-soujirou-
牧野の気持ちが、俺に向いてるかどうかはわからない。 嫌われてはいないんだろうけど・・・・・ きっとまだ、恋愛の対象、っていうのではないんだろうなってことはわかる。
まあもちろん、だからって諦める俺じゃないけど。
「あれ、また来たの」 そろそろ終わるころだろうと思ってホテルの前で待っててみれば、この態度・・・・・。 「あのな・・・・・その言い方はねえだろ。せっかく送ってやろうと思って待っててやったのに」 「だって・・・・・」 「良いから乗れよ。ここにいると邪魔になる」 そう言ってドアを開け、牧野を押し込む。 多少強引な手を使わないと、こいつには通じないんだってことは経験上わかっている。
「さて、飯でも食いに行くか」 「は?」 「こないだ行ってたパスタの店、連れてってやるよ」 「・・・・・なんか、西門さん、最近強引になってない?」 「お前にはこれくらいがちょうどいい」 そう言ってにやりと笑って見せると、牧野の顔が引きつる。 「そんな顔すんなって。いきなりホテル連れ込むようなことはしねえから」 「わかってるけど・・・・・・」 牧野が頬を染めて視線を逸らす。 こういう純情なところは相変わらずで・・・・・・ そんな牧野に、やばいくらいにどんどん嵌ってる俺がいる。
「あれ、メール?」 牧野のバッグから、微かにバイブの振動音が聞こえる。 「あ、ほんとだ。マナーにしたままだったから・・・・・」 牧野がバッグの口を開け、中から携帯電話を取り出した。 その液晶画面を見た牧野の表情が、一瞬で強張る。 「・・・・・牧野?どうした?」 真っ青な牧野の顔。 ただ事じゃない。 「・・・・・・・が」 「え?」 「・・・・・類、が・・・・・・」 「!!」 俺は、車を停止させ、路肩の寄せると牧野の手から携帯を取った。 画面には『花沢類』の文字。 折りたたみ式の携帯をゆっくりと開く。
「・・・・・帰ってくる」 「え・・・・・・」 「明日・・・・・日本に帰ってくるって・・・・・。牧野・・・・・・お前に、会いたいって・・・・・」 牧野は、俺の言葉にゆっくりと首を振った。 「会えないよ・・・・・・あたし・・・・・あたしは・・・・・・」 「牧野」 俺は牧野を抱き寄せた。 牧野の肩は震えていた。 「どうしよう・・・・・あたし・・・・・・」 「落ち着けよ。・・・・・・なあ、お前には酷かもしれないけど・・・・・・類に会えよ」 俺の言葉に、牧野がびくりと震え、俺を見上げる。 「どうして・・・・・」 「お前がそんな状態なら、なおさらだ。一度類とちゃんと話さないと、先に進めないんじゃないか?類を傷つけたと思ってるままじゃ・・・・・次に進めない。違うか?」 「・・・・・・でも・・・・・・・」 「俺がついてる」 俺は、牧野の黒い髪を優しく撫でた。 「俺が、傍にいる。何があっても、お前を守るから。だから・・・・・会ってこいよ。そして・・・・・戻って来い」
類に会ったら、牧野はどうするだろう。 類は、何のために牧野に会いに来るんだろう。 牧野は・・・・・戻ってくるだろうか・・・・・
不安がないわけじゃない。 だけど、この問題をクリアにしなきゃ、きっと牧野は俺と向き合うことはできないだろう。 きっといつまでも類とのことを引きずるはずだ。 だから・・・・・・
「西門さん、あたし・・・・・」 「・・・・・大丈夫。俺が、ついてる。必ず、傍にいるから」 抱きしめる腕に力を込める。 本当は行って欲しくない。 ずっとこのまま、この腕の中に閉じ込めていたい。 でも、それじゃあきっと牧野は俺のものにはならない・・・・・。
『で、牧野はいつ類と?』 翌日、俺のメールを見たあきらが電話を寄越した。 「明日。今日はあいつも忙しいらしい。明日、夜6時にホテルのレストランで待ち合わせだって」 『・・・・・・お前は、どうすんの』 「とりあえず、ホテルのバーにでも行って時間を潰すよ。牧野には、話が終わったら電話しろって言ってある」 『・・・・・俺には、何もしてやれない。あいつを、頼むぜ』 電話の向こうにいるあきらの心配する声が俺の耳に響き、その心配する気持ちが伝わってくる。 「・・・・・ああ、わかってる。あいつの、あんな辛そうな顔は俺ももう見たくねえよ」 あいつを、守りたい。 あいつを守るのは、いつでも俺でありたい。 心の底から、そう思ってるんだ・・・・・。
ホテルまで送ると言った俺に、牧野は首を振った。 「大丈夫。ちゃんと行けるから・・・・・。西門さんが言ってくれた事・・・・・嬉しかった。このままじゃ、前に進めないって。あたしもそう思ったから・・・・・・ちゃんと、話してくるね」 そう言って微笑んだ牧野を、抱きしめたくなる。 でも今そうしたら、離せなくなりそうで・・・・・・
俺はただ、牧野を見送ることしか出来なかった・・・・・・
|