「司から、ドレスが送られてきたって?」 学校へ行くと、なぜか総二郎がつくしの教室へ来ていた。 「―――情報、早いね」 「昨日、類に電話したら様子が変だったから問い詰めた。あいつ、本当にプロムに来るのか」 総二郎の言葉に、つくしは肩をすくめた。 「そう言ってたけど・・・・・。それより、西門さんがいるとかなり注目集めるんだけど」 ちらりと周囲を見渡す。 遠巻きに、総二郎を見つめる視線。と、自分を睨みつける視線。 「なら、ちょっと出ようぜ。詳しく話せよ」 「別に、話すことなんて・・・・・」 「いいから、来いって」 そう言って、つくしの手を引き歩き出す総二郎。 つくしは、クラスメイトたちの刺すような視線の中、総二郎に手を引かれ教室を出て行ったのだった・・・・・。
「N.Y.へ連れて行く、か。あいつも諦めわりいな」 2人で屋上の手すりにもたれ、話していた。 「だけど、今更そんなこと言われたってあたしが行くわけないのに」 「・・・・・何か、考えがあるのかもしれねえな」 「何かって?」 「さあ。てか、司だけで考えたのかな、それって」 総二郎の言葉に、つくしは目を瞬かせる。 「どういう意味?」 「司のやつが、お前を諦めてなかったとしたって・・・・・あの母親がお前をN.Y.に連れて来る事なんて許すと思うか?」 総二郎が、じっとつくしを見る。 「お前と司を引き離したのは、あの母親だ。その母親が、簡単にそんなこと許すわけない」 「母親は、知らないんじゃ・・・・・」 「プロムに出ることを、知らないわけないだろ?司の気持ちくらいあの母親なら気付いてるはずだし、それを知ってて司を好きにさせるはずない。何か、理由があるんだよ」 そう断言する総二郎を、つくしは少し不安げな表情で見上げた。 「んな顔するな。あいつがなに企んでようと、お前がちゃんと類のことを思ってるなら何の心配もねえだろ?」 ピンと、おでこを弾かれる。 「たっ」 おでこを痛そうに抑えるつくしに、くすりと笑う総二郎。 「もう、未練はねえんだろ?司に」 「当たり前―――」
「牧野」
屋上の入口に、類が立っていた。 「よお、類。よくここがわかったな」 総二郎を軽く睨み、近づいてくる。 「牧野のクラスに行ったら、総二郎と一緒に出てったっていうから・・・・・。探したよ」 「何だよ、別に俺が攫ってきたわけじゃねえぜ。昨日の司の話をもっと詳しく聞きたかっただけだ」 総二郎が、手を上げて少し後ろに下がる。 「・・・・・もう終わった?」 類の言葉に、困ったように肩をすくめる。 「ああ。じゃあおれはもう行くよ。じゃあな、牧野」 「うん」 つくしに軽く手を振り、プラプラと長い足を持て余すように歩いていく総二郎の後姿を見送って・・・・・ 「―――油断できないな」 ポツリと呟く。 そんな類をつくしは不思議そうに見つめた。 「何のこと?」 類はそんなつくしを見て、小さく溜息をつく。
少しは自覚して欲しいものだと、思ってはいても口には出さないでおく。 言っても無駄だとわかっているから・・・・・。
つくしが司と別れてから。 類はずっとつくしと一緒にいた。 つくしを守りたい。 つくしの傍にいたい。 それだけを考えていた。 総二郎とあきらは司のこともあり、最初は静観していた。 だがそのうち2人を応援してくれるようになったのだが・・・・・ つくしと付き合うことになって、類は気付いた。 総二郎とあきらがつくしを見つめている瞳が、以前と違うことに・・・・・。
「今日、放課後大丈夫?」 類の言葉に、つくしはにっこりと微笑み頷いた。 「うん。ドレスドレスが届くんでしょ?」 「うん。気に入ってくれるといいんだけど」 「それは大丈夫。それよりも、あたしに似合うかが心配」 「それなら大丈夫。絶対に似合うから」 そう言って自信ありげに微笑む類に、つくしは照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑み返した。
「お帰りなさいませ。届いておりますよ。例のもの」 類がつくしを伴い家へ戻ると、いつもどおり家政婦の辻が出迎えた。 「部屋に?」 「はい、置いてございます」 「わかった。おいで、牧野」 「うん。辻さん、こんにちは」 「いらっしゃいませ」 すっかり顔なじみになった辻と笑みを交わし、類について屋敷内を歩く。 花沢家の使用人の名前は全て覚えられるほどここにも顔を出すようになった。 皆好意的で、心配していた類の両親も、類からつくしの話を聞いて会うのを楽しみにしているということだった。
類の部屋に入ると、ベッドに大きな箱が置いてあるのが目に入った。
類が近づき、箱を開けた。 中から出てきたのは、鮮やかな薄紫の光沢のあるシルクのドレスだった。 「うわ・・・・・すごい、きれいな色・・・・・・こんなの、初めて見る」 つくしは頬を紅潮させ、目を丸くしてそのドレスに魅入っていた。 その姿を見て、類が満足そうに微笑む。 「着てみてよ」 「あ・・・・・う、うん。じゃ、類後ろ向いてて」 「何で?」 「何でも!ほら早く!」 つくしにぐいぐいと背中を押され、類は仕方なくつくしに背を向けた。
―――今更・・・・・。もう何度も見てるのに・・・・・
そんなことを思って、類はふっと笑みを浮かべた・・・・・。
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