卒業式前日。
登校したつくしを待っていたのはあきらと総二郎だった。
「どうしたの?」 2人の真剣な表情に、何かただならぬものを感じたつくし。 あきらと総二郎は顔を見合わせ、あきらが口を開いた。 「牧野、落ち着いて聞けよ」 「だから、なに?」 「類が、いなくなった」 あきらの言葉に、つくしの顔がサッと青くなる。 「なに、それ?」 「これ、見てみろ」 そう言って総二郎が差し出した手紙のような紙を受け取り、開いて見る。
その内容を見て、つくしは愕然とした。 その内容とは―――
―――花沢類の身柄を拘束した。 類を自由にして欲しければ次の条件をのむこと。
1.牧野つくしが指定のドレスを着用し、プロムに出ること。 2.牧野つくしが道明寺司と共にN.Y.に行くこと。 3.牧野つくしは二度と花沢類に会わないこと。
以上。
守らなければ、花沢に未来はない。―――
「めちゃくちゃだぜ」 あきらが首を振って溜め息をついた。 「これ・・・・・花沢の家に?」 つくしの言葉に総二郎が頷いた。 「大騒ぎになってる。田村さんに、類の両親に知らせるのは待ってもらってるけど・・・・・時間の問題だろう」 「牧野・・・・・どうする?」 「どうするって・・・・・」 つくしは、突然の出来事に頭を抱えた。
―――まさか、道明寺がこんなことをするなんて・・・・・
「だけど、何か変だと思わねえか」 あきらの言葉に、つくしは顔を上げる。 「何が?」 「この文章だよ。あの司が、こんなもん書けると思うか?」 その言葉に、総二郎とつくしは顔を見合わせる。 「そういやあそうだな。あの司がこんなもん・・・・・」 「それに、あいつらしくない。こんなこと考えるなんて・・・・・」 そうだ。 改めて見てみれば、文字はワープロの文字だから筆跡などはわからないが、どう考えてもあの司がこんな文章を考えられるはずがないと思えた。 「どういうこと・・・・・?」 つくしの言葉に、総二郎とあきらは顔を見合わせた。 「やっぱり、母親か」 「だろ。ただ、何で母親がこんなことしてるのかだ。あれだけ司と牧野のことに反対しておいて、何で今更こんなこと・・・・・・」 「わかんないけど・・・・・・今更、あの魔女があたしのこと認めるとは思えないよ。何か別の理由があるような気がする」 「言えるな。けどとりあえず類をどうにかしないと。プロムは明日だぜ?どうするんだ」 あきらに聞かれ、つくしは眉を顰めた。 「あたしが・・・・・道明寺に贈られたドレスを着なきゃいけないんだよね?」 「ああ。けど、それだけじゃすまないんだぜ。おそらくそのままN.Y.へ連れて行かれることになる。そうしたらたぶん、そう簡単には日本へ帰ってこれなくなっちまう」 あきらの言葉に、つくしは困ったように首を振った。 「そんなこと、無理。そんなふうに向こうへ連れて行かれたって、あたしは道明寺とやり直すことなんて出来ない。あたしが道明寺について行くとしたら、それは類のため。そんなことで元に戻ったって・・・・・あいつが納得するとは思えない」 「・・・・・司の意思じゃないとしたら?」 総二郎が、眉間に皺を寄せ、そう口を開いた。 「どういう意味だ?」 「全て、あの母親の企みってことは考えられないか?どうも司がこんなことするとは思えねえ。あいつは馬鹿だけど、親友や・・・・惚れた女を傷つけるようなこと、できるやつじゃねえ。母親に・・・・利用されてるんじゃねえのか?」 「・・・・・だとしたら、狙いは何だ?」 「調べてみようぜ。たぶん・・・・・花沢の家に関係あるんじゃねえか?田村さんは何も言ってなかったけど・・・・・もしかしたらもう、類の両親は知ってるのかもしれない。司の母親の方から、何か言ってきてる可能性がある」 「目的は・・・・・花沢の家ってこと・・・・・?」 つくしの顔が強張る。 「そのために、お前を手に入れることを条件に司を利用してる・・・・・とは考えられないか?目的が達成されれば、お前は必要ない。あの母親のことだ、お前が司の元から去ることは計算済み。そうなったとしても司は道明寺から出ることはできないから、自分の思い通りに出来ると踏んでる・・・・・。だけどそんなことになったら、花沢の家だってもうお前を受け入れないだろう」 総二郎の言葉に、あきらが悔しそうに舌を鳴らす。 「くそっ、なんてこった・・・・・。とにかく俺は類の行方を調べる。総二郎」 「ああ、俺も行く。牧野、お前は・・・・・家にいろ。何かわかったら知らせるから。いいか、下手に動くなよ?」 そう言うと、2人はつくしを置いて行ってしまった・・・・・。
つくしは家に戻ると、司から贈られてきたドレスを前に、じっと考え込んでいた。 N.Y.まで司を追いかけていったつくしを、冷たく追い返した司。 後でわかったことは、やはりあれは道明寺楓の指示だったということ。 あそこでつくしを追い返し、1年間我慢すれば自由にしてやるという取り引きをしたのだという。 だけど、それを聞いてももうつくしは司の元へ戻る気にはなれなかった。 傷つき、魂が抜けてしまったかのようだったつくしを救ったのは類だ。 その類の優しさに癒され、そしてつくしを強く思う心が、つくしの心を動かしたのだ。 漸く立ち直ったつくしが、必要としたのは司ではなく、類だった・・・・・。
「花沢類・・・・・。あたしはいつもあなたに助けられてた・・・・・・。今度は・・・・・あたしが、あなたを助ける番だよね・・・・・」
そう呟き、つくしはドレスを手に取った・・・・・。
翌日。 卒業式に出席していない類の噂で、学校内は騒然としていた。 そんななかあきらと総二郎は沈黙を守り、つくしとともに裏庭にいた。
「類が道明寺の手の内にいることは確かだけど、その居場所まではわからねえ」 悔しそうにあきらが唇を噛む。 「半端じゃねえよ、道明寺楓は」 総二郎も溜息をつく。 「牧野、お前プロムどうするんだ?ドレス・・・・・」 総二郎の言葉に、つくしは顔を上げ、にこりと笑った。 その笑顔に、あきらと総二郎は顔を見合わせる。 「ちゃんと着るよ、ドレス」 「・・・・・何、考えてる?」 つくしの落ち着いた様子に、逆に心配になるあきら。 「下手なことすんなよ?余計にこじれる」 総二郎も不安な様子でつくしを見る。 そんな2人を、相変わらず笑顔で見返すつくし。 「あたしが考えてるのは、1つだけ・・・・・。花沢類のことだけ、だよ」
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