-soujirou-
あきらにはしてやられた。 だけど、結果的には良かったんだと思う。 たった3日間だって言われたって、俺に黙って他の男とN.Y.に行くだなんて、納得できるわけがない。 たとえ結婚が決まってる男だとしたって、許せるわけなかった・・・・・。
「俺には、お前がいなきゃダメなんだ」 俺の言葉に、牧野の頬が染まる。 「でも・・・・・お前の気持ちを無視することはできないから・・・・・時間がかかっても、待ってようと思ったんだ。お前の気持ちが俺に向くまで・・・・・。時間がかかってもいい・・・・俺の方に振り向いてもらえるなら。そう思ってたけど」 「西門さん・・・・・」 「だけど、あいつが・・・・・天草が現われて、焦っちまった。あんなふうにお前のことを名前で呼ぶほど親しいんだと思ったら、むかついて・・・・・我慢できなかった。自分でもこんなに嫉妬深かったなんて呆れるけど。もう、抑えが利かなかった。俺はあきらみたいに大人じゃねえからな。他の男に持ってかれて黙ってることなんて出来ねえ。それでも・・・お前を傷つけるようなこと言って・・・・・・ごめん」 その言葉に、牧野が首を振る。 「傍に・・・・・いて欲しい。お前の気持ちが、ちょっとでも俺に向いてるなら・・・・・ずっと傍にいてくれないか・・・・・?もう、絶対に傷つけたりしない。ずっと・・・・・大事にするから・・・・・」 そう言って、牧野の手を握る。 牧野はその瞳を俺に向け・・・・・ ふわりと、花が綻ぶように微笑んだ。 「うん・・・・・。あたしも、西門さんの傍にいたい・・・・・西門さんと一緒に・・・・・」 「牧野・・・・・」
「それにしても、何で電話にも出ないわけ?さすがに嫌われたかと思って焦ったんだぜ」 帰りの車の中で。 俺の言葉に、牧野はちょっと困ったような顔をした。 「だって・・・・・美作さんに話したら、俺がいいって言うまで電話には出るなって・・・・・」 その言葉に、また溜息が出る。 「あいつ!俺が焦ること知ってて・・・・・」 「心配、してくれたんだよ。毎日電話して来てくれて・・・・・。美作さんと話してるうちに、あたしも自分に素直になれるようになった気がするもん」 「ふーん、毎日ね・・・・・」 あきらにとって牧野は特別。 牧野にとってもあきらは特別。 そこに恋愛感情はなくたってやっぱりおもしろくない。
会いたくて仕方なかったのに。 声が聞きたくて仕方なかったのに。 そう思ってるのはやっぱり俺だけだって、思い知らされた気がする。 牧野は、俺に会えなくたってなんとも思ってない。 俺と離れることに、寂しさなんか感じない。
そう思うと、切なさがこみ上げる。
「だけど・・・・・本当はもっと早く会いたかったな」 ポツリと呟かれた言葉に、俺は思わずブレーキを踏む。 「きゃあっ、ちょっと、何で急に止まるの!!」 バランスを崩した牧野が、前のガラスに頭をぶつけそうになって悲鳴を上げる。 「あ・・・・わりい。大丈夫か?」 「大丈夫だけど・・・・・どうしたの?急に」 「今の・・・・・聞き間違いじゃないよな?」 「今のって?」 牧野がきょとんと首を傾げる。 「だから・・・・・もっと早く会いたかったって」 「ああ・・・・・だって、喧嘩したままなんて、気分悪いし。あのままN.Y.に行ったら、どうなっちゃうんだろうって不安だった。そのまま、忘れられちゃうのかなって・・・・・5年も会ってなかったのに、ほんの少しの間会えないだけで・・・・・忘れられたらどうしようって、不安になったの。そしたら、そのまままた会えなくなって・・・・・それで終わっちゃうのかなって思ったら、悲しくなっちゃって・・・・・」 照れくさそうに、だけどちょっと寂しそうに目を伏せて話す姿が見ていられなくて、気付いたときには抱きしめてた。
「俺は・・・・・お前を忘れたりしない」 「西門さん・・・・・・」 「たとえお前が俺を忘れても・・・・・・忘れない。絶対に。お前にも、思い出させてやる。俺っていう男を・・・・・」 「あたしも・・・・・忘れないよ」 「ごめん・・・・・本当はすぐにでも会いに行きたかったのに・・・・仕事が忙しくって・・・・でもそんなもの放り出して、会いに行けばよかった。そしたらそんな・・・・悲しそうな顔、させずに済んだのに・・・・・ごめん・・・・・」 牧野は何も言わなかった。 でも、その手をゆっくりと俺の背中に回し、きゅっとしがみついた。 「仕事なら、しょうがないよ。大丈夫・・・・・あたし、もう怒ってないから・・・・・だって、あれはただのヤキモチでしょ?」 そう言って少し顔を上げて、上目遣いに俺を見上げる。 その瞳にはいたずらっぽい光。 「違う?」 「あたり・・・・・・ったく・・・・・お前にはかなわねえよ・・・・・」 顔が火照る。 赤くなった顔を見られたくなくて、牧野の頭を抱え込むように抱きしめる。 「うぷっ、ちょっと、西門さん」 「今はまだ見るな」 「・・・・・いつまでこのまま?」 「もう少し・・・・・・」 「・・・・・西門さんの、顔が見たいな・・・・・・・」 「ドキッとするようなこと言うなよ・・・・・・いつからそんな駆け引きみたいなことするようになった?」 「誰かさんを見習ったの」 「嘘つけ。あきらの入れ知恵だろ」 くすくすと笑う気配。 「またヤキモチ?」 「そうだよ。お前と会って、俺は妬いてばっかりだ。少しは察してくれよ」 「うん、だから・・・・・顔、見せてよ」 俺はそっと、腕の力を緩めた。 牧野が俺から離れて、そっと俺を見上げる。 「顔、赤いだろ?」 「うん。でも・・・・・そういう顔も、かっこいいよ」 そう言って、牧野はその手を伸ばし、そっと俺の頬に触れた。 「そういう顔・・・・・あたしだけが知ってたい・・・・・・これからも、ずっと・・・・・」 そうして、牧野はそっと顔を近づけて、俺に触れるだけのキスをした。
時間が、止まったかと思った。 身動きが出来なかった。 夢でも、見ているのかと・・・・・
「西門さんが、好きだよ」 囁かれた言葉が、甘く俺の胸を締め付ける。
気がついたら牧野の体を引き寄せて、唇を奪っていた。 何度も、確かめるように深く口付ける。 離したくなくて・・・・・・ そのまま、全てを奪いつくすようなキスをした・・・・・。
「愛してる・・・・・」 キスの合間に何度も囁いて・・・・・・
そのまま、永遠の愛を誓った・・・・・。
fin.
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