***Fantasista vol.11***



 -soujirou-

 牧野の気持ちが、俺に向いてるかどうかはわからない。
 嫌われてはいないんだろうけど・・・・・
 きっとまだ、恋愛の対象、っていうのではないんだろうなってことはわかる。

 まあもちろん、だからって諦める俺じゃないけど。


 「あれ、また来たの」
 そろそろ終わるころだろうと思ってホテルの前で待っててみれば、この態度・・・・・。
「あのな・・・・・その言い方はねえだろ。せっかく送ってやろうと思って待っててやったのに」
「だって・・・・・」
「良いから乗れよ。ここにいると邪魔になる」
 そう言ってドアを開け、牧野を押し込む。
 多少強引な手を使わないと、こいつには通じないんだってことは経験上わかっている。

 「さて、飯でも食いに行くか」
「は?」
「こないだ行ってたパスタの店、連れてってやるよ」
「・・・・・なんか、西門さん、最近強引になってない?」
「お前にはこれくらいがちょうどいい」
 そう言ってにやりと笑って見せると、牧野の顔が引きつる。
「そんな顔すんなって。いきなりホテル連れ込むようなことはしねえから」
「わかってるけど・・・・・・」
 牧野が頬を染めて視線を逸らす。
 こういう純情なところは相変わらずで・・・・・・
 そんな牧野に、やばいくらいにどんどん嵌ってる俺がいる。

 「あれ、メール?」
 牧野のバッグから、微かにバイブの振動音が聞こえる。
「あ、ほんとだ。マナーにしたままだったから・・・・・」
 牧野がバッグの口を開け、中から携帯電話を取り出した。
 その液晶画面を見た牧野の表情が、一瞬で強張る。
「・・・・・牧野?どうした?」
 真っ青な牧野の顔。
 ただ事じゃない。
「・・・・・・・が」
「え?」
「・・・・・類、が・・・・・・」
「!!」
 俺は、車を停止させ、路肩の寄せると牧野の手から携帯を取った。
 画面には『花沢類』の文字。
 折りたたみ式の携帯をゆっくりと開く。

 「・・・・・帰ってくる」
「え・・・・・・」
「明日・・・・・日本に帰ってくるって・・・・・。牧野・・・・・・お前に、会いたいって・・・・・」
 牧野は、俺の言葉にゆっくりと首を振った。
「会えないよ・・・・・・あたし・・・・・あたしは・・・・・・」
「牧野」
 俺は牧野を抱き寄せた。
 牧野の肩は震えていた。
「どうしよう・・・・・あたし・・・・・・」
「落ち着けよ。・・・・・・なあ、お前には酷かもしれないけど・・・・・・類に会えよ」
 俺の言葉に、牧野がびくりと震え、俺を見上げる。
「どうして・・・・・」
「お前がそんな状態なら、なおさらだ。一度類とちゃんと話さないと、先に進めないんじゃないか?類を傷つけたと思ってるままじゃ・・・・・次に進めない。違うか?」
「・・・・・・でも・・・・・・・」
「俺がついてる」
 俺は、牧野の黒い髪を優しく撫でた。
「俺が、傍にいる。何があっても、お前を守るから。だから・・・・・会ってこいよ。そして・・・・・戻って来い」

 類に会ったら、牧野はどうするだろう。
 類は、何のために牧野に会いに来るんだろう。
 牧野は・・・・・戻ってくるだろうか・・・・・

 不安がないわけじゃない。
 だけど、この問題をクリアにしなきゃ、きっと牧野は俺と向き合うことはできないだろう。
 きっといつまでも類とのことを引きずるはずだ。
 だから・・・・・・

 「西門さん、あたし・・・・・」
「・・・・・大丈夫。俺が、ついてる。必ず、傍にいるから」
 抱きしめる腕に力を込める。
 本当は行って欲しくない。
 ずっとこのまま、この腕の中に閉じ込めていたい。
 でも、それじゃあきっと牧野は俺のものにはならない・・・・・。


 『で、牧野はいつ類と?』
 翌日、俺のメールを見たあきらが電話を寄越した。
「明日。今日はあいつも忙しいらしい。明日、夜6時にホテルのレストランで待ち合わせだって」
『・・・・・・お前は、どうすんの』
「とりあえず、ホテルのバーにでも行って時間を潰すよ。牧野には、話が終わったら電話しろって言ってある」
『・・・・・俺には、何もしてやれない。あいつを、頼むぜ』
 電話の向こうにいるあきらの心配する声が俺の耳に響き、その心配する気持ちが伝わってくる。
「・・・・・ああ、わかってる。あいつの、あんな辛そうな顔は俺ももう見たくねえよ」
 あいつを、守りたい。
 あいつを守るのは、いつでも俺でありたい。
 心の底から、そう思ってるんだ・・・・・。

 ホテルまで送ると言った俺に、牧野は首を振った。
「大丈夫。ちゃんと行けるから・・・・・。西門さんが言ってくれた事・・・・・嬉しかった。このままじゃ、前に進めないって。あたしもそう思ったから・・・・・・ちゃんと、話してくるね」
 そう言って微笑んだ牧野を、抱きしめたくなる。
 でも今そうしたら、離せなくなりそうで・・・・・・

 俺はただ、牧野を見送ることしか出来なかった・・・・・・




  

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