・・・いて欲しい。お前の気持ちが、ちょっとでも俺に向いてるなら・・・・・ずっと傍にいてくれないか・・・・・?もう、絶対に傷つけたりしない。ずっと・・・・・大事にするから・・・・・」
 そう言って、牧野の手を握る。
 牧野はその瞳を俺に向け・・・・・
 ふわりと、花が綻ぶように微笑んだ。
「うん・・・・・。あたしも、西門さんの傍にいたい・・・・・西門さんと一緒に・・・・・」
「牧野・・・・・」


 「それにしても、何で電話にも出ないわけ?さすがに嫌われたかと思って焦ったんだぜ」
 帰りの車の中で。
 俺の言葉に、牧野はちょっと困ったような顔をした。
「だって・・・・・美作さんに話したら、俺がいいって言うまで電話には出るなって・・・・・」
 その言葉に、また溜息が出る。
「あいつ!俺が焦ること知ってて・・・・・」
「心配、してくれたんだよ。毎日電話して来てくれて・・・・・。美作さんと話してるうちに、あたしも自分に素直になれるようになった気がするもん」
「ふーん、毎日ね・・・・・」
 あきらにとって牧野は特別。
 牧野にとってもあきらは特別。
 そこに恋愛感情はなくたってやっぱりおもしろくない。

 会いたくて仕方なかったのに。
 声が聞きたくて仕方なかったのに。
 そう思ってるのはやっぱり俺だけだって、思い知らされた気がする。
 
 牧野は、俺に会えなくたってなんとも思ってない。
 俺と離れることに、寂しさなんか感じない。

 そう思うと、切なさがこみ上げる。

 「だけど・・・・・本当はもっと早く会いたかったな」
 ポツリと呟かれた言葉に、俺は思わずブレーキを踏む。
「きゃあっ、ちょっと、何で急に止まるの!!」
 バランスを崩した牧野が、前のガラスに頭をぶつけそうになって悲鳴を上げる。
「あ・・・・わりい。大丈夫か?」
「大丈夫だけど・・・・・どうしたの?急に」
「今の・・・・・聞き間違いじゃないよな?」
「今のって?」
 牧野がきょとんと首を傾げる。
「だから・・・・・もっと早く会いたかったって」
「ああ・・・・・だって、喧嘩したままなんて、気分悪いし。あのままN.Y.に行ったら、どうなっちゃうんだろうって不安だった。そのまま、忘れられちゃうのかなって・・・・・5年も会ってなかったのに、ほんの少しの間会えないだけで・・・・・忘れられたらどうしようって、不安になったの。そしたら、そのまままた会えなくなって・・・・・それで終わっちゃうのかなって思ったら、悲しくなっちゃって・・・・・」
 照れくさそうに、だけどちょっと寂しそうに目を伏せて話す姿が見ていられなくて、気付いたときには抱きしめてた。

 「俺は・・・・・お前を忘れたりしない」
「西門さん・・・・・・」
「たとえお前が俺を忘れても・・・・・・忘れない。絶対に。お前にも、思い出させてやる。俺っていう男を・・・・・」
「あたしも・・・・・忘れないよ」
「ごめん・・・・・本当はすぐにでも会いに行きたかったのに・・・・仕事が忙しくって・・・・でもそんなもの放り出して、会いに行けばよかった。そしたらそんな・・・・悲しそうな顔、させずに済んだのに・・・・・ごめん・・・・・」
 牧野は何も言わなかった。
 でも、その手をゆっくりと俺の背中に回し、きゅっとしがみついた。
「仕事なら、しょうがないよ。大丈夫・・・・・あたし、もう怒ってないから・・・・・だって、あれはただのヤキモチでしょ?」
 そう言って少し顔を上げて、上目遣いに俺を見上げる。
 その瞳にはいたずらっぽい光。
「違う?」
「あたり・・・・・・ったく・・・・・お前にはかなわねえよ・・・・・」
 顔が火照る。
 赤くなった顔を見られたくなくて、牧野の頭を抱え込むように抱きしめる。
「うぷっ、ちょっと、西門さん」
「今はまだ見るな」
「・・・・・いつまでこのまま?」
「もう少し・・・・・・」
「・・・・・西門さんの、顔が見たいな・・・・・・・」
「ドキッとするようなこと言うなよ・・・・・・いつからそんな駆け引きみたいなことするようになった?」
「誰かさんを見習ったの」
「嘘つけ。あきらの入れ知恵だろ」
 くすくすと笑う気配。
「またヤキモチ?」
「そうだよ。お前と会って、俺は妬いてばっかりだ。少しは察してくれよ」
「うん、だから・・・・・顔、見せてよ」
 俺はそっと、腕の力を緩めた。
 牧野が俺から離れて、そっと俺を見上げる。
「顔、赤いだろ?」
「うん。でも・・・・・そういう顔も、かっこいいよ」
 そう言って、牧野はその手を伸ばし、そっと俺の頬に触れた。
「そういう顔・・・・・あたしだけが知ってたい・・・・・・これからも、ずっと・・・・・」
 そうして、牧野はそっと顔を近づけて、俺に触れるだけのキスをした。

 時間が、止まったかと思った。
 身動きが出来なかった。
 夢でも、見ているのかと・・・・・

 「西門さんが、好きだよ」
 囁かれた言葉が、甘く俺の胸を締め付ける。

 気がついたら牧野の体を引き寄せて、唇を奪っていた。
 何度も、確かめるように深く口付ける。
 
 離したくなくて・・・・・・
 そのまま、全てを奪いつくすようなキスをした・・・・・。

 「愛してる・・・・・」
 キスの合間に何度も囁いて・・・・・・

 そのまま、永遠の愛を誓った・・・・・。



                            fin.







お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪