***Dress vol.4 〜類つく〜***



 プロムの会場には、ぞくぞくと卒業生がパートナーとともに入場してきていた。

 その会場に、滋や和也とともにやってきていた桜子が、周りを見渡す。
「先輩、まだ来てませんね。道明寺さんも・・・・・一緒に来るんでしょうか」
「ニッシーやアッキーもいないよ。つくしと一緒かな」
「花沢類は?どこにいるかわかったのかな」
 心配する3人をよそに、会場がざわつき始める。

 「何事?」
 桜子の声に3人は顔を上げ、入り口の方へ視線を向ける。
 そこから入ってきたのは―――

 
 「道明寺さん!?」
 司が、シルバーグレーのスーツを身につけ、会場に現われたのだ。

 周りを圧倒するようなオーラを振りまきながら、会場の中央を割って近づいてくる司に、3人は声も出せず見惚れていた・・・・・。

 「牧野はどこだ?」
 険しい表情の司。
「先輩は、まだ来てません」
「司、一体どうしたの?類くんは?」

 そのときだった。
 再び会場内がざわつき、入口付近にいた人波がかき分けられる。

 「あれは―――」
 桜子が驚きに目を見開く。

 そこにいたのは、デザイナーズスーツで決めた総二郎とあきら。
 そしてその2人に挟まれるようにして立っていたのは、薄紫のシルクのドレスに身を包んだつくしだった・・・・・。

 「うわ、つくしキレー!」
 思わず滋が感嘆の声を上げる。
 桜子や和也もつくしに見惚れていた。

 そんな中、司が大股に3人の方へ歩いて行き、つくしの前に立った。

 「てめえ、どういうつもりだ」
 ジロリとつくしを睨みつけるのを、つくしはまっすぐに受け止めた。
「なんで俺が送ったドレスを着て来なかった?」
「花沢類との約束だから。あんたからもらったドレスは着ないって」
 つくしの言葉に、司の表情が一層険しくなる。
「花沢の家がどうなってもいいのか」
 司の言葉に、つくしはちょっと小首を傾げた。
「あたしには、わからない。もっとわからないのはあんたよ、道明寺。親友を人質にするなんて、あんたらしくない」
 その言葉に、司の肩がピクリと震える。
「あたしはただ、自分に正直でいたいだけ。花沢類が好きだから、花沢類にもらったドレスを着たかった。花沢の為にあんたがくれたドレスを着たって、花沢類は喜ばない」
 きっぱりと言いきったつくしを、司はじっと見つめた。
「あんたの家の事情はあたしにはわからないよ。でもそれは、こんなことをしなきゃいけないものなの?親友を傷つけてまでやらなきゃいけないことなの?」
 つくしの意思の強い瞳が、射るように司を見つめる。
「司」
 総二郎が口を開いた。
「悪いけどいろいろ調べさせてもらったぜ。今お前のとこが厳しい状況なのはわかった。花沢が今手掛けてるものから手を引かなければますますやばくなるってことも」
 その話に司がふっと下を向く。
「だけど花沢だって、同じような状況だ。ここで手を引いたら経営状態の悪化は目に見えてる。これはあくまでも想像だけど、お前はそれに反対したんじゃねえのか?親友を破滅させるようなこと、お前がするわけない。だけど、そこで条件を出された。それが、牧野のことだ。違うか?」
 司は押し黙ったままだ。
 あきらが後を続けた。
「花沢の撤退に協力するなら牧野との結婚を認める。おばさんにそう言われたんじゃねえのか?それでこんなことを」
「でも、間違ってるよ、道明寺」
 つくしの瞳が悲しげに揺れた。
「たとえ言う通りにあたしがあんたと一緒になったとしたって、心は言う通りになんかならない。あたしの気持ちまでは手に入れることはできないんだよ」
「おばさんはそこまで読んでると思うぜ?結局あの人は牧野を認める気なんかないんだ。お前だってわかってるんじゃねえのか?」
 あきらの言葉に司は溜め息をつき、ゆっくり顔を上げた。
「―――ああ、その通りだよ。けど俺は・・・・・それでも牧野とやり直したかった。あの時のことをずっと後悔してた。だから・・・・・できることならお前と・・・・・あのN.Y.で別れた時からやり直したかったんだ」
「道明寺・・・・・。だけどもう、時を戻すことはできないんだよ」
 つくしの言葉に、司は力なく笑った。
「そうだな。全く、何やってんだか、俺は。情けねえ」

 その時、いつの間にか司の後ろに立っていた秘書の西田が司に歩み寄った。
「司様」
 その声に司が振り向き、その耳に西田が何事か耳打ちする。

 司の表情が、どこか複雑なものに変わる。
 それはほっとしているようにも見えた。

 「―――類を、解放した」
 その言葉に、つくしたち3人は顔を見合わせた。
「どういうこと?」
「お袋が類の親父と話した。撤退せず、共同出資を申し出てきたって。その条件として出してきたのが類の解放と、牧野・・・・・お前から手を引くことだそうだ」
「あたしから・・・・・?」
「類の親父曰く、類は牧野以外の女と一緒になる気はないと言ってるから、牧野と別させるようなことがあれば、類が花沢を継ぐこともなくなってしまうだろうってさ。お前らの言う通り、お袋にとっちゃあビジネスさえうまくいけば牧野のことはどうでもいいんだ。あっさりO.K.してこの話はおしまいだ」
 司が両手を上げ、降参のポーズを作る。
「花沢類は・・・・・」
「うちの車で今、こっちに向かってる。30分以内には着くはずだ」
 司の言葉に、つくしはほっと胸を撫で下ろした。
「よかった・・・・・」
「司、お前はどうするんだ?」
 あきらの言葉に、司は肩をすくめた。
「俺は帰る。類に殴られたかねえからな」
 そう言って、司はつくしを見つめた。
「―――お前に会えてよかったよ。おかげですっきりした。これでもう迷いはねえ」
「道明寺・・・・・」
「類に、謝っといてくれ」
「自分で言いなよ」
「いや、もう時間がねえ。じゃあな」
 それだけ言うと、司は3人に背を向け、西田を従え歩いて行ってしまったのだった・・・・・。







  

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